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第26話

「……ということで、早退と休みを願い出ます」


 事務室で、煌が手続きを行っている。


「はい、分かりました門代煌さんですね?」


 丸眼鏡をかけた、どこかやる気のなさそうな事務員の男が、煌より提出されている諸手続きの書類に目を通している。


「確かに受理しました。どうぞお気をつけて」


 通りいっぺんの台詞を言うと、事務員は受け取った書類を机に置いて、中断していた自分の仕事に戻った。


 煌は、男へ軽く会釈をすると、事務室を後にする。


 病で臥せっている祖父の容態が芳しくないということにして、暫く学校を休むと届け出た。


 もちろん、居留地へ潜入する為なのだが……。


 煌には、影武者がいない。それは、女であるため後継者として考えられていなかったからだ。しかし、当主であった父親が早急してしまい、煌に跡取りの役目が急遽回って来る。


 突然の事に、門代家は混乱したが、祖父が当面補佐するということで話をまとめた。


 そんな経緯があるからか、守られるべき当主であるにも関わらず、煌には影武者がおらず、また、煌自身、今さら必要なしと拒否していた。


 どうゆう思惑で、拒否するのか、八代を含め部下である隠密達も気になる所だったが、おそらく、跡取りとして見られていなかったにも関わらず、仕方なしとばかりに跡目を継がされた事への反発、意地のような物が働いているのだろうと皆、薄々感じていた。


 よって、任務を含め、学校に来れない場合、煌も他の生徒同様逐一、届けを願い出なければならなかったのだ。


「さて、学校はこれでよし。では、行くか」


 八代との待ち合わせ場所へ足を向ける煌だったが、ふと、美代の事が頭を過る。


 自分達が助けに行くまで、大人しくしておれるのだろうか。下手に騒いで、おかしな事になってはいないだろうか……。


 否、あの時、なんとかという異国の伯爵の暴挙を何故止められなかったのだろう。


 ごちゃごちゃと口出しして来た挙げ句、美代を勝手に馬車へ乗せた。


 そう、あの時、止めることが出来ていたならば……。


 煌は、親族にわざと言われる、女の当主に何が出来るのかという嘲りを思い出す。確かにそれはあながち間違ってはいないかもしれない。


 自身の力不足を目の当たりにした煌は、悔しさから、ぐっと拳を握った。


 何がなんでも成し遂げる。例え、居留地という立ち入りが制限されている場所でも、潜入し、美代を救いだす。


 覚悟は出来たとばかりに、煌は、キリリと顔を引き締め、同時に、何かひらめいたのか、ふっと、笑みを浮かべた。


「居留地は、立ち入り制限があるだけの場所だ。決して、立ち入れない場所ではない……。うん、あやつら……使えるかもしれんな……」


 ひらめきに、確信が持てたのか、煌はしっかり前を見据えると八代の元へ急いだ。


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