ヒトリの雰囲気が変わった事に大型のブラックドッグは警戒し、その場から唸り声をあげつつ睨みつける。
ヒトリも大型のブラックドッグを睨みつつ、辺りに潜んでいる他のブラックドッグがいつ飛び出してきてもいいように集中すた。
「ひぃいイ……」
ハナはその場にうずくまり、ブルブルと体を震わせていた。
数秒のにらみ合い……最初に動いたのは大型のブラックドッグだった。
『――ガウッ!!』
大型のブラックドッグが吠えた。
その瞬間、茂みの中から7匹の中型のブラックドッグ達が飛び出し、ヒトリ達に襲い掛かって来る。
『ガアッ!!』
「――っ!」
ヒトリは噛みついて来たブラックドッグの牙を左腕のガントレットで防ぎ、即座に持っていた右手のナイフでブラックドッグの首元を突き立てた。
『ギャッ!!』
ブラックドッグは苦しそうな声をあげ、ガントレットから口を放た。
と同時にヒトリはナイフを抜き、ブラックドッグを蹴り飛ばす。
飛んで来たブラックドッグは、走って来ていた別のブラックドッグと激突する。
『ガウッ!!』
『ガアアアア!!』
ぶつかった2匹には見向きもせず、残りの5匹がほぼ同時にヒトリに襲い掛かる。
「んっ!」
ヒトリはその場でジャンプをしてブラックドッグ達の爪を回避。
着地と同時に1匹のブラックドッグの背中にナイフを突き立てた。
『ギャンッ!』
背中からナイフを抜き、今度は傍にいたブラックドッグの顔を斬りつける。
『キャンッ!!』
「――っ!」
そのままトドメをさそうとした瞬間、ヒトリが殺気を感じ背後を振りかえった。
『ガアアアッ!!』
大型のブラックドッグがヒトリの背後から襲い掛かって来ていた。
今の体勢では回避行動はとれない、ガントレットでも大型の牙と爪を到底防ぎきれない。
「くっ!!」
ヒトリは、とっさに背中を刺して弱っていたブラックドッグを持ち上げて盾にした。
『ガウッッッ!!』
大型は躊躇せず仲間のブラックドッグへ噛みつく。
『ギャアアアアアアアアア!!』
ブラックドッグの断末魔と血しぶきが辺りに散乱する。
ヒトリは、その隙を狙い大型の首元へナイフを突き立てた……。
「えっ!?」
が、予想以上に皮膚が硬くナイフは浅めにしか刺さらなかった。
「嘘っ!」
驚いているヒトリに大型はギロリと睨み、前足を振り下ろした。
ヒトリは体を捻って無理やり避け、今度は大型の目に向かってナイフを突きだす。
大型は即座に反応して突きをかわすが、ヒトリはチャンスとばかりナイフを振り追撃する。
しかし、大型はヒトリの斬撃を避け距離をとった。
「――っ!! こいつ、早い!」
「きゃッ!」
突如、ハナの悲鳴が聞こえヒトリがハナの方へ目を向けた。
ハナは中型のブラックドッグに腕を噛まれていた。
「っハナさん!」
大型に意識を集中し過ぎた、自分の失態に一瞬動揺する。
その隙を大型のブラックドッグは逃さなかった。
一気にヒトリとの距離を詰める。
『ガアッ!』
「しまっ――がはっ!」
大型の前足がヒトリの腹部にヒットし、吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
「ぐっ!」
「ヒ、ヒトリさン!!」
「――ゲホッ! ゲホッ! っハナさんから離れなさい!」
ヒトリはよろよろと立ち上がり、小型ナイフを取り出す。
そして、ハナに噛みついている中型に向かって投げつけた。
飛んで来た小型ナイフに中型が反応し、口を放し後ろへ飛びかわす。
それを読んでいたヒトリは、中型が着地する場所に向かって小型ナイフを投げた。
『――ギャンッ!』
小型ナイフが中型の右前脚に突き刺さる。
「ヒトリさン! 後ロ!!」
その声にヒトリはハナのいる方向に思いっきり地面を蹴り、ゴロゴロと傍まで転がった。
