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イヴの懸念

「それは、それは。どうも、どうも。ランデオルスです。この街に来るときにスベオロザウンさんにはお世話になりまして。」


 こういう時に意識せずに頭をぺこぺこと下げてしまう。ジャパニーズソウルはいまだ健在なのかね。


「その友達のイヴライトです」


「‥‥‥あぁ、兄貴が言ってたのはお前さんのことだったのか。ダダライブだ。まぁ二人ともゆっくりして行けよ」


 それだけ言うと、どかっと椅子に座る。作業途中だったのか、机の上に散らかっている細々とした器具を弄り始めた。


 技術者の人がよくかける、なんか複雑な片眼鏡をしている。あれかっこいいよなぁ、職人って感じがして。

 なんて思っていると、その膝に先ほどの猫が飛び乗る。その場で丸くなった猫を時折撫でる手が、その人の優しさを匂わせる。


 机のしたの方の隙間から見えるダダライブの足がピシと揃えられていることから推察するに、ちゃんと膝と膝をくっつけて、猫が落ちにくいようにしてるぞアレ。

 なんか、面白いな。ミスマッチ感が。


 笑ってしまうと失礼に当たってしまうので、思考を切り替えて、俺とイヴは100を余裕で超える魔道具を、興味の赴くままに、各々見始めた。



 人の背丈ほどもある大きい物から、手の平より小さい物まで、様々な品があり、値札と共に商品説明が書かれている。


 全自動餌やり機。

 南向きの窓辺に置く。目安針の影が一定距離移動すると、トレイ1に入れておいた餌が一回分出てくる。


 無限爪とぎ。

 猫の爪研ぎ用の機械。削れた分だけ、少しずつ再生する。


 何処でも安心くん。

 首輪形の魔道具とセットの商品。スイッチを起動した状態で互いが近づくと、飼い主の持っている機械が光を放ち、さらに近づくと点滅する。点滅の速度は、近づくにつれて早くなる。



 ‥‥‥この辺はペット用か。ていうか、完全に趣味丸出しだな。それでも有用性はかなり高そうだからいいんですけどね。


 もう気難しい親方として見れない気がする。ただの動物好きの人じゃん。


 他のも見てみようと、部屋を眺めると、イヴが齧りつくようにして、とある魔道具を見つめていた。


「何見てるの?」

「うわぁ!? あ、ごめんなさい」

「すんません」


 つい出来心で、背後からこっそり近づいて声を掛けると、かなり集中して見ていたようで、かなり大きな声でイヴが驚いた。


 予想外のことに、俺もビクッとなり、ダダライブの視線に気づいて謝る。たぶん猫様がビックリしちゃったから厳しい目を向けて来たのだろう。


 それはすんません。


「で、何見てたの?」


 改めてイヴの持っている魔道具を覗き見ると、いたる所にバネを用いた強制ギブスの様なものだった。


 まるで昭和野球漫画の主人公が付けていたようなソレを見られると、恥ずかしい所を見られたとばかりに、抱きかかえるようにして、イヴはそれを隠した。


「ちち、違うんだよ。これは、何に使うのかな~って、見た事もない形だったからさ?」


「イヴ‥‥‥、大丈夫だよ。男の価値は筋肉じゃないぞ」


 肩に手をポンと置いてやり、元気づけるように、優しい微笑みをかけてやる。しかし、それでもイヴは納得いってないようで、抱きかかえる力を緩めない。


「ランディはいいよね、ザンキさんも細マッチョだし、ククルカ島出身の人は皆筋肉つきやすいらしいし。僕はどれだけ筋トレしても筋肉つかないし、お父さんの体系見たでしょ? 将来を思うと、僕は、僕はね‥‥‥筋肉が欲しいんだよ!!」


 イヴ‥‥‥筋トレしてたんだ。なのにそんなに華奢なのか。


 まさか、こんなところにイヴの気にしてる点があったとは思わなんだ。でも、筋肉ムキムキのイヴか~。コラ画像かな? うまく想像できないや。


 というか、そんなイヴを見たくない。なんなら不老であって欲しい。合法ショタというやつか。何としてでも、この強制ギブスを辞めさせなければ!


「イヴ、悪いことは言わない。それを元にあった場所において来なさい。だいたい、筋肉がある程度ついてからじゃないと、それは体壊すだけだよ」


「うぅ~~」


 嫌がらせとかじゃなく、本当にイヴの身体のことを思っていってるのに、イヴは踏ん切りがつかないようだ。その強制ギブスが効果を発揮するのは漫画の中だけだよ。


「そもそも、筋肉をつけるには、ちゃんと下地を整えないと。いっぱい食べて、いっぱい運動する。それが何よりの近道なんだから、いっぱい食べれる魔道具にしときな?」


 そんな魔道具があるわきゃないだろうけど。満腹中枢への刺激を抑制するってことでしょ? 

 人体をいじれる魔道具って、そんなマッドサイエンティストじゃないんだから。


「でも、それだと太っちゃうじゃん。お父さんみたいに‥‥‥」


 太らないよ。そんな魔道具ないから。


「大丈夫だよ。サルマンさんは公務で机とにらめっこかもしれないけど、イヴは調教師、体力仕事だもん。食べた分だけ、そのばから消費されるよ」


「そうかなぁ」


「そうだとも、筋肉人口の多い島、ククルカ島出身の俺が断言する。」


 もとい、前世の知識がそう言っている。あと、いっぱい食べたほうが健康。


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