「よいしょっと……」
アルヴィンは気絶している盗賊10人をロープで縛り、荷台へと乗せていた。
盗賊達を近くにある騎士団の駐屯地まで運ぶ為だ。
ヒトリはというと、残党がいるかどうかの確認の為に林の中へ入って行った。
「ふぅー、後5人か。にしても、あのスピードとパワー……彼女は一体何者なんだ?」
パッと見は小柄でか弱そうな女性、だが一瞬で10人もの盗賊を倒してしまった。
ツバメの言う通り、確かに実力はある。
だが見た目とのギャップが違い過ぎて、アルヴィンはちょっとした不気味さも感じていた。
「うーん、気にはなるけど……あれこれ追及するのも良くないか」
アルヴィンは深く考えるのをやめ、盗賊を乗せる作業を再開した。
10人の盗賊を荷台に乗せ終わる頃、周辺が安全だと判断したヒトリが戻ってきた。
そしてアルヴィンはある提案にヒトリは困惑した声を出した。
「……え? あっ……ほ、本当に大丈夫ですかぁ?」
アルヴィンが提案したのは自分はカラを背負いキカイ村まで行き、ヒトリは盗賊達を騎士団の駐屯地へ運ぶというものだった。
「縛ってあるとはいえ、こいつ等を村まで連れて行くのはまずいだろ? 俺なら大丈夫、カラを背負ってギルドまで行ったし、盗賊ももういないしな。出来るだけ早く行きたいんだ、頼む」
「……んんん~…………わ、わかりましたぁ」
少し考えたのちヒトリは御者台へと乗った。
アルヴィンはカラを毛布から出して背負う。
「後、お互いどのくらい時間がかかるかわからないから、終わり次第それぞれギルドに戻るって事でいいか?」
「あっ……はい、それで大丈夫です。お、お気をつけて」
「ああ、そっちもな」
ヒトリは馬車を走らせて来た道を戻って行った。
「よし、俺も行くか」
アルヴィンはキカイ村に向かって歩き始めた。
※
キカイ村についたアルヴィンは、とある建物の前にいた。
「ゴアゴ博士の研究所は、村についたらすぐにわかるって聞いていたけど……」
キカイ村は木造の家がまばらに建ち並んでいる。
その片隅に、明らかに村の風景から浮いている建物があった。
まるでスライムの様にグニャグニャとした形をしており、窓の位置もバラバラ。
どうやって建てたのか、なぜ建っていられるのか謎である。
「……絶対にここだよな」
アルヴィンはカラを降ろし、扉をノックをした。
「すみませーん! 誰かいますか?」
『はいはぁ~い。ちょっと待って下さいねぇ~』
建物の中からおっとりとした口調の女性の声がし、扉が開いた。
「どちら様ですかぁ?」
建物の中から出てきたのは耳が長く尖っていて、白衣を着たエルフの女性だった。
目は垂れ気味で黄色の瞳、紫色の髪を三つ編みにして右側から胸辺りまで垂れている。
「あ、えと……ゴアゴ博士はここに居ますか?」
「いますよぉ~ゴアゴちゃぁん、お客さんよぉ!」
エルフの女性が奥に向かって呼びかけた。
すると白衣を着た初老の男性が出てきた。
男性はおでこがかなり広く、後頭部には白髪でモサモサした髪が特徴的なヒューマンだ。
「ケイアくん、いつもいつも博士と呼ぶように言っているじゃないか……まあいい、客は少年か」
ゴアゴは黒い瞳でジッとアルヴィンを見つめる。
「な、なんだよ……」
その視線にアルヴィンは少しだじろいた。
「うむ、よかろう。少年! こっちへ来たまえ!」
ゴアゴはいきなりアルヴィンの右腕を掴んで引っ張り始めた。
「えっ!? ちょっと何を!」
「はいはい~こっちですよぉ」
抵抗すると、ケイアがアルヴィンの背中を押し始めた。
「おいおい! 俺をどこに連れて行こうとするんだ!?」
二人掛ではどうする事も出来ず、アルヴィンはある部屋の中に連れ込まれた。
連れてこられた部屋の中には、大きな鉄の箱が置いてあった。
その箱はボタンやレバーが付いており、上の部分は数多くのケーブルが飛び出ている。
「さあ! これを被るんだ!」
アルヴィンは、箱から出ているケーブルと繋がった大きいサイズのヘルメットを無理やり被せられた。
「お、おい! 何だこれ!? つか俺はだな――」
「しゃべるでない! 今から少年の心の中を読み取って、ここに来た理由を当てて見せるぞ!」
そう言うとゴアゴも同じ形をしたヘルメットをかぶった。
