「‥‥‥」
話を大団円で終えたつもりが、カガイヤさんの顔はより一層険しいものになってしまった。脚色が足りなかったか?
まぁ、蟲毒に陥った魔物たちの行く末を考えれば、甘い顔も出来ないか。早めに討伐してもらわなければ、最悪の場合も考えられる、気がする、多分。魔物のことは冒険者におまかせなので、断定的なことは言えないです。
「あの、魔物の討伐って、冒険者に依頼すればいいんですかね? 今からでも依頼をしに行った方が良いんじゃないでしょうか」
「そうですね、後ほど依頼を出しておきましょう。それでもランデオルス様に依頼をした段階で冒険者ギルドにはつい数日前に見回りと、討伐を頼んでおいたのですがね‥‥‥」
冒険者たちがサボったとは‥‥‥いや、そう考えるのは止めよう。冒険者ギルドだって、討伐証明だったり、依頼の達成を確認しているはずだ。
となると、魔物たちは見つからないように隠れていたのか。俺も最初は分からなかったしね。
でも魔物って隠れる、のか? 大型の魔物はもちろん隠れるなんてことはしないし、ゴブリンだって、奇襲するために身を顰めることはあれど、人間相手に、生き延びるために隠れることなんてしない。
でもでもでも、小型の野生動物だって逃げることも、なんなら隠れるように生きることも当たり前だし、それが魔物に適用されていたとしても、おかしくない様な。
う~ん、俺だけの知識じゃわからんな。
「カガイヤさん、魔物って隠れたりするんですか?」
「隠れたりですか。‥‥‥知性のある魔物が極稀に、そういった行動をとることが確認されたりしています。あとは、上位の魔物の指揮下にあるときでしょうか。といってもこの上位の魔物も結局ある程度の知性を有する場合ですが」
「となると、今回の一件はちょっと疑問が残りますね。なにせ、魔物の中でも最弱の部類の奴らがタイミングを合わせたように一斉に出て来たんですから。‥‥‥けれど、それ以後の統率はまるで執れていませんでした」
「となると――」
「お待たせしました!! 治癒師の方をお連れしました!」
俺とカガイヤさんの話は、シスターの登場で遮られる形で中断した。「この話はまた後程」とカガイヤさんに耳打ちされたので、俺は治療されることに専念した。
実は落ち着いてからずっとジンジンしてたんですよ。ありがたや~。
「はぁ、はぁ、患者と言うのは‥‥‥」
「あ、僕です」
息を切らしながら入室した治癒師と思われるお爺さんは膝に手を当てながら、呼吸を整えつつ、手を挙げた俺を見ると、驚いたように目を見張った。
「ッ!? ‥‥‥これは酷い怪我ですね。どうしたらこんなことに」
「まぁ、いろいろありまして‥‥‥」
「はぁ、深くは聞かないですよ。私は怪我の治療をするだけですから」
「あはは‥‥‥」
事の顛末を話してもいいのだろうけれど、面倒くさいのと、子供に無茶をさせたのではないかとカガイヤさんが責められるのは、あまり面白くないから省略しただけなんですけどね。
深読みされても困ると言うものだ、でも早く治療してくれるのはとてもありがたいので、大人しくそのまま患部を差し出す。
呼ばれて来てくれた治癒師のおじいさんの指導の元、手足をごしごしと清潔な濡れた布で汚れを取られる。当然の如く――。
「いたたたたたたた!!! ターイムッ!! ちょっとタイム!!」
「たいむ? 何かのおまじないですか?」
なんで、タイムは通じないんだよ! 言語継承ハチャメチャか!!
「少し止まってください! 痛いです! ものすごく!」
「えぇ、そうでしょうね。ここまで酷い怪我なら当然だと思います」
“ゴシゴシゴシ”
思ったなら止めて欲しいのですが、そんな俺の叫びは痛みによって、実際に声に出すこと許されなかった。
地獄の汚れ落としがついに終わりを迎え、次の段階として、いよいよ治療に取り掛かるようだ。治療法は魔法で行うらしく、本来であれば楽しみでずっと眺めていたことだろう。
しかし、疲労困憊の今、そんな余裕は俺にはない。
なるべく早く済ませてくれと、されるがままにしていると、緑色の淡い光が、お爺さんの手から放たれて、俺の手足を包み込んだ。
じゅくじゅくと皮膚が蠢いていくのを感じる。流石に気になったものだから、顔だけ動かして、覗き込むと、まるで逆再生のように俺の身体は元通りになっていく。
「すげぇ」
思わずこぼれ出た俺の本音に、お爺さんもカガイヤさんもニコリと微笑みを浮かべた。
しばらくその光に当てられていると、俺の完治と共に光は治まり、お爺さんがふぅと一息ついて「終わりました」と呟いた。
その言葉で、この部屋にいた人は全員、肩の力を抜いた。
治癒魔法か。もし俺が魔力量という問題をなしと仮定して、使えたとしても、イメージ的には自然治癒力の再活性なので、逆再生の様にはならないだろう。
信仰している宗教と知識の差か。本当に魔法は面白いな。この世界の宗教についてあまり勉強していないけど、ちょっと勉強しても良いかと思った。
はっ!? 恐ろしいことに気づいてしまったぞ! 俺は!!