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転生未遂から始まる恋色開花
にぃ
現実世界現代ドラマ
2024年08月28日
公開日
57,269文字
連載中
転生せずとも僕は創作で無双する



「「はやまらないでー!!」」

それは二人の高校生小説家が飛び降り自殺を図る……という勘違いから始まった。

これは奇妙な出会いを果たした高校生作家の雪野弓と天才美少女作家の雨宮花恋のラブコメ物語――
と思いきや、担当の美少女イラストレーターとの仲もドンドン深まっていって……

ちょっぴり面倒くさい思考をもったクリエイター同士が惹かれ合い、そして恋に落ちていく。



「私は世界一貴方の小説のファンなんだから」
担当イラストレーターに作品を愛されて――

「どうして雪野さんの小説はいつも私を驚かせてくるのですか!?」
偶然出会った有名小説家にも一目置かれてしまう。

「いや、僕の小説なんて2人の作品に比べたら遊びみたいなものだから」
自称平凡小説家と神絵師と有名作家によるクリエイトイチャラブストーリー。

コメディ有り、シリアス有り、もちろんイチャラブもありの恋愛小説家の恋愛物語です。

第1話 転生未遂

 ――ねぇ、転生って信じる?


 ――実はね。転生って簡単にできるんだ。


 ――今からキミにそのやり方をおしえるね。







「我ながらなんてベタな書き出しをしてしまったんだ」


 人気小説投稿サイト『小説家だろぉ』に作品投稿を行った直後だが、僕は早くも後悔の念に駆られていた。


「『だろぉ』への復帰作なんだから異世界転生モノを投稿するのは間違いではないよな、うん」


 PCの前で自分に言い聞かせるように自答する僕。

 投稿したばかりの自分の小説をもう一度じっくり観察する。


 『転生って信じる?』ってなんだよ。誰のセリフだよ。特に決めてないよ。

 誤字無し。脱字無し。

 面白さ……なし。


「うぅ~ん。思ったよりも難しいぞこのジャンル」


 書いては消して、また書いては消してを繰り返していくうちにわかったことがある。

 このジャンルは他ジャンル以上にプロットを重視しなければいけない。


「投稿しちゃったものはしょうがないけど、今からでもプロットを再編成すべきだな」


 だろぉには僕の満足感を満たす作品で溢れている。

 そういえば最近金襴さん投稿してないな。『転生バトルオンライン』の続き早くみたいのに。


 数えきれないくらいの面白さがここにはある。僕はこのサイトが本当の本当に好きなのだ。

 そんな偉大な作品が溢れるサイトの片隅に自分の作品を投稿し、それが少しでも誰かの目に触れてもらえたらなと思っている。

 とは言っても、実はここに小説を投稿するのは2作品目だ。

 1作目は――まぁ、いいや、その話は。今は新作をどう面白くするかを考えなければ。


「でもだめだ。何も浮かばない。寝よ」


 ブラウザを閉じ、PCをシャットダウンさせようとする。

 ふとスタートメニューの隣の手紙アイコンに目が行った。


「メールか」


 1件受信メールがあるようだ。

 僕は宣伝やら広告やらは全てメールに入ってこないように設定している。

 それなのにメールだけは頻繁に届く。


「あの人からだろうなぁ」


 僕にメールを送ってくるとしたら『あの人』しかいない。

 無いとは思うけど新作小説のダメ出しとかだったらどうしよう。

 あの人には悪いけどメールは明日見よ。

 僕はメールボックスを開かずPCを落とし、すぐにベッドへ飛び込んだ。


「はぁ。新作投稿なんて早まった真似だったかな」


 自分が起こした気の迷いに僕は早くも消沈気味にため息をつく。

 明日自分の小説のPVを見るのが少し憂鬱だった。







 ――ねぇ、転生って信じる?


 ――実はね。転生って簡単にできるんだ。


 ――今からキミに……そのやり方をおしえるね。


 ――その方法はね。







 ――ここから飛び降りればいいんだよ







 キーンコーンカーンコーン


    ガバッ!


