「なんでだよ」
「ふふっ、海竜に好かれるランディも猫には好かれてないんだね」
くそぅ、前世だったら動物に好かれてたのに何故? あれか? 海竜の匂いが染み込んでいしまっているのか?
いや、一週間も会ってないぞ。‥‥‥‥ハッ!? もしかして、ゴブリンの匂いか? 絶対に許さんぞ、ゴブリンめ。今度遭ったら絶対に駆逐してやる。この猫パンチを喰らった手でな!
「にゃ~ご」
「‥‥‥」
俺の猫後には何の反応もしない猫。いや、実際には反応はした。その場を離れるという形で。あかん、猫に嫌われるって、こんなに心にダメージを負う物だっけ?
少しだけ、反骨心というか、意固地というか。そういったものが芽生えて、無言で後を付けてみる。
「ランディ? そっちは小路だよ? 多分魔道具店も無いよ?」
「‥‥‥すまん、イヴ。俺、ここは引けないよ。一回撫でさせてもらうまで、頼む。何も言わずに付いてきて欲しい」
猫、俺、イヴの順で狭い小路を進んでいく。
なかなか足を止めない猫のおかげで、もう来た道が分からなくなるほど進んでしまった。
「ランディ結構来ちゃったけど、ここ何処?」
「分からない。全ては猫様の赴くままなのだよ、世界は」
未だに歩みを止めない猫様。一体これはどこに向かっているのか。
なんて思っていると、猫様がとある建物に入っていった。
ここの飼い猫なのだろうか。こっちには首輪をつける習慣がないのか。魔物が跋扈する世界だと、猫なんかは危険のきの字にもならないんだろうな。あとは基本砦の外に出ないし、車もないから、急にいなくなるという危険も少ないんだんな。
「ランディ、これお店だよ」
「え? そうなの?」
どう見ても、ただの住宅にしか見えないけど。どこで判断したのだろうか。
俺の疑問が伝わったのか、イヴは指を指して、教えてくれた。
お猫様専用出入口ではなく、普通の出入り口である、一見ただの玄関にしか見えないが。
「ほら、ここ見てよ。ドアノブのところに看板かかってるよ」
そう言われて、やっと気が付く。ドアノブに掛けられた木の板に「ドーン・ダダライブの家」と大きく書かれたその下。小さく「営業中」と彫られている。
「‥‥‥なんのお店だろう」
「何のお店だろうね」
こんな奥まったところに店を構えているなんて、普通じゃない。
だがしかし、猫を飼っているという事は、悪いお店じゃないだろう。隠れたいい店か、隠れた普通以下の店のどちらかだろう。
入るかどうか悩んでいると、カランコロンとベルを鳴らして、冒険者のような装いをした男性が出て来た。
あ、ちゃんとお客さんがいるんだ。この人に尋ねてみるか。
「あの! すみません!」
「おあ? なんだ?」
急に声を掛けられて驚いたのか、裏返った声で男が反応した。
事前の打ち合わせも無かったものだから、驚いたのは男性だけでなく、イヴもだった。
俺を盾にするように、咄嗟に後ろに隠れたその人見知りからくる俊敏性。俺でなきゃ見逃しちゃうね。‥‥‥まぁ、背中に手を当てられてから気が付いたんですけどね。心臓がぎゅッ!! ってなりましたわ。
「ここってお店、ですか?」
「あぁ、そうだな」
「何のお店でしたか?」
「‥‥‥だっはっは! いやすまねぇ。そうだよな、営業中だけ書いてあって何の店だか全く分からないよな。ここは魔道具店だよ」
ご都合主義か? まさかの探し求めている店をここで見つけてしまうとは。
「その‥‥‥一見さんお断りとかではないですよね?」
「あぁ、安心してくれ。それは無い。頑固で無愛想だが、なんせ客足が少ないからな。来る客は大歓迎だろうぜ。それに、見た目にそぐわず可愛い物や子供好きだからな。あ、ちなみにこれを話したのは内緒にしてくれよ。へそ曲げられたら仕方ねぇからな」
「分かりました。ありがとうございます」
「おう」
それだけ言うと、その男性は去っていった。
「で、いつまで後ろに隠れてるの?」
「‥‥‥隠れてないよ。一歩下がっただけだよ」
人の背中を盾にするように、後ろに下がることを、人類は隠れるというのだよ。
やっとのことで出て来たイヴに表情を崩す。
「じゃあ、入ってみようか。お目当ての魔道具店らしいし」
「う、うん」
俺の表情とは正反対に、イヴの表情は未だ硬いままだが、先ほどの後ろめたさがあるのか、今度は隣に並んでいる。
じゃあ扉を開けましょうか。
カランコロンカラ~ン。
扉を開けて中に入ると、外からは想像できない程の広さで、所狭しと魔道具が陳列されている。
これ、ワンチャンさっきの魔道具店より品数多いんじゃないか?
なんて思っていると、店の奥からのっそのっそとした足音と共に、声が聞こえた。
「‥‥‥いらっしゃい」
そちらを見ると、年老いた老人がいた。長い髭を垂らしながら、ムキムキの老人。なんで、俺の出会う人たちは皆、筋繊維が極太なんだ。と思ったのも束の間。あることに気づく。その顔はまさしく――。
「スベオロザウン!?」
老人は驚いたように、目を見開いて、再び目を細めた。
「それは俺の双子の兄で、俺は弟だ。‥‥‥よもや子供からその名前が出るとは思わなんだが」
爺さんの雰囲気が少し柔らかくなった気がした。
良かった、目を細められた時は、もしかして不仲と思ったが、そうでもないらしい。