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フルムーン Silver Bullet
朧塚
ホラーホラーコレクション
2024年08月29日
公開日
50,256文字
連載中
『特殊犯罪捜査課』。
それは異常な事件を引き起こす”サイコキラー”や”連続殺人犯”を捜査する警察組織だった。

都市の闇にひしめく怪物達。
かつて、彼らは人間であった。
だが、彼らは異常な犯罪者として人々に牙をむける。

拳銃使いの少年・牙口令谷(きばぐち れいや)は彼らを”狼男”と呼ぶ。
令谷はある時、黒魔術により、親友の少女を蘇らせた少女・葉月と出会い、二人は異常な事件の解決をしていく。

これは。
異常な殺人犯達と戦う、少年少女の物語。

※本作品にはグロテスクな描写が多く入っております。苦手な方はご注意ください。
※ヤンデレ、百合、特殊性癖などの要素も大量に詰め込んでいます。

序章 反魂の儀式 1


 スティーブン・キングの映画に『ペット・セメタリー』という作品があるのだが、内容はペットのお墓があって、そのお墓の先にある邪悪な土地にペットの死体を埋めたら生き返ってきたという話だ。


 私の近所にも有名な“ペットの墓場”があって、みんな、そこに亡くなったペットを埋めに行った。犬だったり、猫だったり、鳥だったり、熱帯魚だったりした。変わったもので、爬虫類を埋めに行った人もいるらしい。小学生達はよくカブトムシやクワガタなどを埋めに行っていた。


 高校一年生からの友人である怜子りょうこと共に、私はペットのお墓へと向かった。怜子の猫は十六歳で大往生したらしい。そこで、例のペットのお墓に埋めに行こうと誘われた。


 古い朽ちた鳥居がある雑木林の向こう側に、その墓場はあった。


 私と怜子は、丁寧に布に包まれた老いた猫の死体を埋めにその場所に向かった。

 鳥居をくぐった先に、沢山の小さな十字架や墓石が作られているお墓があった。ペットの名前が書かれているお墓もあった。


「ナルエも土に還っていくんだね。魂はお空に行ったのかな」

 ナルエというのは、猫の名前だ。

 怜子は、まだ誰もお墓にしていない“空席”に、小さなスコップを突き立てて土を掘っていく。


「ねえ、葉月はづきちゃん。身体は土に還っても、魂はお空に行くのかな?」

「そんなの分からないよ。死んだ後の事なんて」


 私達は、ナルエに土を被せる。

 そして、上から石で簡易的な墓石を作り、木の枝で十字架も作った。


 私は最近、死に関してよく考える。


 少し前に、祖父を亡くしてしまったからだ。

 祖父の顔は、とても安らかだった。

 八十半ばだった。

 突然の癌で、あっという間に亡くなってしまった。


 葬儀の時に、祖父の顔を見たが、まるで生前の祖父と変わらなかった。

 私は、祖父の死を受け止められずに何度も祖父の顔を写生した。

 肌に触れると、氷のように冷たかった事を今でも思い出す。



 怜子といつまでいられるのだろうか?

 私は、そんな事を考えていた。

 高校を卒業すれば、別々の処に行く。

 私は大学の文学部に、怜子は服飾関連の専門学校に行くと言っていた。


 高校一年の今頃、ずっと親友でいよう、という約束が頭に残っている。

 別の友人とも交わしたが、その友人は彼氏が出来て、私と怜子とは次第に遊ばなくなってしまった。正直な処、寂しい想いがある。



 その場所に行くには、ペットのお墓のずっと向こう側を通っていかなければならないと聞かされた。


 湿地帯になっており、水の中から木々が生えている。

 濁った濁流の河が流れており、足場に気を付けなければ大怪我を負ってしまいかねない場所だった。蚊やアブ、蛾などの羽虫が飛んでおり、うかつに踏み込むと、すぐに虫達に刺されて酷い炎症に見舞われるような場所だった。


