「ではよろしくお願いします」
「はい、誠心誠意務めを果たさせていただきます」
「よろしくね、ランディをしっかり守ってね」
「いや、メインはイヴでしょうよ」
「両お方にはネズミ一匹近づけさせませんよ」
あと二、三時間もすれば、空がオレンジ色に染まりだそうかという頃合い。サルマンさんに事情を話した俺たちは、快く護衛を付けてもらうことが出来た。
真帆使いのローブを身に纏った彼は、魔技師でなく、れっきとした魔法使いで、サルマンさんの保有する私兵の一人、カガイヤさんだ。
なんと元々サルマンさんの一番弟子だったどうで、ドットヒッチ家の魔法使いでは二番目の実力者らしい。凄い人を付けられたものだ。サルマンさんのイヴに対する愛情が伺える。
「それじゃあ、行きましょうか。まずは聞き込み調査をしましょう」
「ノミリヤ探検隊! しゅつどー!!」
「「おおーー!!」」
なんだ? ノミリヤ探検隊って。ノリと勢いだけで合わせてみたけど、良いな。探検隊と言う響きが、少年の心をくすぐっている。
足取りを軽くして、進み始めた俺たち。あっという間に商業地区に辿り着いた。しかし、先ほどより幾分か太陽が沈んでいるのは、新しい街並みが新鮮で、見ているだけで楽しかったからだろう。
商業地区の街並みはメインの大通り付近が、数多の商店が店を構えており、後ろ髪を引かれながら、なくなく素通りする羽目になっている。
「うぅ、あの通りを歩くだけで、お腹が空いてきたよ」
「また!? 夜ご飯もあるんだから、食べちゃダメだよ?」
前世でも母親によく言われたけれども、その場合で食べきれなかったこと無いんだよな。食べられるのだから食べさせて欲しい。
と、いう俺の淡い期待は、時間が遅くなってしまうといけないとのことで、カガイヤさんに釘を刺された。うぅ、腹と背中がくっついてしまいそうだよ。
お腹と背中をくっつけた俺たちは、商店街の中を突っ切って、ドットヒッチ邸から一番遠い、商業地区の端にやってきた。
ここから、家に戻るようにして聞き込み調査をしていこうとのことだ。あれだね、バケツで水を汲んでから友達の家に行くか、友達の家の付近で水を汲んでから行くかの、算数の問題のやつだ。
それに、今日は簡単な聞き込みだけで、明日の負担を減らすためだから、見つからなかったとしてもいいんだよね。どこの場所にはいないっていうハズレもまた、当たりの可能性を増やしているのだから。
ということで、調査開始ィ!!
「すみません、スベオロザウンさんのお店を知りませんか?」
第一村人? とにかく一番初めに知ってる可能性が高い人を見つけた。冒険者の格好をした男性で、それもどこか余裕のありそうな、落ち着いた歩き方の冒険者だ。
どうせ知る人ぞ知るみたいなお店だろうから、そこいらのチンピラ風の冒険者じゃなくて、長年冒険者をしているような人の方が良いだろう。‥‥‥あと、イヴが怖がっちゃうといけないからね。イヴがねっ!!
「ん? スベオロザウン? すまんな、分からんぞ。そもそも店の人の名前ってあまり聞かなくないか?」
一瞬俺ではなく、イヴと護衛の方を見て、すぐに俺に視線を戻した。あぁそうか、いいとこの坊ちゃんが何かやってると思われると、ちょっと考え物だな。
普通に答えてくれる人と、とばっちりの悪意で嘘を吐く人に分かれるかもしれない。答えてくれた内容には気を付けよう。
「‥‥‥それも、そうですね。じゃあ、髭もじゃで、ムキムキの老人が経営している鍛冶屋知りませんか? この区画の外れのほうにあるとは聞いているんですけど」
「髭もじゃでムキムキの老人? あ~、聞いたことあるような無いような」
「あるんですか?」
俺もイヴも期待の眼差しでその冒険者を見つめる。
「あるような、無いような、だ。鍛冶をやってる奴は大体似たような感じだしな。あれだ、ドワーフに憧れてその恰好をしている奴が多いって聞いたぜ? あ、ちなみにドワーフじゃないんだろう?」
「はい、ドワーフ族じゃなくて、普通の人族だと思います」
「う~ん、この区画も結構な激戦区だからなぁ。あ、そうだ。商工会ギルドで場所を教えて貰ったらどうだ? 登録するときに名前も書くだろうから、知ってるんじゃないか?」
俺とイヴでバット顔を見合わせる。
「「それだぁーー!!」」
今日は叫ぶことが多い一日ですな。帰るころには喉枯れてるんじゃなかろうか。
冒険者の男性にお礼を告げて、早速商工会ギルドに向かう。幸いにもカガイヤさんが商工会ギルドの場所を把握しており、さらに、ここから近いのだとか。
商業地区のど真ん中と言うよりは、事務所などが多いはずれた場所にあるのは、考えてみれば合理的かもしれない。小さな店舗や、路上で風呂敷を広げている人からしたら面倒かもしれないけれど。
ということで、やってきました商工会ギルド。
周りの建物より、一回りも二回りも大きいその建物は、ずいぶんと衆目を集めていた。エンタシスを用いたエントランスは、荘厳さと開放感を持って、俺たちを中へと導いた。