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6-7 華燭洞房(二)

「よかった……いやでなくて」


 瓔偲えいしの言葉を聴いて、燎琉りょうりゅうは、ほう、と、息を吐いた。


「つづき、していいか?」


「は、い……」


「いやだったら、ちゃんと言えよ」


「はい。でも……ほんとうに、いやなどでは、ないです。むしろ、殿下の手がふれてくださったところ、さっきから、ぜんぶ熱くて……」


 どうしようかと、と、瓔偲が目を伏せがちにしつつそんなことをつぶやいた。その刹那、かっと全身が熱くなって、くらくらして、燎琉は堪らず瓔偲を抱き締め、狂おしく愛撫を再開した。


「っ、ぅ」


 熱心に胸を撫でていたてのひらの、指の腹がふと尖りに触れたとき、瓔偲は驚いたように身をふるわせた。


「いたかったか」


「い、え」


 口許を押さえて、かぶりをふる。ふう、ふう、と、漏れる息は甘ったるく、相手の頬は快楽のためにほんのりと染まっていた。


 だから今度は、かりかり、と、爪の先で引っ掻いくようにいじってやる。と、そこはふっくりと愛らしく立ち上がった。つまんだり、指で押しつぶすようにしてみると、あ、あ、あ、と、瓔偲はてのひらで押さえた口から、こらえきれない甘い喘ぎをちいさく漏らした。


「かわいい」


「あ……お、おたわむれ、を」


「戯れなものか。ほんとうに誰よりかわいいと思ってるだけだ」


 言ってやると、瓔偲は黙ったままで、はたはた、と、瞬いた。涼やかな目許に恥じらいが浮かんでいる。その様がなおいっそうに可愛らしく見えた。


 繍菊しゅうぎく殿でんで対面した時、いかにも官吏然として、凛と澄んだ佇まいを見せていた相手と同一とは、信じられないくらいだ。こんな瓔偲は、きっと、つがいである燎琉しか知らない。この先も番である己以外の誰も知ることはありえないのだ、と、そう思うと、胸のどこかが途轍もなく深く満たされていく気がした。


「瓔偲……俺の、瓔偲」


 発情にてられているわけでもないのに、身体はもどかしいほどの熱を溜めていた。白百合の香が燎琉を誘う。


「瓔偲」


 彼の名を耳許に熱っぽく囁きつつ、白い胸にもくちづけを落としていく。自分もきぬを脱ぎ捨てて、相手の左胸に懐くと、ことこと、ことこと、と、早鐘みたいな鼓動が聞こえていた。


 胸の尖りは、燎琉に指先でくりくりといじられて、両方ともぷくりと健気に立ち上がっている。それを舐めて可愛がってみたくなって、燎琉は慾のはしるままに、そこにくちびるを近づけた。


 吐息がかかるだけでも刺激になるのか、瓔偲は口許に手をやって、なにかを堪えるような表情をする。それもまた、かわいい。けれども、我慢なんかせずに、もっと存分に、恥もてらいもかなぐり捨てて、乱れてくれればいいのに、とも、思う。


 だから燎琉はすこし赤さを増したように見える瓔偲の胸のいただきを、ついにぱくりと口に含んだ。ちう、ちゅう、と、軽く吸いつく。ちろちろ、と、舌先でからかうように舐めてみる。


「ぁ、あん……あ、っ、ぁ、ぁ、殿、下……」


「ん……ちゃんと、きもちいい、か?」


「あ、わ、わかりま、せん……あ、あぁ、んっ」


「いやではないか?」


「は、い……なんだか、ぞわぞわ、します。ん、んあ」


 身体を駆け抜ける愉楽をそんな言葉で表現してみせた。どうやら相手が快美を得ているらしいとわかって、燎琉は、よかった、と、息を吐く。瓔偲の反応に満足げに笑みを深めつつ、さらにしばらく、そこへの愛撫を続けた。


