──馬車は、あてもなくどこまでも走り続けているに等しかった。
ゴトゴト小気味良い揺れが、美代に再び睡魔を呼び起こしてくれている。
見れば、ステファンも目を閉じており、その膝の上では、四郎が完全に眠りこけていた。
ステファンはともかく、助けてくれるはずの四郎が、呑気に眠っているとは!
美代は、愕然とした。
大丈夫なのだろうか。本当に、このままで良いのだろうか。恐ろしさよりも、一種の謎解きのように美代の考えはぐるぐる回る。
しかし、ついに眠気に負けてしまったようで、瞼が勝手に閉じ始める。
(い、いけない!いけない!眠ってしまっては!!)
何が起こるかわからないのに、眠ってしまうのはまずかろう。
だが、焦っても、抗っても、睡魔は容赦してくれず、瞼はしっかり閉じようとする。
仕方ないと、美代は気をそらして、どうにか目を覚まそうと、窓から景色を眺めて見るが、どうしたことか建物が段々と少なくなっていく。
街の中心部を外れ、いわゆる住居地区、住宅街にやって来たのかと思ったが、それともなんだか異なっていた。
行く本も存在する道、路地は、消え失せ一本道になってしまっている。
ポツン、ポツンと住居らしきものは見えた。しかし、それらも徐々になくなっていく。
おまけに、馬車が傾いた。坂道が現れたのか?
美代は、眠い目を擦りつつ、確認しようとしっかり窓から外を眺めた。
丘が見える。
馬車は丘を登っているようだ。
と、いうよりも、一体居留地はどうなっているのだろう。狭い区域に異国人が詰め込まれているとばかり思っていたが、実際はあまりにも広大で、一般の街の作り、土地と変わりがない。
もしや、川、しいては、海なども出現するのではなかろうか。これは、一つの出入り口で管理されている場所ではない。街、村、そういった類いの地域ではないか。
美代は、思いもよらない風景に、唖然としていた。
「ああ、先に見える丘の上にあるのが、私の屋敷です。中心部からかなり離れておりますが、裏には小さな雑木林も広がっていて、散歩すれば、リスなどの小動物が見れますよ?慣れれば快適な場所なんですけど……、使用人達は、買い物など不便だと、不満なようですがねぇ」
眠っていたであろうステファンが、いつの間にか美代に解説してくれていた。
「え?!あっ?!リス?」
ステファンの屋敷は、自然にかこまれた、ではなく、単なる田舎にあるのだとわかった美代は、ますます居留地というものの謎に陥り、ひどく混乱した。
「まあ、美代さんもすぐに慣れますよ」
「え?!な、慣れる……ですか?!」
それはどういう意味なのだろう。思い起こせば、屋敷に招待を受けただけのはず。慣れると言うことは、滞在せねばならないのだろうか?それは、つまり、ここに、居留地に、住むということなのか?
(ひょっとして私、一生ここから抜け出せないってこと?!)
美代は、とっさに命綱と言っても過言でない四郎を見る。
ところが、美代の心の叫びなどお構いなしで、四郎は、あくびをしながら首を伸ばし、馬車の外を物珍しそうにキョロキョロ眺めているだけだった。