「「おぉ~」」
イヴも初めて入る所の様で、俺と同時に感嘆の声を上げた。もちろんカガイヤさんは落ち着き払って、俺たちの後ろで黙ったまま控えていてくれている。
ギルドなので、「いらっしゃいませ」とは聞こえないが、それ以前に多くの人が行きかいしており、全ての職員が自身のテーブルの客を相手するのに忙しそうだ。
「なんだか場所聞くだけなのが申し訳なくなってくるね。これだけ忙しいと」
「たしかにな。どこの窓口も人がいっぱいで、並んだとしても俺たちの番になるまでにどれくらいかかることやら」
「それでも並ばないことには進みませんよ」
迷っている俺たちに、カガイヤさんが優しい口調で背中を押してくれる。
俺とイヴは互いに目を合わせて、コクリと頷いて意を決すると、整理券を貰い椅子に腰を掛けて待つことにした。
番号は102番、今呼び出されているのが82番だという事を鑑みると、ちょうど忙しい時間帯に来てしまったようだ。
まぁ日も暮れて、店じまいを始める所が多いのだろう。ただお金を預けるのにも色々な確認があり、時間が掛かっている。
チラチラと暮れる夕日を気にしながら、俺たちが待っていると、遂に順番がやってきた。
「お待たせしました、本日はどのようなご用件でしょうか」
「あ、はい。えっととあるお店? 鍛冶師のお店の場所を知りたくて‥‥‥」
ずいぶんと待った疲労感からか、本当に分かるのだろうか、無駄足だったらどうしようと不安がよぎり、声も小さくなってしまった。
それでも受付のお姉さんは笑顔で対応してくれる。
「分かりました。それでは、そのお店の名前をお教え願えますか?」
「すみません、それが、店名は分からなくて、本人の名前だけ知っている状態なんです。名前と鍛冶師という事だけ知っている状態なんです」
「な、るほど? では、その鍛冶師のお名前をお教えいただけますか? もしその方が店の店主であれば、こちらで探すことが出来ますが、他の従業員の場合、こちらでは分からない場合がございます。その場合はお手数ですが鍛冶ギルドに赴いてもらわないといけませんが、ご了承ください」
「は、はい」
急にズラッと説明を並べられると、ちょっと下がっちゃうよね。けれど、スベオロザウンの言い方的に、自分が所有のお店っぽい言い方をしてたから大丈夫だろう。
「スベオロザウンっていういげもじゃでムキムキのお爺さんなんですけど‥‥‥ってどうかしました?」
俺がスベオロザウンの名前を口にした途端、受付のお姉さんの顔がわずかに歪んだ気がした。
「い、いえ。ある意味有名な方ですから、ギルドの中では‥‥‥」
少し困ったように言葉を濁すお姉さんに、いや、ギルドの人に若干同情しながら、俺はその言葉を聞き流すことにした。
なんだか、色々やらかしそうな気がするもんな、あの爺さんなら。
「えっと、お疲れ様です。それで、場所は分かるのでしょうか?」
「えぇ、すみません。取り乱しました。はい、分かるはずなので、調べてきます。少々お待ちください」
そう言うとお姉さんが席を外して、奥に行ってしまった。
手持ち無沙汰になったので、ほっと一息ついていると、イヴがトントンと肩を叩いてきた。
「んあ?」
イヴの方を振り返ると、クスクスと笑いを噛み殺している。お? まだ何も言われてないけど、馬鹿にされていることは分かるぞ? 喧嘩か?
「ランディって、他の人と喋るとき、かなり引いて喋るよね。引いて下から下から、もっと胸張って喋ってもいいのに。フランクにさ、商売相手でもないのに、ふふふ。ちょっとツボちゃった」
「‥‥‥」
‥‥‥恥ずっ!!! え? 俺そんな風に見えてたの? 日本の頃から染みついた建前用のこの態度、美徳とされたから‥‥‥。
この世界の人から見たら、俺って超人見知りの人? そそそ、そんなことはかみにちかってないぞ?
なんなら、コミュニケーション能力は高い方だったし! 会社とのの身かもよく誘われてたし? 女の子のお店で、都合のいいように上司の自分上げに使われることも多々あったけど? よく誘われてたし? ‥‥‥ぐすん。
恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだ。
止めてくれ、こっちを見ないで欲しい。
手の平で顔を隠そうとすると、イヴがそれを力づくで邪魔してくる。ぶんぶんと体を左右に揺らして、逃げる。
指の隙間から見える他の人たちが奇異な目で見ていることを、俺だけが気づいている。ふふふ、それをイヴに気づかせて、俺と巻き込んで恥ずかしい思いをしてもらうぜ?
カガイヤさんも気づいているけれど、変なやつが近づいて来なければ、そのまま俺たちの自由にさせてくれそうだ。
イヴの妨害が大きくなってきた。‥‥‥今だ! ここ!
「イヴ!!――」
「すみません、お待たせしました‥‥‥、すみません、ギルド内ではお静かにお願いします」
「‥‥‥はい、すみません」
何でおれだけこういうことになるんだよ! 周りの人にも笑われて、イヴは不意打ちだったのか、お腹を抱えて笑っているし。星か!? そういう星の元の生まれなのか、俺は!?