遺跡から王国に戻ってきた2人は、ツボの鑑定をしたのち冒険者ギルドへとやって来た。
「はあー……たったこれっぽっちか……」
フランクは不満そうにお金の入った袋を右手で小さく上に上げては掴むを繰り返す。
「文句を言わない、売れただけマシだろ? ……あ」
ギルド内に入った早々、シーラの足が止まる。
「ん? どうした?」
シーラは顎で受付のカウンターを指す。
そこにはツバメに絡んでいるアッシュの姿があった。
「……毎回毎回よく飽きねぇなぁ、あいつ」
「まったくだよ」
2人は呆れながら受付カウンターへと近づいた。
「なぁーなぁーまじめな話、そろそろ俺様をBランクに……いや、実力的に飛び級でAランクにしてもいいんじゃないかな?」
その言葉にツバメは手に持っていた書類を読むのをやめ、アッシュ相手に珍しく顔を上げた。
「……はい? 誰をですか?」
明らかに不機嫌そうな表情と声でアッシュを見るツバメ。
そんなツバメの様子も気にせず、アッシュは答えた。
「俺様だってばっ! あ、なんなら思い切ってSランクでもいいんだぜ?」
「いいんだぜって……この人は……」
ツバメは呆れた表情でこめかみを指で押さえた。
それを見たシーラはアッシュの後ろに立ち、声をかける。
「へぇ~、あんたがこの世界で12人しかいないSランクの1人になるってかい?」
その言葉に意気揚々とアッシュが振り返った。
「そうさ! 俺様の実力な……ら……って、シーラの姉御とフランクの旦那!?」
2人を見て動揺するアッシュに、フランクはニヤニヤしながらアッシュの肩を抱いた。
「お前がAやSになるんなら、オレ達も同等にしてもらいてぇもんだな」
「あー……えーと……そ、そっスね……」
アッシュは床を見ながら返事をする。
「目標を持つのは大事さ、ただそんな寝言を言うにはまだ日が高いと思うんだけどね?」
「うっ……うぐぐぐ…………」
シーラの言葉に何も言い返せないアッシュはくぐもった声を出し、フランクの腕をはらった。
「そっそうだ! 俺様は用事があったんだ! こうしちゃいられない! ま、またな! ツバメちゃん!」
そう言うと、アッシュはそそくさとギルドから出て行った。
「はぁ……助かりました。シーラさん、フランクさん」
「なに、気にすることはないよ」
シーラがカウンターの上に肘を乗せてよりかかった。
「とは言えよぉ、AやSはともかくオレぁアッシュをBランクにしてもいいと思うぜ? 何回か組んだ事はあるが実力『だけ』は確かにあるし」
『だけ』の部分を強調するフランク。
「確かにそうですけど……でも、駄目なものは駄目です」
ツバメが笑顔で答えた。
「なんでなんだよ?」
「ん~…………なんとなく……ですね」
ツバメの曖昧な返事に、フランクは眉間にしわを寄せる。
「なんだそりゃ」
「ツバメのお眼鏡にかなわなかった……ただそれだけだよ」
「お眼鏡ねぇ……オレぁよくわからんな」
シーラの言葉にフランクのしわはますます濃くなるのだった。
「あっそうだ」
そんな時、ツバメが何かを思い出した様子で両手を叩く。
「先ほどのAランクの話なんですけど、お2人とも昇格試験を受ける気はありませんか?」
「へっ? アタイ達が? いきなりなんだい?」
「えと、ちょっと前にギルドの戦力増強をしようという話になったんです。それで、十分実力があるお2人を私は推薦したいと思いまして」
「そりゃあ、ありがたい話だ。オレぁ別にかまわねぇけど……」
フランクはちらりとシーラを見る。
「そんな目で見なくても、アタイの返事は決まっているさ」
「だよな」
シーラの言葉に笑顔がこぼれるフランク。
「よかったです! では試験は1週間後になりますのでお願いします」
「1週間後か……だと、近場にある所なら潜り込める時間はあるねぇ」
「え? 今からですか? 1週間くらい休んでもいいのでは?」
「オレ達にとってそれが生き甲斐だからな。でよぉ、その手に持っている書類に何か新しい情報とか場所が書いてあるとかないか?」
「これにですか?」
ツバメは手に持っていた書類を軽く振った。
「残念ですけど、これはこの前捕まえた【影】達についての報告書です。王国からやっと届いたんですよ」
「お、それはそれで気になるねぇ。何かわかったのかい?」
「相変わらず5人の共通点は【影】のメンバーってだけで、それ以外は何も無し。うち2人はお隣さんだったらしく本人達がめちゃくちゃ驚いてたらしいですよ」
「世間は狭いとはよく言ったもんだねぇ」
「ただ、【影】達の間である噂が流れているそうです」
「噂? それはなんだい?」
「ここ数年、ジョーカーが全く姿を見せないそうです。ですからキング達に始末されたとか、逃げ出して行方をくらましたといったとか言われているそうで……」
「それは本当なのか?」
「わかりません。ただそれが事実なら【影】の主力である幹部が一人減っている状態なので、こちらとして喜ばしい事なんですけどね」
「確かにな……まっオレ達にかかれば幹部だろうが一撃で倒してやるがな」
フランクは両手を上げて力こぶを作った。
「あははは、期待していますよ。あっと、何か情報があるかでしたよね……実は2日ほど前に、ヒトリが未登録の遺跡を見つけ出したんですよ」
「お!」
「未登録の遺跡! いいじゃないか!」
2人は未登録の言葉に食いつき、前のめりになる。
「で、その中を調査する依頼を丁度貼り出そうとはしていたんですが……」
「ぜひ、オレ達に任せてくれ!」
「言っときますけど、調査の依頼ですからね? 自分の懐にしまい込んじゃ駄目ですよ?」
「わかってるさ。アタイ達も冒険者の端くれ、依頼となればそんなマネをなんてしないさ」
「では、地図を今から描きますね」
ツバメは書類を置き、引き出しから白紙を取り出した。
「ヒトリは今いるのかい?」
そして、ペンを持ったところでシーラが変な質問をして来た。
「え? あっはい、いつもの席にいますけど……」
ツバメは不思議そうに答える。
「なら、地図はいらねぇよ。本人に案内してもらった方が早いし、確実だからな」
フランクはそう言うと、シーラと共に奥の席へと歩いて行った。
「あ、なら私も…………まぁいいか、あの2人ならヒトリ相手でも問題ないだろうし」
ツバメは再び書類を手に持ち仕事に戻った。
「相変わらず、ここは暗いなぁ。遺跡の中とあんまり変わらない気がするぜ」
「そうだねぇ。んで、あいつも相変わらずの様だよ」
「ニヒヒヒ……」
暗い奥の席で、いつもの様に笑みを浮かべながらナイフを布で磨いているヒトリの姿があった。
「まったく、こんな暗いところでナイフを磨いて何が楽しいんだか……おい、ヒトリ!」
「ニヒヒヒ……」
シーラが声をかけるも、ヒトリはナイフを磨き続けた。
「そんなんじゃあ駄目だ。こうでもしないとよぉ」
フランクはヒトリに近づき、右手でヒトリの頭を鷲づかみにする。
流石のヒトリも頭を持たれた感触で我に返った。
「……へ? な、なに――」
「こっちを向けっ!」
フランクが声を張り上げて手を回し、ヒトリの顔を無理やり自分たちの方に向かせた。
「――があッ!?」
次の瞬間、ボキッと骨が折れる様な音とヒトリの悲鳴がギルド内に響くのだった。