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葉月の異常な愛情。令谷の彼方への想い。

 八月の暑い日だった。


「なんで、そんな事しようとしたのかなあ?」

 葉月は六本木にあるアダルトショップから購入してきた、手錠と鎖の付いた手枷で怜子を拘束して、憎らしげな顔で怜子を見下ろしていた。


 怜子はホテルの中で、何日か、監禁された状態にあった。


 彼女を生き返らせて、三ヵ月程、経った頃だろうか。


 葉月は鎖でベッドに繋いでいる怜子を見据えながら、怜子を睨み付けていた。


「なんで、また飛び降りようとしたのかなあ? そんなに私と一緒にいるのが嫌なのかなあ? 許さないよ」


 怜子の口にはガムテープが貼り付けられていた。


「ゾンビは人間の使っていない筋力を使う。ゾンビの怪力なら、その手錠くらい壊せる筈。もっと力を出していいのよ?」

 葉月の声は、冷淡で、そして毒々しかった。


「あ。そうか、何か喋りたいんだよね?」

 葉月は怜子の口のガムテープを剥がす。


「ねえ……、葉月ちゃん…………」

「なあに? 怜子?」

 葉月は首を傾げる。


「先日、葉月ちゃんが作っていた、小鳥のゾンビだけど、普通の小鳥さんみたいだった……、普通の鳥用の餌を食べていた。なんで、私は人の肉を食べたくなるの…………?」

 怜子の声は震えていた。

 少し怒りも混ざっている。


「うーん。それは難しい質問ね。まず一つは、私が人間をゾンビとして蘇らせる時、まだまだ技術が足りなかったって事かなあ」

 葉月は自分の唇に指をあてる。


「もう一つは、怜子。貴方がより普通の人間の身体だったら“私のモノ”じゃなくなるじゃない? 貴方の心を繋ぎ止める為に、その不完全な身体が素晴らしいと思うなあ?」

 葉月は怜子の目蓋とまつ毛を指先で撫でた。


「いいじゃない? どうせ親の道具だったじゃない? 生まれ変わって、私の道具として生きてよ。幸せに導いてあげるから」


「葉月ちゃん………、貴方は狂っている?」

「うん。知ってる。だから、私は貴方を生き返らせて、貴方の心を壊した。貴方は可愛い。だから、もっと壊したい!」

 葉月は無邪気な顔で笑った。


「いい臭いだね。怜子」

 葉月は鼻をひくつかせる。


「お墓の臭いみたいだよ…………」

 葉月は怜子の首の匂いを嗅いでいく。

 汗は出ない。

 排泄行為も無いのだろう。


「葉月ちゃん…………。貴方は、生き返りの儀式を行ったから、他のあらゆる黒魔術を行ったから、おかしくなったと言う。でも、葉月ちゃん…………、私から見える貴方は始めからおかしかった。貴方は自分が異常である事を、ずっと、高校生の頃、認めなかったよね?」

 怜子は精一杯、言葉で抵抗する。


「葉月ちゃん…………、貴方は、高校時代から、歪んでいたっ! 気付いて欲しいっ! 自分で、まだ正常だと思ってない!?」

 怜子は泣く。


 葉月は怜子の言い分を聞いて、暗い顔をする。


「もう。何も考えてなくていいよ? 怜子? 私に身を委ねれば」

 葉月は優しく囁く。


 怜子は泣き始める。


 葉月は顔を赤らめながら、舌を出して口の中で唾液を生成する。

 そして、怜子の目の周り、そして眼球を舐め始めた。怜子の涙と葉月の唾液が混じり合う。


「ふふっ。塩っぽい涙の味。可愛いなあ?」

 葉月は笑う。

 嗜虐的な眼をしていた。


「こ、この、この変態っ!」

 怜子は思わず、葉月の顔を張り飛ばす。


 葉月は唇から少し血が出る。


「私が変態かあ?」

 葉月は、こきり、こきり、と首を鳴らした。

 そして、自分の唇の血を拭う。



「人を食べた時、言い知れない快楽に堕とされなかったあ? 怜子? ねえ? ねえ? 怜子。とても気持ち良かったんじゃない?」

「何を言っているの…………、葉月ちゃん…………」


 葉月は瞳は鮮やかな赤を称えている。

 彼女の獰猛性、攻撃性。

 それらが全て、怜子を向かっている。


 怜子は感じる。

 むしろ、自分が、今、此処で葉月によって喰い殺されるのではないか、と。


「私を殺してみて? ねえ? 私を殺してみて? ねえねえ? 私を喰い殺してみろ?」

 葉月は怜子の耳元で、とてつもなく邪悪に囁き続ける。



「こ、この、この、この、変態っ! サディストッ!」

 怜子は葉月の手を払い除ける。


 葉月の腕にアザが残る。

 彼女は、ゾクゾクと身体を震わせる程に喜んだ。


「ねえ、そうだっ! SMプレイにおいての、Sは、あくまでM側に奉仕する“マッサージ師”だと聞いた事がある」

 葉月は自身の腕に出来たアザを、うっとりと眺めていた。

 彼女の顔は、極めて恍惚的だった。


「マゾヒストは、社会的規範、性の規範に従い、服従を願うけど…………」

 葉月は闇色の声で囁き続ける。


「サディストは、社会的規範を壊し、性に対しても極めて暴力的なの。私は、マゾヒズムとサディズムが表裏一体の性的嗜好だとは考えていない。マゾヒストはたとえ、Sの側に回ってもパートナーに対して奉仕し、サディストはたとえMの側に回っても、パートナーに対して、精神的な支配を求める筈。…………、私の持論なんだけどね」

