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第19話 始まりの《崩壊》

「《風神》解放」



 地球という惑星の大気圏内をびっしりと埋め立てるように充満している空気。

 生物はそれを利用して、何十億年もの生命を営んできた。


 母なる大地をも優しく包み込むそれは、反面暴虐性を持ち合わせている。


 移動速度で言えば、それは到底光速には及ばないだろう。

 それでも、風は人々へ神秘を与え続ける。


 圧倒的に自然界での性能が劣っているはずの風神が、雷神と肩を並べていられるように。



 ゴォォォォ____。

 空気の本流が東京西部、住宅街の外れにあるとあるビルを襲った。


 が、



「さすがにこんな攻撃を食らうほど間抜けではない、か」



 攻撃をした方、星見琴光がそう呟いた。

 ビルとの距離は百メートルほど離れてはいるが、自身の《ウエポン》でなにかを感じ取ったのだろう。


 彼女は加速し、敵のいるその場所へ、降り立たんとする。

 どうやらそれを歓迎してくれるようだ。


 敵のウエポンか。

 地面が不気味に蠢き、それがいびつな銃器の形を再現する。



発射ファイア


遅いわよ・・・・

 ズガガガガガガガ____!!



 銃器特有の発砲音のなかを、光は弾丸をもろともせずに着地した。

 弾丸なんて、受け流してしまえば副次的効果もないただのゴミだ。



「あなたは」

「α18、そう名乗っておこうか、《風神》」



 ゾクリ。

 首筋をなめられるような感覚にそれでも光は表情を動かさない。


 ただ弾丸の雨に少しだけ視線を動かすだけだった。



「うざったらしいわね」

「っ!?」



 光が手のひらを地面に向けると同時、自然界では滅多に起こらない……あるいは全く起こらないような暴風が発生した。


 地面にあった蠢く銃器どもをいっそうしたそれは下降気流と言っていいのかもわからなかった。



「なるほど、仕組みとしてはビル風と同じようなものか」



 しかし、α18はそれに対して端的にそういう。

 自身のウエポン群生していたその場所を踏み躙られたとしても、少しの驚きも見せずに。



「御名答、と答えておけばいいかしら。とはいえ、今の私にあなたと会話しているほど余裕はないのだけど?」


「つまり?」

殺す・・



 刹那。

 α18が手に持っていた異形のハンドガンのトリガーが引かれた。


 経口はおそらく日本セカンドの警察が持っている拳銃なんかよりも大きいことだろう。

 が、当たらなければ結局経口も何も関係がない。



「はい、残念だったわね」

「後ろっ」



 ボンッ、とα18の後ろで空気が爆ぜる。

 光は、それをが当たったと確信したが。


 果たして見えたのはその風を大きな銃器で防御する敵の姿だった。

チッ、と舌打ちを漏らして光はもう一度風邪を放とうと……。



「すると思ったよ、《風神》」



 上空に、巨大な“ロケットランチャー“。


 もちろんこれも異質な形をしていることに変わりはなかったのだが。

 放たれれば、人体もろとも建物を破壊してしまうような。


 が、何度も言うけれども当たらなければそれは経口も威力も全く関係ない。



「読まれることくらい読んでいるのよ、《ハンター》!」



 ズドン、ガラガラガラガラ____。


 普通ならば、その攻撃は星見琴光に直撃したはずだ。

 そもそも、数メートルほどの距離で人間が弾丸を見て避ける、なんて不可能なはずなのに。


 故に、読まれることくらい読んでいる、か。

 光は発射される瞬間ですら感じ取れたのだ。



「だとしても、」



 星見琴光の動きが早すぎる____。



(なんて、相手は感じているんでしょうけど)



