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『イラスト』へとなる少女。

 百合果(ゆりか)は絵を描くのが好きだった。

 中高生の頃は、受験の合間にだって絵を描いていた。


 だから、大学生になった今も絵を描いている。


 少女漫画チックな絵だ。


 彼女は最近、ある一人のイラストレーターを気に入っている。


 SNSでメッセージを送ると、丁寧に返事をしてくれる。

 ファンからのメッセージやコメントに対しては、一つ一つ返事を返してくれるイラストレーターだ。名前はKozi。可愛らしい清純な少女の絵を描いている。そして、Koziは別の名前で過激なエロ漫画を描いていたり、他にも、ロックバンドのジャケットを手掛けたりするプロの絵師としても有名だ。少なくとも、彼は絵柄を三つ使い分ける事が出来る。

 十代でデビューして、中高生の絵描きの憧れの的でもある。

 彼は容姿が整っており、髪の毛の色を紫や薄い赤に染めたりする。


 そんなギャップが、Koziの魅力だった。


「嬉しいな。またKoziから返信を貰ちゃった」

 百合香は、うっとりとした顔をしながら、お絵描きソフトを起動して、少女漫画にメルヘンチックの絵を絵を描いていた。百合香は秋が好きだった。秋に生まれたからだろうか。秋空や、秋の黄昏。曇り空。紅葉。そういった絵を表現したい。彼女は暖色が好きで、赤やオレンジ、黄色といったものを好んだ。


 Koziも暖色を好むイラストレーターだった。

 過激なポルノを描いているのと、清純な女の子も描ける。そして容姿端麗。

 それらのギャップこそが、彼の魅力だった。


 ……みんなの、憧れの的なんだよね。


 ふと。

 百合果はメールを確認する。


 彼は先日、個人レッスンを行ってもいい、と、個人サイトで書いてあった。

 一度、絵を見てから、安価の授業料で指導をしてくれる。

 百合果は、それに応募したのだった。


 男だから、騙されて身体を狙われる、と、匿名掲示板では書かれてプチ炎上をしている。けれども、Koziは、そんな事も自分の知名度を上げて話題作りの為に楽しんでいるみたいだった。余裕のある男というイメージだ。それに、個人レッスンは別に女性限定でもない、以前、男性でプロイラストレーターを目指している少年が抽選で見事に当たり、数万円くらいで、彼から個人レッスンを受けたらしい。結果、かなり厳しい事も言われたが、自分の駄目な部分がかなり改善されて、今では、そこそこSNS上でファンが得られる程になっていると、その少年は述べている。


 百合香は、スマホを弄っていた。


 すると。

 Koziからのメールがあった。


 最近では、Koziは、免許証や学生証などのコピーを添付して送るように言っている。なんでも、イタズラでメールを送ってくる人間が多いのだそうだ。その為に、個人情報をある程度、証明出来るものを送るようにサイトで言っている。そんな事を行って、だいぶ、イタズラメールが減ったのだそうだ。


 そして、身事、百合果は、Koziからの個人レッスンに当選した。


 現在の金額は四万円。

 場所は都内、××駅付近にある喫茶店。

 アナログ絵の場合は、描いた絵をファイルして好きなだけ持ってくる事。

 デジタル絵の場合は、パソコンかスマホに絵のデータを入れて持ってくる事。


 Koziはアナログとデジタル、両方を指導する事が出来る。


 実際は、個人レッスンは、Koziにとって、損の方が多いらしい。

 数万円程度で、みっちり指導してくれる。

 他人を指導する事によって、自身のプロ意識も上げていく、というのが、Koziの考えらしかった。この向上心に、みな彼に男女問わず好意を抱いている。


「ああ。会ってみて、ボロクソ言われるのかなあ…………」

 百合果は、当日が待ち遠しかった。



 葉月はオフィスで煎餅を口にしながら、Koziこと、聖世 弧志(せいよ こじ)の公式HPを眺めていた。


 前回と前々回の被害者の共通点として、絵を描くのが好きな、若い女。SNSで絵を投稿していたという情報は既に入っている。


 この男は、大胆不敵にも、ターゲットとなった犠牲者から、自分に辿り着く道筋を示してしまっている。SNS上で、この男を取り巻きになっているイラストレーター志望の者達。この中から、次の犠牲者が出る。


