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余裕が大事

 ついついランプに照らして、眺めすぎてしまっていたけれど。そこそこに切り上げて鞄にしまう。


「さて、次はどこを掘りましょうかね」


 ビギナーズラックで上手いこと探し当てることに成功したが、次からはそんなことにはならないだろう。


 そして、別のところを新しく掘るより、近場を狙っていこうと思う。鉱脈だよ? 脈。ってことは続いてるんですよ。埋まってる場所って言うのは。


 酸化鉄を取り出した付近に狙いを見定めて、改めてツルハシを振り上げ、勢いよく下ろす。


 先ほどと違うのは、もしかしたら二連続で手を痛めてしまうかもしれないと、淡い期待を抱いたために、握る手を少し緩めたことだ。


“ザク”


 気持ちの良いほどに岩の中に刺さった。手に当たりの感触は無い。淡い期待、泡沫の夢でした。


 少しだけテンションが下がるも、良い方に捉えれば冷静になったと言えるだろう。


 ザクザクと掘り進める。掘っているだけで、それほど重く感じなかったツルハシが、二倍にも三倍にも重くなったように感じた。


 鉱山での労働がいかに過酷なのかを知る機会となった。たしか王国法では、犯罪者を鉱山送りにすることがあるらしい。犯罪率が前世と比較にならないほどに高いこの世界では、捕まる犯罪者も後を絶たず、収容所に収まりきらないこともあるんだとか。


 そのため、色々な犯罪者が鉱山送りになるのだが、鉱山にも当たり外れが存在し、重い罪を背負った者に関しては、外れの鉱山に送られる。


 ちなみに外れの鉱山に送られると、周りも凶悪犯罪者が多いなか、極寒の山中での作業のために、一年も経たずして、吹雪の中脱走する者、過労で体を痛める者、心を無くす者が後を絶たないらしい。


 そしてどれも春の夏の雪解けのごく短い期間で、山のように見つかるのだとか。


 ‥‥‥犯罪はしちゃだめだね。


 そんなリスクを抱えながらも、犯罪率が高いというんだから、常軌を逸しているというか、理解の範疇を越えている。



 思考がこの世の平和とはなんだろうかと考えるまでには、単純作業に陥ってしまった。つまりだ、何が言いたいかと言うと。


「全ッ然見つかんない!!!」


 やけくそにツルハシを放り投げた。カランコロンと暗闇に消えていく音を聞いて、「あぁ、取りに行かなければ」と後悔する。


 もう手の平の皮がずれ始めるほど掘ったというのに、一向に次なる鉄鉱石が見つからない。ツルハシを放り投げたくなる気持ちも分かってくれ。


 どうすれば見つかるのだろう。時間もそんなに残されていないというのに。


 ランプを片手にツルハシを拾いに行く。


「お、あったあった」


 思いのほか近くに落ちていた。放り投げる力さえも弱まっていたことに、現実に引き戻される。


 せめてあと一つだけでも拾わなければ。どのみち依頼は失敗かもしれないが、見つからないで終わるより、見つけて終わった方が俺も納得できるというものだ。


 何よりもここで諦めるとただマメを作って終わったという事実しか残らない。


 もう一度だけ。そう考え、痛む手でツルハシを拾って、定位置となったさっきの場所へ戻る。やっぱりあそこから出ると思うんだよなぁ。‥‥‥今更別の場所を掘る気力がないだけとも言うんだけどね。


 これで終わりだと思うと、フッと気が抜けて気が楽になった。するとどうだろう、視野が広くなった気がする。


 そう気が付けたのは、視界の端に映った光があったからだ。


「‥‥‥ッ!?」


 無言で、されど迅速にその場所に向けてツルハシを振り下ろした。


“カキン”


「いッたああああああああああああ!!!!!!!!」


 痛みと喜びがごちゃ混ぜになった声で叫んだ。


 過去一大きな声が出たんじゃないだろうか。腹の底から嬉しさが、脳内ではアドレナリンがドバドバと溢れ出して、掘削の手が止まらない。


 ガリガリガリガリガリガリガリガリ。


 しばらく夢中になって進めていると、本体が大分露呈してきた。


「それにしても、これ大きいぞ。まだまだ繋がってそうだし」


 見えている部分だけでも、一個目より大きい。はてさて、ここからどれくらい伸びるだろうか。期待を胸にさらに掘り進める。


 ガリガリガリ。まだ続く。ガリガリガリガリ。少しくびれ始めた。もう少しか。


 最後ぐらいはチマチマ掘り出すのではなく、もっと思いっきり盛大に掘り出したい。という事で、行きますよー!!


 ガキン! ガキン! ガキン! ガキン!

 えんやこら、えんやこら。


 俺はこの経験を生涯忘れないだろう。それぐらいに楽しい出来事だった。もう既に懐古に勤しんでいるのは、終わりが見えてしまったからだろう。


 グラついていた金属の塊は、次第に揺れを大きくしている。


「最後じゃあ! おらああああ!!」


 渾身の一撃をお見舞いしてやった。すると、ガチンと何かが噛み合った音がして、大きな塊がゴロゴロと地面を伝って俺の足元に落ちてきた。


 焦りつつもひょいっとジャンプして躱す。巻き込まれたら足が悲惨なことになってしまう。俺はグロ耐性が無いんだから。


「す、すげぇ」


 バスケットボール二個ほどの大きさの鉄鉱石が取れてしまった。これは鉄じゃなかったら、一生遊んで暮らせる大きさだろう。


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