 相手の背後にもう一度回り込んだ光は、そのスピードを持ち前のウエポンで相殺する。


 単純な話だ。

 このふざけた減速も、加速も。


 光の突出したウエポン操作能力と、それの火力により再現さているだけ。



「貴様、今までは本気ではなかったと?」


「違うわよ。本気を出す必要性がなかったの」



 今度は、空気の流れが変化した。

 前後左右。

 まるでα18を押し潰さんとばかりに。


 対してその標的となったα18はその風の隙間を縫うようにして包囲網から抜け出していく。



「《|構えろ《テイク》》」



 ついでにと言わんばかりの能力解放。

 再び地面は蠢く銃器に包まれる。


 嫌な顔をした光が前と同じように吹き飛ばそうとするが、それよりも先に。

 一斉に弾丸が飛び出してきた。



「っ!?」


「風は自由な形である代わりに、すぐ歪む」



 それが光の展開する“空間支配“の状態だったとしても、だ。

 揺らぎというものが存在するのならばそれを無理矢理でも作ってやればいい、か。


 風というものは基本的に音と同じで波だから。

 けれども。



「甘いわね」



 光の構成する風の層がたった一層しか存在しないわけがない。

 歪むのならば、それ以上の層を作ってやれば問題なんてなくなる。



「根本的に、火力が足りてないのよ」


「だったら、これならば?」



 ピカッ、どこかが光った。

 と、ほぼ同時に着弾。


 光はその衝撃から身を守り、そうして体勢を整え直す。



(避けられなかった?)



「《|電磁加速砲《レールガン》》だ」

「そういうこと、一撃必殺と言ったところね」



 一瞬ピリッと体が痺れたのはそういうことか、と光は理解する。

 が、しかして無傷。


 最速といっても差し支えのないような、そうでなくとも最速格には入っているようなそんな弾丸を食らってもなお。



「いやぁ、流石に今のが一年前に放たれてたら死んでたわよ。多分おそらく、知らないけれども」



 一年経てば誰しもレールガンをくらっても無傷になれるか、と言われれば多分無理だろう。

 S級というものが別格なだけだ。



 ____そんなバカな。



「なんて言わないわよね」


「《|能力の核《オーブ》》同時の消滅反応・・・・。同じ質量ならば密度が高い方が生き残る、か」


「あら、また御名答ね」



 風と弾丸が交差した。

 それは一度では終わらない。


 α18が光の周りをかけるのに対して、光は一歩も動くことはない。

 目線をそちらに向け、死角に入ることさえ許させない。



「だが《風神》。貴様如きで我々“ハンター“を倒せると?」


「知らないわよ。“ハンター“を倒すことができるかなんてやってみないとわからない。けど、あなたを殺すことはできる」



「カッハッハッハ、やはり貴様は俺好みの女だな!」


「あんたの女になるのなんてお断りよ。クソ豚」



 光の攻撃が敵のハンドガンを吹き飛ばした。

 そうするとすぐに再生成されるハンドガン。


 こうしてみると、銃器しか生成することのできない《錬金術》とも見えるが。

 否、それとは似通ったものではない。



「終わりよ」


「____」



 光の作った銃のポーズ。

 その指先に風が収束する。


 一点特化したもはや防御をさせないという意思表明。

 近寄るだけで感じることができるが、そのエネルギーはもはや熱波を生み出すほどまでに至ってしまっている。



「さよなら」



 発射。


 吹き飛ばされたのはα18。


 正しく言えば、α18の上半身。

 下半身は先ほどまでα18だ立っていた場所に、α18ともいえなくなった姿で横たわっていた。


 ふぅ、と光は息を大きく吐き出した。


 ____しかし、しかしだ。

 暗部組織様様が死んだくらいで牙を向かなくなると?



「もー。本当にうざったらしいわね。ハンター!!」



 上空にはまたもやロケットランチャー。

 光を包囲しているのはレールガン、か。


 妙なくらいにおとなしく死んでいったなと思ったらこんな芸当を。

 確実に光を殺すために。


 一撃必殺。

 レールガンを先見せしてそう光に思わせたのはこれを実現するためか。



(____逃げる?)



 いや、今更動けばこの建物がどうなるのかわからない、か。

 光は一周ぐるりと景色を見渡して、大きく息を吸い込んだ。



(流石にこの量を捌くには自分の力をセーブした状態じゃいけない、か)



 ドンッ、と本当ならば弾丸は発射されたのだろう。

 しかし今回はそれの例外に当たる。


 《風神》という能力は“空間支配“を行うのだから、わざわざ発射した瞬間を狙い撃ってやる必要はない。


 発射される前に全ての攻撃を無くして仕舞えば早いのだ。



「____吹き荒れなさい!」



 一番顕著にその影響を受けたのはやはり上空にあったロケットランチャーか。

 バキバキバキバキ、とひび割れて、粉砕されて。


 そうしてそれは《|万能元素《オーブ》》にまで還元される。

 光からは視覚できなかったが、他のレールガンどもも同じように。





 だがそれでも。

 崩壊は、始まった。

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