とはいえ、父である皇帝とはずいぶん
その叔父、
そこの
燎琉の姿を見ると、彼は、に、と、口の端を持ち上げる。
「おう、来たか」
そう言う相手は、どうやら燎琉の
「で、何の用だ? また私のお忍びでの
続くのは、いかにも
「叔父上」
燎琉はむっとくちびるを引き結び、
燎琉の鋭い視線を受けて、鵬明は、くすん、と、肩をすくめて見せる。
「冗談だ。そう尖るなよ。――来い。
そう言うところをみるに、鵬明にはどうやら、こちらの用向きもすでに伝わっていたものらしい。そう言うや否や、叔父は燎琉の前に立って、
どうやら自ら郭瓔偲のいるところまで燎琉を案内してくれるつもりのようだ。
「ちょっと……叔父上!」
心の準備をするよりも前に郭瓔偲に対面させられることになりそうで、燎琉は戸惑った。慌てて鵬明を追って
すると鵬明は、立ち止まったりはしないままで、ちら、と、こちらを振り向いた。
「あ? なんだ、燎琉。これから
最後はからかうようにそんなことを言った。
「期待って、何を
燎琉は叔父の言に口を曲げて反論する。
「
そう言い訳でもするようにつぶやくと、ふん、と、鵬明は鼻を鳴らした。
「だが、皇族の結婚なんぞ、
「いい
眉を寄せて文句を言ったら、たしかにな、と、鵬明はからからと笑った。
皇弟・鵬明はすでに三十路を越えているが、好色の遊び人との風聞の一方で、いまだに妻帯はしていない。縁談が持ちこまれなかったわけではないだろうから、どれにも
鵬明の母はいまの皇太后、その母親の実兄、すなわち母方の伯父は門下侍中――いわゆる宰相職――という要職に就いている。婚姻によって下手に権門家と結びつき、皇帝に野心を疑われたくないという思惑もあるのかもしれないが、と、燎琉はちらりと叔父の精悍で整った横顔を見た。
そう思えば、叔父が独身であるのもまた、皇族ゆえのままならなさの、ひとつのあらわれなのかもしれない。
燎琉の視線に気づいたのかどうか、鵬明がふとこちらを見た。
その口許に、わずかに微苦笑めいた笑みが浮かぶ。
「災難なのはあれ……瓔偲にとっても、同様だ。まあ、そう言ってやるな」
部下を
そしてそのまま、わずかの
「瓔偲……お前のつがいが来たぞ」
そんなことを言いながら、鵬明はつかつかと房間へ足を踏み入れた。
「叔父上……!」
鵬明の発言を
「あ……」
呆然とつぶやいたきり、言葉を失ってしまっている。
この西の
房内に射す光の中、ぽかりと出来た光溜まりで、書卓について書き物をしているらしいひとりの青年がいた――……鵬明の呼びかけに応えるように顔を持ち上げた彼の、その、端正な容姿は、どうだ。
白い
長い
まるで一幅の
そのときの燎琉は、数瞬の間、
ふわり、と、かすかに清冽な百合の香を
書卓の前に端坐する姿に
理知の光を宿した黒眸が、こちらへと真っ直ぐに据えられる。はた、はたり、と、相手は黙ったままで、ゆっくりと
「
燎琉は意味もなく相手の名を呟いていた。
互いに初対面ではない。なぜなら、いま目の前にいる相手こそは、七日前のあの日、燎琉が
けれども、その時、燎琉は発情状態だった。熱に脳内を侵されていたためか、記憶はひどく
郭瓔偲が――自分が狂おしく求め、つがいにまでなったはずの相手が――いったいどんな容貌をしていたのか、燎琉はまるで覚えてはいなかった。そんな己を、いま改めて意識させられていた。
これが郭瓔偲――……燎琉のつがい。
そして、こののち、妃として、
互いに視線を絡めあったままのほんの数瞬は、けれども、まるで時が止まったかのように感じた。
だが、息を呑むような時間は長くは続かなかった。瓔偲がすっと立ち上がったからだ。燎琉は思わず身構えるかのように身体を固くしていた。
「鵬明殿下」
が、案に反して、やわらかに響く声がまず呼んだのは叔父の名だ。
「収支が合わぬと
彼は、いかにも凛とした声で、