 チャイムの音と共に飛び上がるように悪夢から目が覚める。

 夢か。

 自分の小説書き出しがフルボイスになって夢に登場ってどんだけ後悔してるだ僕は。


「うぉ! もうこんな時間か!」


 夕方6時。

 昨日夜更かしたせいか眠気が全然取れず、放課後になっても下校せずに僕は自分の机で仮眠していた。

 ほんの10分くらい寝る予定だったのだけど、がっつり2時間寝ていたようだ。


「帰ろ」


 僕は足早に教室から出て帰宅に着こうとする。

 ふと窓の隙間から除くオレンジの光に目を奪われる。

 もしかしたらこの時間なら……あの場所なら……夕暮れ時の幻想的な風景を一望できるかもしれない。

 僕はクルリと踵を返し、学校内で唯一のお気に入りの場所へ向かうことにした。







 旧校舎と新校舎を繋ぐ長い渡り橋。

 1年生の時、僕はこの場所を見つけ、ほぼ毎日ここに足を踏み入れていた。

 昼休みのぼっち飯はいつもここで喰らう


 僕はこの学校に友達が居ない。

 友達が少ないとかそういう次元じゃなく【いない】。

 そんな、ぼっちの拠り所ともいえる神聖な場所がここだ。

 最初は屋上に足を踏み入れたりしていたのだけど、屋上は意外に人が多い。

 学内で一番景色が良い場所だからだ。

 そこでお弁当を食べたり、雑談したり、とにかく人が多すぎてとても落ち着けるスポットではなかった。

 だけどこの場所は本当に人が来ない。ここはとても静かな場所だった。


「おぉぉ」


 いつもお昼に来ていたから気づかなかった。

 夕暮れ時のこの場所はなんて幻想的なのだろう。

 夕日に照らされた校舎や中庭。空には一番星。いつも見ているお昼の校舎とは別次元の風景が広がっていた。

 僕は鉄柵に腕をもたらせ、ぼーっと日が沈む光景をただ眺めていた。


「なんか僕の高校生活って……」


 本当に実りのなかった日々だった。

 友達がおらず、人の会話にも入っていかず、班別行動でも煙たがれ……

 これが人生で一度きりしかない青春の高校生活だなんて他人が聞いたら憐れむんだろうな。


 だけど不思議と青春をやり直したいだなんて思わなかった。

 だろぉ系小説の人気ジャンルに【逆行系】というものがある。

 僕みたいに実りのない高校生活を送っていた人間がふとした不思議パワーで入学初日に過去戻りするというものだ。

 物語の主人公なら若干のチート能力を使って2度目の高校生活をバラ色に染めてくれるのだろう。

 だけど僕は雪野弓。

 雪野弓が逆行したところで全く同じルートしか辿れない雪野弓が出来上がって終わってしまうことはわかりきっていた。

 だから僕が求めているのは逆行ではない。


「僕が求めていたのは――」


 ――ねぇ、転生って信じる?


 鉄柵に身を乗り出し、下の方を覗き見る。

 うへぇ、たっかい。3階の渡り廊下とはいえこの高さは死ねるな。

 地面についてない足がガクガク震える。

 怖がっている――つまり本心では死にたくないと震えが言い表している。

 良かった。まだ僕には生に執着があるようだ。

 それだけ確認できればもうこんな危ない真似する必要はない。

 僕はゆっくり体重を後ろに戻し、安全圏である鉄柵の内側に身を戻そうとする。


「「………………」」


 不意に僕の側方から気配を感じた。

 妙な体制のままゆっくり右方を確認する。


 人が居た。

 僕と同じ3年生が着用する赤いネクタイの女生徒。身長は僕よりやや低く華奢な体質。

 ブラウンの長髪が鉄柵の外側に垂れかかっているところを見ると、彼女は鉄柵から身を乗り出して下方を見ていたことがわかる。


 目が合っていた。

 僕と全く同じ体制の女生徒。パチクリ開いた瞳は更に大きく広がり、その表情は徐々に強張ってゆく。


「「は…………」」


 僕と謎の女生徒が全く同時に声を上げる。

 そして全く同じ言葉の絶叫がその空間に木霊した。


「「はやまらないでーーッっ!!」」


 絶叫と共に僕たちは地面に着地し、それぞれがお互いのもとに駆け寄った。


    ドンっ


 互いの中間点でそれぞれが繰り出した両手に包まれ、抱き合う形になってしまう。

 その抱擁はガッチリとホールドされ、互いに力強く引き寄せる。


「「………………あれ??」」


 その体勢のまま僕らは見つめあったまましばらく頭の上にクエスチョンマークを浮かべるのであった。

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