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第6話

いつも通り、宗孝は、朧気おぼろげになりながらまたがる馬に導かれるまま、余理の庵を訪れていた。




へやは、ほのかな百合の匂いにつつまれ、その甘い香りの中で宗孝は、静かに余理からの酌を受けている。




「まあ、それでは手柄は、頼近様の横取り?」




「いや、違う。それが、あやつの仕事なのだ。私は事務方。強いていえば、今回起きた事の報告を整理するのが仕事……」




「なんだか、解せませぬ」




結局、頼近の名前だけが世に出るだけと、余理は、不満げに宗孝を見る。




「でも、宗孝様……その男、本当に琵琶の演奏を避けるためだけに、バチを抜いたのでしょうか?」




いいや、と、宗孝はきっぱり言うと、杯を開け、余理へ向かった。




「お前の思っている通りだよ。男は、始めから、琵琶に目をつけていた。あってもなくても、さほど困らない楽器だと……。そして、売れば、金になると思っていたのだろう」




その男に、琵琶を堂々と持ち出せる機会がやって来た。しかし、蒔絵が邪魔をした。




売ってしまえば、足がすぐについてしまうと、男は気がついたのだ。




たちまち、手元に置いておくのも恐ろしくなり、鬼のせいにして、誰かが動くのを待っていた──。




「それが、真相だろうなぁ」




頼近も、あえて、噂に乗ったのだ。




男を、琵琶と共につき出せば、宴の事が公になる。雅楽寮の、はたまた、宮中の人間が、一介の白拍子の為に奏でた事が表に出てしまう。




宴に集まっていた面々も、また、曲者だった。




知れてしまえば、世間からの避難は避けられず、たかが戯れ、という話で収まる話ではなくなるだろう。




頼近は、そこを一番、恐れたのだ。




果たして、頼近は、どのように、この顛末をまとめるのであろう。




羅城門と鬼──。




お似合いの取り合わせではある。しかし、本当に、鬼の仕業で、通すのか。




自分の所へ上がってくるであろう、報告書の事を思い、宗孝は、頬を緩ませた。




お手並み拝見と、いこうではないか……。




いぶかしげに見つめる、余理の視線に気がついた宗孝は、とっさに言った。




「……まあ、男が売ったのは、バチ、ぐらいだな。そのうち、男はバチが当たるだろうか?」




「まあ!」




クスクス笑う余理に、宗孝は思う。




(わざわざ、聞かなくとも、主も、覗き見していただろうに……)




あの時、ホタルがいたのだ。余理も、どこかにいたはずで、たとえ、いなかったとしても、ホタルから話の顛末を聞いたはず……。




宗孝は、杯を置くと、余理を抱き寄せた。




「まあこれも、結局は、単なる都の噂話ということよ。噂は、主の方が詳しいであろう?続きを御簾の奥で聞かせてくれぬか?」




言うと、宗孝は、余理の紅く熟れた唇を奪い、その華奢な体を抱いて、御簾の奥へと向かったのだった。

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