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第27話

 ──馬車は、あてもなくどこまでも走り続けているに等しかった。


 ゴトゴト小気味良い揺れが、美代に再び睡魔を呼び起こしてくれている。


 見れば、ステファンも目を閉じており、その膝の上では、四郎が完全に眠りこけていた。


 ステファンはともかく、助けてくれるはずの四郎が、呑気に眠っているとは!


 美代は、愕然とした。


 大丈夫なのだろうか。本当に、このままで良いのだろうか。恐ろしさよりも、一種の謎解きのように美代の考えはぐるぐる回る。


 しかし、ついに眠気に負けてしまったようで、瞼が勝手に閉じ始める。


 (い、いけない!いけない!眠ってしまっては!!)


 何が起こるかわからないのに、眠ってしまうのはまずかろう。


 だが、焦っても、抗っても、睡魔は容赦してくれず、瞼はしっかり閉じようとする。


 仕方ないと、美代は気をそらして、どうにか目を覚まそうと、窓から景色を眺めて見るが、どうしたことか建物が段々と少なくなっていく。


 街の中心部を外れ、いわゆる住居地区、住宅街にやって来たのかと思ったが、それともなんだか異なっていた。


 行く本も存在する道、路地は、消え失せ一本道になってしまっている。


 ポツン、ポツンと住居らしきものは見えた。しかし、それらも徐々になくなっていく。


 おまけに、馬車が傾いた。坂道が現れたのか?


 美代は、眠い目を擦りつつ、確認しようとしっかり窓から外を眺めた。


 丘が見える。


 馬車は丘を登っているようだ。


 と、いうよりも、一体居留地はどうなっているのだろう。狭い区域に異国人が詰め込まれているとばかり思っていたが、実際はあまりにも広大で、一般の街の作り、土地と変わりがない。


 もしや、川、しいては、海なども出現するのではなかろうか。これは、一つの出入り口で管理されている場所ではない。街、村、そういった類いの地域ではないか。


 美代は、思いもよらない風景に、唖然としていた。


「ああ、先に見える丘の上にあるのが、私の屋敷です。中心部からかなり離れておりますが、裏には小さな雑木林も広がっていて、散歩すれば、リスなどの小動物が見れますよ?慣れれば快適な場所なんですけど……、使用人達は、買い物など不便だと、不満なようですがねぇ」


 眠っていたであろうステファンが、いつの間にか美代に解説してくれていた。


「え?!あっ?!リス?」


 ステファンの屋敷は、自然にかこまれた、ではなく、単なる田舎にあるのだとわかった美代は、ますます居留地というものの謎に陥り、ひどく混乱した。


「まあ、美代さんもすぐに慣れますよ」


「え?!な、慣れる……ですか?!」


 それはどういう意味なのだろう。思い起こせば、屋敷に招待を受けただけのはず。慣れると言うことは、滞在せねばならないのだろうか?それは、つまり、ここに、居留地に、住むということなのか?


(ひょっとして私、一生ここから抜け出せないってこと?!)


 美代は、とっさに命綱と言っても過言でない四郎を見る。


 ところが、美代の心の叫びなどお構いなしで、四郎は、あくびをしながら首を伸ばし、馬車の外を物珍しそうにキョロキョロ眺めているだけだった。


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