 犠牲者の共通点を見つけるのは、刑事課の警察達でも時間の問題で、この男に辿り着く事が出来ただろう。こいつは、捕まる覚悟で犯行を行っている。


 令谷達にも言ったが、刑事課の人間達が、この男を捕まえるまでに、おそらく、後、四、五名程、犠牲者が出る。


 それを止めるのが、葉月の仕事だった。


「馬鹿。というよりも、挑発的、世の中に自分が優れていると自己顕示欲を満たしたいって考えの人間ね」


『ナイト・リッパー』聖世 弧志は、次の標的であろうイラストレーター志望者である少女の絵とSNSのアカウントを晒している。今回の個別指導の当選者として。

 前回と前々回の場合は、どうも当選者の絵を載せるという企画は行っていなかったらしい。今回が初だ。今後も、個別指導の当選者の絵は、彼のHPに載せて、絵とSNS先を載せる方針らしい。


 絵描きとしての名前から本名は分からないが、葉月は、このイラストレーターの少女のSNSを漁っていて、幾つかの個人情報を発見して、この少女が使っている、別のSNSへと辿り着いた。すると、そこには少女の本名や経歴などを見つける事が出来た。


 叶多百合果(かなえだ ゆりか)。21歳。大学生。

 この女が次の標的で間違いないだろう。


「どう考えても。私達『特殊犯罪捜査課』への挑戦状だと思うのが、妥当かしらね? あるいは、警察組織全体への。もしくは、他のシリアルキラーへの対抗意識か。まあ、きっと、その全てでしょうね」


 葉月は、席を立つ。

 そして、席の隣に置いてあったギターケースを握り締める。


「さてと。この男を始末しに行くわよ。富岡が、住んでいる場所まで特定してくれたし」

 葉月は、壁際にいる令谷に告げる。


 令谷は頷き、スナイパーライフルである狩猟銃の入ったケースをロッカーから取り出す。

 葉月はネクロマンシー(死霊術)を使える線香と、シャベルの入ったギターケースを担いだ。


 切り裂き魔をこれから捕らえに行く。

 普通の犯罪者だったら、刑事課の警察に引き渡して日本国の法律に裁かせる。

 もし“異能者”だったら、この手で始末する為に。



 令谷と葉月が警察署を出たのと、同時刻だった。


 腐敗の王は富岡のパソコンから辿った情報を元に、連続殺人鬼『ナイト・リッパー』あるいは“現代の切り裂きジャック”のHPにアクセスしていた。


「こいつの位置情報は分かった。簡単な仕事だった」

 腐敗の王は回転椅子をくるりと回して、白金に告げる。


「で。どうしたい? この馬鹿なのか無謀なのか分からない男を」


「私の模範犯かもしれない。なら迷惑よ」

 ブラッディ・メリー化座彩南は、本当に嫌そうな顔をしていた。


「このアーティストは自分の“ファンを二人”も殺害しているんでしょう?」

 白金は自分達のボスに訊ねる。


「ああ。三人目の犠牲者が出るかもしれないなあ」

 腐敗の王は飄々とした言い方だった。


「彩南さん。僕は動くよ」

「正義の味方に目覚めた? 私達はどう考えても悪党なのに?」

 ブラッディ・メリーは、スワンソングに訊ねる。


 スワンソングは、少し考えてから答える。


「このイラストレーターの絵を最初に見た時。“僕は素晴らしいと思った”。でも、彼には失望したな。裏切られた気分だ。許せない。“ファンを二人も殺した”。彼を凄く尊敬していたんだろう? でも、凌辱して、殺した」

 白金は懐からナイフとロープを取り出す。


「彼は始末する。最後の歌を歌って貰う」

 白金の瞳は、深い憎悪と怒りを称えていた。


「なら。決まりね。朔ちゃん、私達も向かうわよ」

 化座は車庫に入れてある車へと向かう。

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