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勘違い伯爵と極貧令嬢~野望と裏切りは愛を運ぶ~
井川奎
異世界恋愛和風・中華
2024年08月28日
公開日
75,597文字
連載中
勘違いから始まる疑似大正ピュアロマンス開幕!
帝を頂点とする日ノ本の国では鎖国政策が廃止され、異国との交流が進み好景気に湧いていた。
そんな中、極貧伯爵令嬢、三門美代(みかどみよ)は、没落寸前の家を守るために節約生活に勤しんでいた。そんな美代だが実は、帝の妃を選出する家の生まれで、いつかは帝の妃となり国母となりえる身分だった。その為、従姉妹でもあり、隠密と呼ばれる警護・影武者集団をまとめあげる門代(かどしろ)家当主、門代煌(かどしろこう)と、その部下、八代によって警護されている。
ある日、偶然通りかかったドラムント王国伯爵、ステファン・ミレーネに、美代は煌の女中と間違われ、なおかつ虐待を受けていると勘違いされてしまう。
伯爵の地位に立つ責任感からステファンは美代を虐待から守るべく自分の屋敷へ連れて行く。
八代と煌も後を追い、ステファンの屋敷に潜入する。しかし、美代は家計の足しにと、ステファンは美代の行く先がないだろうと勘違いし、屋敷の女中に雇われてしまう。
激怒する煌をよそに、美代は他の女中達からの嫌がらせを受けつつも、節約生活で培った家事能力を発揮して行く。そんな美代の姿に、煌と八代は嘆きながらステファンの屋敷に潜伏し続け美代の警護に努めた。
ところが、煌の動きに怪しさが見え隠れし始める。
異変に気がついたステファンは、美代と共に煌を探り始めるが、次第に美代とステファンの距離は近づいて行き……。

煌の怪しい動きは何なのか?
美代とステファンの関係は……?
たぐい希な勘違い伯爵と極貧令嬢の行く末はいかに?!

 今上帝の御世になり、日ノ本の国は空前の好景気に湧いていた。長きに渡って続いていた鎖国政策が緩和され、禁止されていた異国との貿易が認められたからだ。


 政の中心であり、帝がおわす、ここ、東倞とうけいはその恩恵を一心に受けていた。


 目抜き通りの朱雀大路には、異国風のレンガ造りの商店が建ち並び、みちの真ん中をチリンチリンと人避けの鈴を鳴らしながら乗り合い馬車が進んで行く。


その傍らでは、洋装姿の洒落者達が、被る帽子ハットのつばに手を当て、顔見知りと挨拶を交わし、彼らを掻い潜るように着物の尻を絡げた棒手振りが、天秤を担いで駆けて行く。その後を布鞄を斜めにかけた電報配達員が急ぎの知らせを届けているのだろう、息せき切って走り抜ける。


 そんな昼間の雑踏は、日が落ちると様変わりした。


 劇場やビアホールなど店の客引きが、大路で賑やかな声をあげ、戒厳令が下るにもかかわらず街へ繰り出している若者達を離さない。


 瓦斯灯がいとうが、そんな光景を照らしているが、薄闇の道端では、憲兵が忌々しげに、風紀違反者を捕まえようと一夜の楽しみを謳歌する者達を睨み付けている──。


 何もかも、変わってしまった。


 いや、これが新しい御世なのだ。


 チラホラと、皮肉のような批判のような言葉も囁かれるが、東倞の街は異文化という多様な色彩に輝き包まれていた。この華やかさは、帝の御印、対の登り龍のごとく、天を突き抜ける勢いで永遠に続くものだと民は信じていた。


 こうして誰もが豊かに暮らしているはずなのに、どうしたことか勢いについて行けない者がいるようで……。

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