 同時に手を相手の下肢へと伸ばしていく。すそを割って、やわい内腿をするりと撫でたら、瓔偲の身体はちいさく跳ねた。


「あ……」


 ぞわぞわします、と、瓔偲はまた、目を潤ませながらそう訴えてくる。


 けれども、今度も決して厭がっているふうはなかった。馴染みのない愉楽に、打ち寄せる波のように次から次へと襲われて、ただひたすら戸惑うようだ。


 燎琉は軽く力を籠めて、瓔偲の両腿を開かせる。あわいに指を這わせると、そこはしっとりとうるおいを帯び始めていた。


 燎琉の愛撫を受けて、燎琉を胎内に受けとめる用意を、いま、瓔偲の身体は整えつつあるのだ。そう思うと、ぞくぞく、と、背筋を言明しがたい感情が脳天まで駆け抜けた。


 こく、と、無意識に喉が鳴る。


 燎琉は、ゆるゆる、と、指で瓔偲の秘められたつぼみを撫でた。そのまま、つぷ、と、中指の先を含ませる。


「ひ、ぅ……」


 そのとき、瓔偲が息を詰めたのがわかった。濡れてはいるが、そこはまだまだ固くつぼんだまま、かたくなだ。燎琉がもう片方の手で膝裏を抱え上げるようにすると、無理にこじられると思うのか、瓔偲がわずかに怯えを見せた。


「殿、下……」


 呼ぶ声にもかすかな不安が滲んでいる。


「だいじょうぶ」


 痛い想いも、怖い想いも、それからつらい想いも、燎琉は今夜のこのとこで、瓔偲にさせたくはなかった。させるつもりもない。


 痛くとも怖くともつらくとも、きっと、瓔偲はぜんぶをこらえてしまう。それは厭だった。自分を抑えさせたくはない。今宵は、きもちいい、しあわせだ、と、ただそれだけを味わってほしい。


 燎琉はいったん瓔偲の中から指を抜いた。そして両腕で瓔偲の腰を抱えるように抱いて固定すると、すらりとした白い肢の間で立ち上がりかけているものに、ゆっくりとくちびるを寄せる。


「え……?」


 瓔偲は戸惑った声をあげた。


「あ、や、なに……っ? ひ、ぃ……あ、あ、あぁ……っ!」


 ゆるく立ち上がりかけている相手の花茎をぱくりと口に含んで、そのまま舌を絡め、頬の肉で締め付けるように刺激しながら吸ってやると、瓔偲は半狂乱になった。必死で燎琉の頭を押しのけようとしてくる。だが燎琉は瓔偲を離さず、ますます彼の愛らしい花茎を舐めしゃぶった。


「あ、あ、だめ、やぁ、あん、ァ……殿下、殿下、アッ、そのような、いけませっ……あ、アン、や、ん」


 だめだ、と、相手は遮二無二、かぶりをふる。ふぅ、ふぅ、と、乱れた熱い吐息が、ひっきりなしに聴こえていた。


「んん、んあ、あぁん、ア、ア、アァ――……ッ!」


 ついに身体を突っ張らせる。同時に、燎琉の口の中に、とぷ、と、瓔偲が気を吐いた。


 白百合のような、凛として清冽で、けれども甘い香気が匂い立つ。


 理性をとろけさせる包荒に恍惚としながら、燎琉は喉を鳴らして瓔偲の吐いた蜜を嚥下した。


「あまい」


 つぶやくと、うそ、と、熱に目を潤ませて瓔偲が反論する。


「嘘なものか。お前はぜんぶが甘いよ。あまい、いい匂い……最初から、そうだった」


 そうだ、たぶん最初から、燎琉は瓔偲に惹かれていた。誰かの企みによって自分たちがつがったのだというのなら、それはまさに、天のはかりごとだったのではないか、と、そうおもう。


「な、瓔偲……そのまま、力、抜いていられるか」


 もっとお前を味わいたいんだ、と、請うように言って、燎琉は再び瓔偲の後ろの莟に触れた。

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