目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

切り裂き魔。結末。

 牙口令谷と昼宵葉月、そして崎原玄は、切り裂き魔・聖世のワゴン車を見失った。


 彼のワゴン車が見つかったのは、此処から、二時間程、掛かる、更に山奥の場所だった。

 山奥にある、人気の無い半ば朽ち果てたパーキングエリアだった。



 パーキングエリアの中で、聖世の死体が見つかった。


 彼は、自ら、全身を自傷して切り刻み、地面に絵を描き続けていた。

 肉がエグれ、所々、骨が見えている。

 自分自身を徹底して、刻み続けたのだろう。

 まるで、これまでの犠牲者のように。


 殺害現場にある樹木には“SWAN SONG”と、聖世の血で描かれていた。


「ああ。スワンソングが、この男を始末したのか」

 葉月は淡々と言いながら、微笑を浮かべる。


「本当に良い作品ね、これは」

 そう言いながら、彼女はスマホでスワンソングが聖世弧志に創らせた“最期の作品”の撮影を行っていく。


 葉月は聖世の死体をまじまじと眺める。

 首にロープでの絞殺の痕がある。


 なるほど、作品を創らせた後は、最期に絞殺を選んだのだろう。

 綺麗に首を締めあげられた聖世の顔は、安らかに見えた。



 土曜日。

 百合果は、待ち合わせ場所の駅にいた。


「へえ。君はイラストレーター志望なんだ?」

 ある一人の青年が、大学生の女の子の元に向かってきて、優しく笑い掛けた。

「あれ。Kozi先生は……?」

 聖世弧志の顔は知られている。

 百合果は戸惑った。


「ごめん。今日は先生、急遽仕事が入って、忙しくて、時間が取れないんだって。だから、アシスタントである僕が代役で向かうように言われたんだ。今日はお金は、払わなくてもいいから。簡単に絵を見るように言われたよ」


 青年の容姿は整っていた。

 モデル並だと言っても過言ではない。


 二人は喫茶店の中に入る。


「絵を描くのが好きなんだね。プロを目指している?」

「はい。まだまだ修行中なんですけど……。頑張りたいです?」


 青年は自分の事を“サク”と呼ぶように言った。



「そっか。作品見せてよ」

 女の子は、スマートフォンに保存してある自分の作品を、その青年に見せる。

 サクは何枚かの絵を見て笑顔を浮かべた。


「色彩感覚が優れているね。デッサンはまだまだ未熟だけど、それは君の才能の本質じゃない。秋をイメージした作品が多いんだ? 紅葉のグラデーションが素晴らしいよ」


「なんか、恥ずかしいです」

 百合果は恥ずかしがる。


「女の子よりも、男の子の方が上手。理想的な美少年や美青年を描くのが好きなんだ?」

「はい……」


 それから、他の何枚かの絵を見て、Koziのアシスタントを名乗るサクという青年は、百合果の絵の良い点と改善した方が良い点を一つ一つ指摘していく。彼の言葉は、絵柄や絵の方向性、彼女自身が目標としている絵、目標としている作品に近付ける為には、極めて的確な指摘ばかりだった。


 それを聞きながら、百合果は熱心にメモを取っていった。


「君はきっと、夢を叶えられる。頑張って」

 そう言って、その青年は百合果の肩を叩く。


「ありがとう御座います。こんなに励ましてくださって…………」

 百合果は深々とお辞儀をする。


「ああ。でも、決して、君を支持してきた人を裏切ったり、傷付けたりしないように。過去の君があってこそ、未来の君が創られる。君を支持してくれた人とは、強い絆と信頼関係で結ばれているんだ。今の君には、僕の言葉は分からないかもしれないけど……」


サクは少し考えて、言葉を選んでいるみたいだった。


「この先、絵を職業にしていく上で、辛い事が沢山あると思う。売れなくて人気が出なくて、何度も打ちひしがられる。


あぶく銭で、嫌な仕事も引き受ける事も多いだろうし、業界で孤立する事もあるかもしれない。


編集者に嫌な仕事を提案されるかもしれないし、

競争相手に傷付けられる事もあるだろう。


でも。

君は自分が思い描いていた人間である事を、誇りに出来るといいな。


僕の願望なのかもしれないけど」


サクはそう、優しく笑った。


百合果は、上手く言葉に出来ない程、感情が溢れ出し、嬉しくて泣いた。


 …………。

 その日の夜の事だった。

 TVの報道で、昨今の切り裂き魔の正体がKoziこと、聖世弧志である事が流れていた。


 また警察の釈明いわく、犯人を殺害した別の人物がいた為に、混乱を押さえる為に、報道が二、三日ばかり遅れたとの事だった。


 百合果は、次は自分が標的にされていたであろう事に気付き、食べているハンバーグを取り落とした。同時に、あの青年は何者だったのかと……思い返す…………。



 聖世弧志の家の中から、大量の死体が見つかった


 死体はクーラーボックスの中に入れられていたのだ。


 防腐剤と氷水によって保存された、沢山の女性達の下半身などが見つかった。

 聖世は、下半身だけになった女を死後も、何度も凌辱していた形跡があった。


 聖世は、戦利品として女の身体を収集して、更にそれで楽しんでいたのだ。


 ただ……。

 腕が二本程、見つからなかった。

 何処かに捨てたのだろう、と、警察は判断した。



 葉月は自室で冷凍された、女の右腕と左腕を、クーラーボックスの中に入れていた。

 皮膚や筋肉を捨てて、骨だけを残して持っておく事に決めていた。

 骨になった女の腕に、様々な花を添えて飾ろうと思っている。


 ………………。

 彼女は聖世の家に、警察よりも先に踏み込んで、戦利品を入手してきたのだ。

 ピッキングの技術が無い為に、聖世の家の鍵を、彼のワゴン車の中から見つけて、彼の家

の郵便ポストの中へと放り込んだ。


 ……令谷が悪い。せっかく、人を虐げながら、殺害出来ると思ったのに……。

 その腹いせで、葉月は、聖世のコレクションの一部を奪い取る事に決めたのだった。


 葉月は人を殺したい。

 あるいは、人を殺してゾンビとして蘇らせてしまいたい。


 その欲望を押さえられるだろうか…………?

 彼女はまた、シリアルキラーが出てくる事を願っている。

 そいつは自分の手で殺害する。


 もし、殺しても構わない人間を殺せないのなら…………。

 葉月は、暗い欲望を、頭の中で空想していた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?