大型のブラックドッグの爪がヒトリのいた場所で空を切る。
「ヒトリさン……! 大丈夫ですカ?」
ハナが心配そうに駆け寄る。
「はぁはぁ……は、はい……つぅ~」
ヒトリは痛む脇腹を抑えつつ、起き上がった。
目の前には大型1匹、中型4匹。
うち中型の2匹は怪我をしているが、それでも燃える様な赤い瞳で2人を睨む。
「…………ハナさん、ボクが合図をしたら全速力で家の中まで走ってください」
「えッ?」
ヒトリは道具袋の中から、手のひらサイズの玉を取り出した。
そして、その玉を上に放り投げる。
ブラックドッグ達がいっせいに玉を見て警戒する。
「走って!」
ハナはヒトリの掛け声と同時に、家に向かって走り出す。
ヒトリは玉に向かって小型ナイフを投げた。
『!』
2人が駆け出すのを見て、大型が追いかけようとした瞬間、ナイフが玉に当たり辺り一面に閃光が走る。
『キャンッ!』
ブラックドッグ達は突然の閃光に怯む。
その隙に家に2人は飛び込み扉を閉めた。
「は、早く何かでドアを押さえないト!」
ハナは倒れていた机を扉の前に置いた。
大型が体当たりをすれば、1発で破壊されるだろうが無いよりはマシだろう。
ヒトリは仮面を外し、道具袋から治癒ポーションを取り出して一気に飲み干した。
そして、立ち上がり脇腹を抑えつつ窓からを外を見る。
「……はぁ……はぁ……やっぱり、思った通り……あっ……大丈夫です……し、しばらく襲って来る事は無いでしょう……」
「エ? ほ、本当……ですカ?」
ハナは台に乗り、窓から外を見る。
大型のブラックドッグは家の方を睨み、中型のブラックドッグ達は傷付いた部分をペロペロとなめ合っていた。
「……あっ……あ、あの大きいブラックドッグは部下に襲わせたり、隙を狙って攻撃して来ます。か、かなり賢くて警戒心が強いようです……なので、ボク達が家に入れば様子見をするかもと思ったんですが……読み通りですね」
「な、なるほド……」
「……今のうちに、打開方法を考えないと……何かないかな……」
ヒトリが散らかった家の中を見わたした。
あるのは生活用品、家具、衣服、伐採斧……どれも今を打破出来るものは無かった。
「あノ……ウチに手伝えることがあれば、何でも言ってくださいネ」
ヒトリが困っているのを見てハナが声をかける。
「……あっ……ありがとうござ……待てよ……ハ、ハナさんってマンドラゴラ……ですよね?」
「はイ、そうですヨ」
「……あ、あるじゃないですか! 最大の武器が!」
「?」
ハナが家の扉を開け、外に飛び出した。
『ガウッ!!』
それを見たブラックドッグ達がいっせいにハナに向かって走り出す。
「すぅ~~~~~……ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ハナが大きな悲鳴をあげた。
マンドラゴラの特性、死の悲鳴を。
『『『『――』』』』
中型のブラックドッグ達は白目をむき、泡を吹いて次々と倒れる。
しかし、大型のブラックドッグはふらつきながらも近づいて来た。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ハナも必死に叫び続ける。
それでも大型は倒れる様子が無い。
「アアアアァァァ……アア……ゲホゲホッ!」
ついにハナの悲鳴が途切れる。
チャンスとばかりに、大型は口を大きくあけハナに噛みつこうとした……その瞬間――。
『――アガッ!?』
口の中にナイフが飛び込んで来て、喉に突き刺さった。
ハナの後ろで身を潜めていたヒトリが投げたナイフだ。
「……流石に、口の中は硬くなかったですね」
『アガ……ガガ……ガッ……』
大型のブラックドッグの燃える様な赤い瞳から光が無くなり、その場に崩れ落ちた。