話からすれば、美代は、良家のしかも、とてつもなく身分のある家の子女になるのだが、あの暴君少女のお付きをして、質素な身なりに挙げ句、掃いていたブーツが、散々なことになった。それで、どうして、宮中なのか?まるっきり、話が合わない。
美代自身が、虚偽を語っているとも思えない。見かけだけがついていってないのだ。人間、見かけで判断してはならないと、ステファンは、常々思っているが、それでも、あまりにも、滑稽というか、これはどうなっているのだとしか言いようがない状態だった。
「何をしている!美代!」
どうしたことか、カールが小屋のドアを開けて立っていた。
「カール!ノックぐらいしなさい!美代さんに失礼だろう!」
ステファンがカールに抗議した。
「旦那様、何故美代を甘やかすのですか?立場をハッキリさせなければ、カサンドラ嬢のご機嫌を損ねることになるでしょう」
冷たくだが、カールは、いつもより強い口調で答えた。
「カール!カサンドラ嬢とは?美代さんとは関係ないだろう?!」
「確かに、関係ないかもしれません。しかし、美代と二人きりになるのは、確実に、カサンドラ嬢を不快にさせるでしょう。旦那様も、その点を配慮していただきませんと!そもそも、美代は、メイドです!」
「ちょっと待て!美代さんは、メイドではないだろう!お前達がそう言っているだけで、私は、ゲストだと思っている。ひょっとしたら……そうあるべきを越えているかも……」
先程から美代が言っていることをステファンは、頭の中でまとめてみたが、言葉の端々から読み取れる物は、美代の普通ではない出身、もしくは立場だった。ひょっとしたら、自分よりも格上の家となんらか、関わりがあるのではと、思い始めていた。
そこへ、カールの見下ような態度……。ステファンは、自分が馬鹿にされたかのような気分になった。しかも、カサンドラ嬢の名前まで出して。さすがに、関係ないだろうと、ステファンも苛立って来る。
「あ、あの、私は、ステファン様に近寄らないように言われて、それで、部屋に下がっていたのです……」
おどおどと、美代がカールへ弁解した。
「なっ?!それは、なんだ!カール!!美代さんも、そんなことは守らなくてよろしい!」
美代の言い分をカールはふんと鼻であしらい、ステファンの怒りに、冷たく応じる。
「守ってもらわなければ、困ります。いえ、正確には、やっかいなことに巻き込まれる。カサンドラ嬢は、確実にお怒りになられるでしょう……」
「いや、だから、なぜ、さっきから、カサンドラ嬢の名前を出す?!」
さっぱり訳がわからぬと、ステファンも、怒り心頭だった。
「……旦那様、カサンドラ嬢が、当屋敷に来られます。あなた様、ステファン様にお会いになるために!」
「な、なんだって?!それは、どうして?!」
たちまち、ステファンの顔つきが険しくなった。
「カール!!私は、彼女とは何も関係ないだろう?!」
「旦那様!!それは、美代も一緒、いえ!カサンドラ嬢は、少なくとも、取引という面で重要な役割をはたしております。国元で、一番の豪商のご令嬢でございます!ご機嫌を損ねたら、今後の商談にもなんらか、影響が出て参るでしょう。よく、お考えを!」
カールは鋭い視線をステファンへ向けると、先々の利潤を考えろと、責め立てて来る。
「し、しかし……何故、彼女が……」
「わかりませんが、とにかく、お会いしたいと、手紙には……。ただの面会という意味合いではないと、私は文面から感じました。……お二人の関係をハッキリさせたいというようなことが書かれておりましたので……」
「カール!私と彼女の関係もなにも!私達は、何でもないだろう!!」
「しかし、ステファン様。先方は、そのつもり……」
「そのつもりとは、なんだ!」
ステファンの怒りは相当なもので、向けられたカールは、流石にたじろいでいる。鋭い眼孔も、動揺からか揺れていた。
美代は、前で繰り広げられている、怒鳴りあいに近いものにびくついていた。
温厚な、どこか掴み所のないステファンが、カールを咜りつけている。そして、でて来る、カサンドラという名前……。ステファンとカールの言い合いから、望まれない客という感じはするが、ステファンとそのカサンドラという女性らしき人物とは、どの様な関係なのだろうか。
ステファンへ来客があるという話なたけで、美代は関係のないことなのだが、どうしてか、心がざわついた。