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\こんにちわ/

 洞窟の中は思いのほか涼しくなっていて、湿度も想像以上に低い。といっても纏わりつく感じはあるのだが。


 暗がりの中ではランプでさえも、先を見通せない。指向性で照らせる懐中電灯とかでもあればなぁ。


 などと言っても、仕方ないので、洞窟の壁と言う壁を全て見渡して、虫の一匹たりとも見逃さない気持ちで進んでいく。


 俺がイモムシくらいのスピードで進んでいるのは、安全確認をして進んでいるからであって、ビビッてへっぴり腰になっているからでは、決してないぞ。


 ちなみに、洞窟内の空気は魔道具によって循環しているらしい。


 昔使われていた鉱山が、魔物が現れ始めたことで閉鎖されて、冒険者がお小遣い稼ぎで来るような場所らしい。


 鉱脈自体は生きているらしいので、普通に完全に討伐してしまえば、まだ使えるのでは? とカガイヤさんに聞いたところ、魔物は討伐しても、そこに魔力だまりがあったから生まれたわけで、しばらくすると復活してしまうそうだ。


 俺の倒した魔物も復活しているのかと考えると、少し身震いをしたものだ。絶滅危惧種とか現れないのかと変な感じもしたが。


 なんてことを思っていると、ランプの照明範囲に、何か動くものを見つけた。


 ん? なんだ? 警戒しながらも近づいて、ソレの確認に当たる。


 線のようなものが二本、ゆらりゆらりと揺れている。風に吹かれているような‥‥‥それにしては、左右に揺れる方向が違う。


 まるで‥‥‥何かの触覚――そう考えに至ったところで、それが大きく動いた。


 \こんにちは/


 歌舞伎町のネズミ程の大きさのゴキブリだ。


「うわああっ!!!」


 俺が大声を上げて仰け反ると、向こうさんも反応してしまったようで、信じられないスピードで動き出す。


 壁一面を無作為に走り回るゴキブリに鳥肌が止まらない。


 ランプの照明範囲に入っては出ていき、出て行っては入っていく。だめだ、耐えられそうにない。


“パァン、パァン、パァン、パァン、パァン、パァン!!!!”

“カサカサカサカサカサカサ”

 指ピストルを作って乱射する。勿論の如く当たらない、けれど、当たらなければ当たらないほど、パニックに陥ってより一層手元がブレる。


「うぅぅ、気持ち悪い」


 なるべく身体の表面積が小さくなるように、縮こまって撃つ。俺式の外界との断ち切り方だ。ただの精神論なんだけどね。


 風弾の威力で、洞窟内の壁が揺れている。頭の上に土が落ちてこようと、気にせず撃ち続ける。しかし、しばらくするとその揺れも無くなった。


 自分自身が落ち着いたわけではなくて、単純に魔道具が魔力切れを起こしてしまっただけなのだが、俺は絶望した。


 遠距離武器が無くなってしまった。‥‥‥あれを俺の手でやるのは厳しい、厳しすぎる。何よりキモイ。


 当初の予定では倒した魔物の魔石で補充する予定だったのだが、魔物を倒す前に使い切ってしまったら意味ないではないか。


 うぅ、ゴブリンの時に補充しておけば‥‥‥。


 ゴブリンの小さな魔石でも、多少は補えたはずなのに! あの時思いだしておけば、なんでセンチメンタルになってしまったんだ。あの時は!


“カサカサカサ”

「ヒィッ!!」


 俺の攻撃が止んで劣勢を悟ったのか、ヤツは俺の方に勢いよく近づいてきた。震える脚で逃げようとするも、あちらの方が、俺の何倍も足が速い。


「く、来るなぁ!」


 そう叫ぶ俺の背後、首筋目掛けて、奴がトップスピードに乗って跳躍した。


 時速で言えば、何キロだろうか。野球のピッチャーが投げたボールほどの速さだから、150キロぐらいは出ているのだろうか。


 火事場の馬鹿力ということで、だんだんと近づいてくるゴキブリがスローモーションに見える。いくら必死で走っても、ヤツはだんだんと近づいてくる。


 カチカチ、ぎぃぎぃと鳴きながら。きんもおおおお!!!


「嫌だあああああああああ!!!」


 口の中が見えるほど近づいてきたその時。思わず叫んだ。


“グシャ”


 ヒエッ、口の中どころか、喉の奥まで見えた。奴は俺の目の前で、見えない壁に弾かれたようにして、首をぐねっと曲がらない筈の方向に曲げ、少し潰れた頭部と、ぴくぴくと動く足を持ちながら、地面にズルリと落ちていった。


 あ、髪飾りの魔道具か。


 あってて良かった。護身の魔道具と、それを買ってくれる交友関系、パートツー。


 よし、今すぐコイツの息の音を止めてやろう。


 冷たい殺意とは、無感情なことだったのか。とても冷静な頭で、スイッチが切り替わったように、ハイライトの消えた目で、ソイツの最期を見届ける。


“ザン”


 頭部と胴体を切り離した。


 ふぅ、さて――。


 俺は今迷っている。ゴブリンより小さいこの魔物。魔石を取ったところで、雀の涙、いや雀の涙の雑菌だろう。


 しかし、魔道具の魔力がゼロの今、もし一回分でも回復させることが出来るのなら、それにこしたことはない。悩む。だって、コイツの解体嫌だし。グロいもん。


 あ~あ前世のときは、なんかおすすめに出てきたそういう動画を寝る前とかにも見れてたのに、いざ自分でやるってなった途端できないもんなんだなぁ。


 無駄に想像力がある分嫌な想像しちゃうんだよな。


 ほじっている間に細菌感染とか、微粒子を吸い込んでしまうとか。


 よし、やめやめ。これ以上考えるとまた吐いちゃうから。


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