 私は、ペットの墓場の先に向かう。


 そこは、鬱蒼とした沼地だった。

 今にも、何か得体の知れない怪物が現れるような雰囲気を醸し出していた。


 この先の土地は、昔、神聖な場所だったと聞いた事がある。

 昔、神聖な儀式を行っていた土地らしい。


 昔、神社があったのだが、取り壊されてしまったらしい。

 ただ、今では朽ち果てていて、完全に荒れ地になっている。

 今では、冥界と繋がっている場所だと、地元の噂で聞いた事があった……。



 あのペットの墓場に、怜子と一緒に行ってから、月日は流れた。


 怜子の死を知らされたのは、三月の下旬だった。

 卒業式も終わり、もうすぐ四月になる頃だ。


 怜子はマンションの屋上から転落死したとの事だった。

 そして、私とクラスメイトの卒業生達は、怜子の葬式に向かう事になった。

 卒業した学校の制服を着る、というのも、おかしな事なので、みんなスーツで行く事になった。中には、黒っぽい私服で来た元クラスメイトもいた。


 一人一人、お焼香を上げていく。

 怜子の家族の意向で、棺の中に入っている怜子の顔を拝む事も出来た。


 私はその時、こっそりと、怜子の髪の毛を何本か引き抜いた。


 やがて、葬式は終わり、怜子は火葬場に連れて行かれた。

 火葬の際には、家族のみが立ち会うという事になり、私や元クラスメイトは帰された。


 私の手の中には、何本もの怜子の髪の毛が握り締められていた。

 怜子の顔は死化粧が施されて、まるで生前と同じように綺麗だった。



 それから、私はその日のうちに、ある事を行う決心を固めていた。


 闇の儀式の話を、以前、本の中で読んだ事がある。

 私はオカルトなども含めた怪談好きであった為に、世界中の奇妙な逸話などが載っている本を集めていた。


 死んだ人間を蘇生させる方法。


 まず、死んだ人間の爪や髪の毛、血液が必要だと本の中には載っていた。


 それをある特殊な方法で生成した液体の注がれた土の中に埋めて、動物の生き血を垂らしていく。動物の新鮮な生き血は死者の血肉となり、死者を蘇らせるとの事だ。


 死んだ人間には魂が無い為に、魂を呼び戻さなければならない。


 この死者蘇生の儀式は、反魂はんごんの儀式と呼ばれているものだ。



 私は怜子の髪の毛を手にして、ペットの墓場の向こう側へと向かう。

 他に必要な材料はリュックサックに詰めている。


 そして、例の場所に辿り着いた。


 そこは酷くジメジメした場所だった。

 寒いのか蒸し暑いのか分からない。

 霧のようなものが立ち込めている。


 私はリックサックから折り畳み式のシャベルを取り出して、土を掘り始める。


 充分な深さに掘った後、私は反魂の儀式に必要なものを取り出す。


 それは。


 パックに入れたコップ一杯くらいの血液。

 人間の背丈程もある縄。

 何度も人間を写した鏡の破片。

 死んだ人間が埋められているお墓の土。

 線香。

 そして、生きながら取り出した愛玩動物の頭蓋骨だった……私は保健所から貰ってきた猫を使う事にした。


 線香を掘った穴の周辺に突き刺して、火を点けていく。

 縄の先に、怜子の髪の毛を巻き付けていく。

 その後、縄には私が注射器で抜いていった自分の血を充分に浸していく。

 縄を穴の底に入れた。

 その後で、鏡の破片とお墓の土を入れていく。


 私は再び、シャベルで穴を埋めていく。


 本当は縄に巻き付けるものは、死んだ人間の髪の毛ではなく、骨や臓器の一部ならより良いらしい……。

 けれど、さすがに怜子の墓から火葬にされた怜子の骨を取ってくる事は出来なかった…………。


 私はシャベルをリュックサックの中にしまうと、その場所を後にする事にした。


 一週間以内には、死んであの世に行った死者が還ってくるらしい。


 縄は、あの世から死者を手繰り寄せる為に必要なもの。

 鏡の破片は、死者が自らの姿を思い出す為に必要なもの。

 線香は道案内として使われ、入り口と出口にもなる。


 そして、生きた愛玩動物を供物くもつとして捧げる事によって、向こうの世界の住民に通貨として支払う。つまり、魂の道案内の為のお金だ。


 血液とお墓の土は、死者の血や肉となる…………。


 私は、怜子の還りを待つ為に家に戻る事にした。


 途中、ぱらぱらと小雨が降ってきた。

 傘を持ってこなかったので、私は少しずつずぶ濡れになっていく。



 私は自宅の自分の部屋の中で、好物のベビーカステラを口にしながら待っていた。

 外は、いよいよどしゃぶりになっていく。


 どんどん、と、玄関の扉を叩く音が聞こえた。


 時刻は夜の九時頃。

 今日、両親は十時過ぎに帰ると言っていた。


 私は玄関へと向かう。

 そして、覗き穴から外を見た。

 真っ暗な人影のようなものが立っていた。夜だからか、雨粒のせいか、それとも、何か別の理由からなのか、はっきり姿が分からない。


 その人影は、確かにこう言った。


「葉月、ちゃん…………?」

 声はくぐもっていたが、確かに聞き覚えのある声だった。


 私は訊ねる。


「もしかして、怜子…………?」


 声の主はしばらくの間、沈黙する。


「うん、私は怜子」

 ひゅうひゅう、と風の音が遠くで鳴り響いていた。


「扉を開けていい?」

「それはダメ。今日は挨拶に来ただけ」

 怜子は悲しそうな声をしていた。


「まだ、身体が完全じゃないみたい。そして、暗くて怖い…………、また、会いにきていい?」

「うん、いいよ」


 しばらくして、声の主はざっ、ざっ、と、玄関の向こう側から足音を立てて去っていく。


 私は玄関のドアを開けてみる。

 みると、玄関の外側には、泥の手形が付いていた。



 それから、夜の八時から九時。時には、深夜の一時から二時の丑三つ時に掛けて、怜子は玄関の前に現れるようになった。


 彼女は自分の身体には、まだ血肉が足りていない。泥で作られていると言った。だから、肉が必要なのだと。


 私は冷蔵庫を開けて、豚肉や鶏肉を用意して、玄関の扉を開いて怜子に渡した。玄関のドアは決して開けないように言われた。

 玄関の外では、ガツガツと、怜子が生肉を口にしていた。


「ありがとう、葉月ちゃん。私は今日は帰る。また同じ時間に会いにくるね」

「何か他に欲しいものはある?」

「そうだね。出来れば、生きている動物がいいかな」

「そう。頑張って、探してくる」

 私は微笑する。

 玄関の向こうで、怜子はとても嬉しそうだった。




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