「それに」と続けてイヴは口撃を止めない。
「僕のお父さんも、ランディに楽しんでもらうために渡したお金だと思うんだ。だから、是非使って欲しいんだよね、ランディに」
そこまで言われてしまったなら仕方ない。イヴの目が「絶対に引かないぞ」と雄弁に語っている。
「‥‥‥降参だよ。わかったわかった、じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
「うんうん、それでいいんだよ」
満足そうに大きく頷いて、そのまま俺が迷っていた魔道具を会計カウンターまで持っていく。‥‥‥ん?
「イヴさんやい。怪力の腕輪も持って行ってもらわな。忘れてますよ? ‥‥・まさかぁ、男に二言はありませんよな?」
「‥‥‥勿論だよ。うっかりうっかり、ありがとね教えてくれて」
苦々しくも、感謝の言葉を述べている。その表情、絶対わざとだったでしょ。
コトリとすべての魔道具をカウンターにおいて、必要な分の代金を渡す。「まいど」とダダライブの小さな呟きで会計を済ませると、早速装備してみる。
「どう?」
魔道具が映えるようにポージングをしてみる。イヴに拍手されてまんざらでもない俺は、気分が上がり、窓を開けて空に向かって指鉄砲を撃つことにした。
「ぱん!」
俺の指から風の弾丸が放たれる――ことは無く。
「あれ? 撃てない? なんでだ?」
「整備不良?」
困惑する俺たちに待ったをかけたのは、整備不良と貶された、製作者であるダダライブだ。
「俺の店でそんな事はない。魔石が別売りなだけだ」
「あ、なるほど」
「ほえ、そうなんだ」
電池別売りなことに納得する俺、初知りのイヴ。ここでも格差があらわれてしまうのか。あぁ帰ろう、僕たちの平等の世界、ノミリヤ学園に。
別売りの魔石もついでに買いこんで、ついでにイヴも何かしらの魔道具を買ってたみたいだけど、何を買ったかは教えてくれなった。
チラッと見た限り、とても小さな魔道具っぽいけど。まぁいいか、いつか分かるだろう。
「あ、そうだ、ダダライブさん」
「ん、なんだ?」
気になってたことを忘れないうちに聞いておこう。
「スベオロザウンさんの店ってどこにあるか、教えてくれませんか?」
「‥‥‥ふむ、そうだなぁ。全部教えるのはつまらん。それに兄貴も納得しないだろう。方角と区画だけ教えてやろう」
全部教えてくれればいいのに。けちんぼめ。兄弟そろって変なところ似てるな、俺をイジって楽しむところとか。止めた方がいいと思います。
「じゃあ、それだけでも教えてください」
「よかろう。兄貴の店はここから南東にいったところの商業地区にある。おまけに教えといてやるが、俺に似て、表通りから外れた見つかりずらい所にあるからな。頑張れよ」
なんでそんなところまで似てるんだ。ちゃんと腕のいい品を提供してくれるなら、表通りでやってくれればいい物を。
「分かりました。あとは自分で探してみます。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
カランコロンとドアベルを鳴らして、外に出る。まだまだ陽は高い。少しだけ情報を集めたいところだけど‥‥‥。
「いいかな?」
「何が!?」
やっぱり伝わらないか。漫画だとかくかくしかじかで伝わるのに、異世界は異世界だけど、現実なんだよな。
「えっとね、まだ時間あるし、その南東の商業地区に行ってみたいんだけど。どうかな?」
「そうだね、う~んちょっと離れてるから、行ってもすぐに引き返さないと暗くなっちゃうかもしれないんだよね」
「そっか~、じゃあ今日は無理かな」
来るのに一週間もかかっちゃったから、あまり滞在日数も残ってないんだよね。少し残念に思うが、安全第一。夜になればいくら栄えた街の大通りでも変な人の一人や二人は必ずすれ違う。
そんな中に、可愛い可愛いイヴを放りこめるわけがない。
「何とか、お父さんに許可を貰えるように聞いて見よっか? 門限をちょっと増やしてほしいって」
イヴは困ったような、どこか期待したような目をしている。門限を越えて友達と夜の街で遊びに耽る。そういうのに憧れる時期ってあったよな。と感慨深く感じるも、それは出来ない。
イヴは貴族でここは異世界。前世の様な価値観ではいけないのだ。
「それをすると、サルマンさんに、俺がよくない友達だと思われないか? イヴに悪知恵を入れ込む悪い友達だって」
「それは無いよ! お父さんはそんな人じゃないし、僕からも言うし、‥‥‥なにより、僕の選んだ友達を馬鹿にさせないよ! どこに出しても恥ずかしくない僕の友達じゃん!!」
俺はイヴの息子か。‥‥‥でも、確かにそうだな。何も知らない、今日あったばかりのサルマンさんを語る資格は無いよな。失礼なことを言ってしまった。
「ごめんね。変なこと言っちゃって」
「うん? 失礼? 何が?」
気づいてないならいいんだけどね、俺が一人で反省すれば、誰も傷つかなくてすんでるから。
「なんでもないよ」
「じゃあさ、早速家に戻ってお父さんに聞いてみようよ。もしかしたら護衛の人を付けてくれれば、行けるかもしれないよ?」
護衛か、なるほど。その手がありましたな。
俺はポンと手を打つ。ハッと気づいた表情が面白かったのかイヴがクスクスと小さく笑った。