 葉月は淡々と、ロジカルな言葉を紡いでいくが……。

 その言葉の内容の意味する事は、極めて、悪意に満ち満ちていた。


「何故、マゾヒスティックに自分を責め続けるの? 怜子?」

 葉月の声は暗く、彼女の瞳は闇を称えていた。


「貴方は人を食べた時も、自虐的に苦しみ続ける。他人を傷付ける時も、苦しみ、苛まれ続ける、私にはまったく理解が出来ない感性なの」


 葉月は何かを考えていた。

 葉月の眼は泳いでいた。

 葉月は何かを空想し、想いを巡らせる。


 怜子は震えていた。

 葉月は掌を握り拳で叩く。


「そうだ。インプラント手術を施そう? 怜子? 貴方の体内にGPSを埋め込みたい。何処にいても、私が貴方を見ていられるようにっ! 首の骨辺りとかがいい。外せない首輪を埋め込みたい!」


 葉月はツツゥー、と、怜子の首筋をなぞる。


「止め、止めてっ!」

 怜子は泣き続けていた。


 葉月は思わず、怜子の首を絞める。


 怜子はガクガク、と、全身を震わせる。


「怜子。貴方は私のモノなの、私のモノが、私に逆らうの? ねえ? ねえ? もう一度、死んでみる? どんな感覚なの? もう一度、死んでみてっ! 私がもう一度、蘇らせてあげるからっ!」


 しばらくして、葉月は怜子の首から手を放す。


「怜子。お仕置きはこのくらいにして上げる。もう、二度と、自分で死のうなんて考えない事ね。もし、次やったら」

 葉月はバッグから、あるモノを取り出した。


 それはアイスピックだった。

 まるで大型の針だ。ナイフのように尖っている。


「これを貴方の腕に打ち込んで、身動きが取れないようにするっ!」


 葉月はアイスピックの尖端をなぞる。


「それとも。脚折って…………。いや、無くしちゃえば、もう、自分で死のうなんて考えられなくなるかな?」

 葉月は首を押さえる怜子の耳元で囁く。笑顔だった。


「怜子。貴方を壊していいのは私だけ…………」

 そう言うと、葉月はホテルを出ていった。


 怜子は少し考える。

 葉月が一体、何を考えているのか。

 あるいは、何を隠しているのか?



11月後半。


 先日。

 連続殺人犯スワンソングが、連続殺人犯ワー・ウルフに宣戦布告をした。

 十一月の三週目の事だった。


 令谷は今の処、葉月に対しては、その事に関して沈黙している。

 何か思う事があるのだろうが、葉月はあえて聞かない。


 葉月と令谷の二人は、令谷の親友である彼方の家にいた。

 彼方の家で居候をしている怜子には、買い出しに行って貰った。


「葉月。これから、お前の彼氏である、佑大と会う約束をしているんだが。実質的に、佑大は、彼氏だが、お前の男友達としての親友に当たるんじゃないか? お前の理解者だ」


 令谷は空ろな眼をしている彼方に、粥を食べさせていた。

 彼方の口から、ぽろぽろと、粥が零れ落ちていく。

 それでも、令谷は献身的に彼方の口の中へと食事を運んでいく。


 葉月はその光景を見て、鼻を鳴らす。


「令谷。何がいいたいの?」

 葉月は眉を顰める。


「本当の恋人は怜子だと考えていないか、って事だよ」

 令谷は疑っていた。


「私と私の近しい人の関係性は、どうだっていいでしょ? それよりも、何故、佑大と会うつもりなの?」

 葉月はいぶかし気に言った。


「そうか。怜子を通して、佑大の存在を知ったのね」

「ああ。そうだ。怜子から聞いた」

 令谷は腕を組みながら、葉月の眼を見る。


「お前は嘘付きだし、つねに隠し事をしている。お前の言葉には、別の真意が隠されている事が多いな」


「ふん。じゃあ、貴方にとっての、彼方は何?」

 葉月は唇を歪める。


「ただの友達には見えないわよ? 全てを尽くして、依存しているように思えるわ? 怪物への復讐心と、彼方への強い執着心、依存心ばかりを感じるのよ」

 葉月は毒づいた。


「まるで、貴方は彼方に対して、恋人のように感じている。違う?」

「ああ。そうだろうな」

 令谷は溜め息を吐いて、彼方を風呂場へと連れていく。

 これから、令谷は彼方を風呂に入れるのだろう。

 一緒に風呂にでも入るつもりか。

 下の世話までしているのだろうか。



 11月も終わりが近付いていた。

 空の月は完成しようとしていた。


 つまり、満月が近付いている。


<新たな異常犯罪者。シリアルキラー『ベリード・アライブ』に関して説明しておきたい>


 令谷から、葉月にLINEが送られる。


 とある山中の麓で、老人の遺体が二つ見つかった。


 司法解剖の結果、老人の胃の中には大量の土が入り込んでいた。

 眼の中にも、土が混入していたらしい。


 また、遺体の死後硬直の仕方を見てみると“何か狭い場所に閉じ込められていた形跡がある”と、解剖医達は結論付けた。手足にも縛られた形跡としてアザが残っていた。


 つまり。

 この異常者は、人間を生きたまま、土の下の狭い棺に埋めた事になる。

 意味不明な事に、状況的に見て“棺の中に入れて、更に棺の中にも土をたっぷり入れている”。


 ベリード・アライブは生き埋め、と言う意味らしい。

 令谷が便宜上、名付けた。

 特殊犯罪捜査課がコードネームを付けると、警察庁に名前が浸透し、それはマスコミにまで向かい、世間に知れ渡る。令谷は非常に微妙な気分になる。


 この処、猟奇犯罪者、連続殺人犯が異常なまでに増えている。

 世相なのか、まるで、彼らは人間界に侵略してくる魔界の化け物や、宇宙からの襲来者のようにさえ思える。世の中は変わりつつある。……………………。


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