「……はあ?」
アルヴィンが眉を顰め、ゴアゴは箱のスイッチを押した。
すると箱がガタガタと揺れ出し、バチバチと電気の火花を散らせる。
「むむむむ………………来たぞ来たぞ……! ……なるほどなるほど……わかったぞ! 少年は新聞の勧誘の為に来たのだな!?」
「ちっげーよ!!」
アルヴィンはヘルメットを外し、床に叩きつけた。
「なんとなんと! くそ……また失敗か……」
アルヴィンの反応にゴアゴは肩を落とした。
「ゴアゴちゃん、どんまいよぉ」
ケイアがゴアゴの頭をなでる。
「だからちゃん付は……はあ……もういい……」
「俺が来た理由は、これ!」
アルヴィンはポケットの中からツバメの紹介状を取り出し、ゴアゴに渡した。
「ん? 手紙? ……どれどれ……おお、ツバメくんからか」
手紙を広げ、中身を確認するゴアゴ。
「…………なるほどなるほど、カラくんが……よし、見てみようじゃないか」
カラを研究所の中に入れ、個室のベッドの上に寝かせた。
ゴアゴはメイド服を脱がし、頭の先からつま先までじっくりと観察する。
「ど、どうなんだ?」
「……ふむ……ツバメくんの読み通り、これは魔力切れだな」
「動ける様になるのか?」
「んー……なるにはなるが……」
ゴアゴの眉間にしわがよった。
「?」
「これは実際に見た方が早いな」
ゴアゴはカラの胸辺りに付いている魔石を掴み、少し引っ張り上げて回す。
するとカチャリと音がし、魔石が引っ張り上げられた。
「なんだこれ? 鍵……か?」
カラの体内に入っていた魔石の部分の先は加工され、鍵の様な形をしていた。
「これがカラくんを動かしている魔石だ。これとまったく同じ形の魔石を入れれば動く」
ゴアゴの言葉にアルヴィンの顔が明るくなった。
「そうなのか! じゃあ早く作ってくれよ!」
「残念ながら、私には無理だ……この形を考えたのはイーグルスくんだが、加工したのはエリックというドワーフなんだ。魔石の加工は難しいから手慣れている……ん? どうした?」
ゴアゴの言葉にアルヴィンが驚く。
まさか、父親がカラと関わっていたとは。
「……エリックは……俺の親父だ」
「なんとなんと! なら話は早い、父親に頼めばよい」
「……親父に」
アルヴィンは数多くの鉱石を加工をやって来た。
しかし魔石は見極めが難しく、刃の入れ方を少しでも間違えるとすぐにヒビが入り割れてしまう。
そうなってしまうとそこから魔力が漏れ出して、ただの石になってしまい使い物にならない。
何度か挑戦はした事があるが、成功した事はほとんどない。
しかも全く同じ形の鍵を作るとなると、エリックに頼んだ方がいいだろう……。
「…………いや、俺が作る!」
だが、アルヴィンは自分で作る選択肢をとった。
「む? しかし……」
「俺にやらせてくれ! 魔石の加工なら何度もした事がある! 失敗の方が多いけど……けど! 俺の手で助けられるのなら助けたいんだ! 頼む!」
アルヴィンの思いにゴアゴは頷いた。
「……わかった、なら君に任せよう! あと魔石の方は心配しなくてもいいぞ。ここには実験の為に作り出した人工魔石がたくさんあるからな!」
「っすまない!」
カラを助ける為に、アルヴィンは魔石の加工作業に入った。
魔石の加工作業は、やはり大変だった。
何十個も失敗し、ようやくまともな物が1個出来た頃には日が落ち始めていた。
「たのむ……動いてくれよ」
出来た物をカラの胸に差し込む。
「「「……」」」
3人は固唾を飲んで見守る。
「……」
しかし、カラは動かない。
「ああ……」
「駄目かぁ」
「……くそっ! まだだ!」
落胆した2人とは違い、アルヴィンは諦めず新しい人工魔石に手を伸ばした。
と、その時――。
「……ぼ……ちゃま……?」
微かにカラの声が聞こえてきた。
「っ! カラ!?」
3人がカラの傍へと寄る。
するとカラは目を開き、辺りを見わたした。
「……坊ちゃま……ここは何処でしょう?」
「やったぞおお!」
「やったわねぇ!」
ゴアゴとケイアが両手を挙げて喜び、アルヴィンはカラに抱き付いた。
「よかった……本当に良かった……!」
「?」
事情がよくわからないカラは不思議そうな顔をしつつも、涙を流しているアルヴィンの頭を優しく撫でた。