目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
お猫様の行くままに

「なんでだよ」


「ふふっ、海竜に好かれるランディも猫には好かれてないんだね」


 くそぅ、前世だったら動物に好かれてたのに何故? あれか? 海竜の匂いが染み込んでいしまっているのか? 

 いや、一週間も会ってないぞ。‥‥‥‥ハッ!? もしかして、ゴブリンの匂いか? 絶対に許さんぞ、ゴブリンめ。今度遭ったら絶対に駆逐してやる。この猫パンチを喰らった手でな!


「にゃ~ご」

「‥‥‥」


 俺の猫後には何の反応もしない猫。いや、実際には反応はした。その場を離れるという形で。あかん、猫に嫌われるって、こんなに心にダメージを負う物だっけ?


 少しだけ、反骨心というか、意固地というか。そういったものが芽生えて、無言で後を付けてみる。


「ランディ? そっちは小路だよ? 多分魔道具店も無いよ?」


「‥‥‥すまん、イヴ。俺、ここは引けないよ。一回撫でさせてもらうまで、頼む。何も言わずに付いてきて欲しい」


 猫、俺、イヴの順で狭い小路を進んでいく。

 なかなか足を止めない猫のおかげで、もう来た道が分からなくなるほど進んでしまった。


「ランディ結構来ちゃったけど、ここ何処?」

「分からない。全ては猫様の赴くままなのだよ、世界は」


 未だに歩みを止めない猫様。一体これはどこに向かっているのか。


 なんて思っていると、猫様がとある建物に入っていった。


 ここの飼い猫なのだろうか。こっちには首輪をつける習慣がないのか。魔物が跋扈する世界だと、猫なんかは危険のきの字にもならないんだろうな。あとは基本砦の外に出ないし、車もないから、急にいなくなるという危険も少ないんだんな。


「ランディ、これお店だよ」

「え? そうなの?」


 どう見ても、ただの住宅にしか見えないけど。どこで判断したのだろうか。

 俺の疑問が伝わったのか、イヴは指を指して、教えてくれた。


 お猫様専用出入口ではなく、普通の出入り口である、一見ただの玄関にしか見えないが。


「ほら、ここ見てよ。ドアノブのところに看板かかってるよ」


 そう言われて、やっと気が付く。ドアノブに掛けられた木の板に「ドーン・ダダライブの家」と大きく書かれたその下。小さく「営業中」と彫られている。


「‥‥‥なんのお店だろう」

「何のお店だろうね」


 こんな奥まったところに店を構えているなんて、普通じゃない。


 だがしかし、猫を飼っているという事は、悪いお店じゃないだろう。隠れたいい店か、隠れた普通以下の店のどちらかだろう。


 入るかどうか悩んでいると、カランコロンとベルを鳴らして、冒険者のような装いをした男性が出て来た。


 あ、ちゃんとお客さんがいるんだ。この人に尋ねてみるか。


「あの! すみません!」

「おあ? なんだ?」


 急に声を掛けられて驚いたのか、裏返った声で男が反応した。

 事前の打ち合わせも無かったものだから、驚いたのは男性だけでなく、イヴもだった。


 俺を盾にするように、咄嗟に後ろに隠れたその人見知りからくる俊敏性。俺でなきゃ見逃しちゃうね。‥‥‥まぁ、背中に手を当てられてから気が付いたんですけどね。心臓がぎゅッ!! ってなりましたわ。


「ここってお店、ですか?」

「あぁ、そうだな」


「何のお店でしたか?」

「‥‥‥だっはっは! いやすまねぇ。そうだよな、営業中だけ書いてあって何の店だか全く分からないよな。ここは魔道具店だよ」


 ご都合主義か? まさかの探し求めている店をここで見つけてしまうとは。


「その‥‥‥一見さんお断りとかではないですよね?」


「あぁ、安心してくれ。それは無い。頑固で無愛想だが、なんせ客足が少ないからな。来る客は大歓迎だろうぜ。それに、見た目にそぐわず可愛い物や子供好きだからな。あ、ちなみにこれを話したのは内緒にしてくれよ。へそ曲げられたら仕方ねぇからな」


「分かりました。ありがとうございます」

「おう」


 それだけ言うと、その男性は去っていった。


「で、いつまで後ろに隠れてるの?」

「‥‥‥隠れてないよ。一歩下がっただけだよ」


 人の背中を盾にするように、後ろに下がることを、人類は隠れるというのだよ。


 やっとのことで出て来たイヴに表情を崩す。


「じゃあ、入ってみようか。お目当ての魔道具店らしいし」

「う、うん」


 俺の表情とは正反対に、イヴの表情は未だ硬いままだが、先ほどの後ろめたさがあるのか、今度は隣に並んでいる。


 じゃあ扉を開けましょうか。


 カランコロンカラ~ン。


 扉を開けて中に入ると、外からは想像できない程の広さで、所狭しと魔道具が陳列されている。

 これ、ワンチャンさっきの魔道具店より品数多いんじゃないか?


 なんて思っていると、店の奥からのっそのっそとした足音と共に、声が聞こえた。


「‥‥‥いらっしゃい」


 そちらを見ると、年老いた老人がいた。長い髭を垂らしながら、ムキムキの老人。なんで、俺の出会う人たちは皆、筋繊維が極太なんだ。と思ったのも束の間。あることに気づく。その顔はまさしく――。


「スベオロザウン!?」


 老人は驚いたように、目を見開いて、再び目を細めた。


「それは俺の双子の兄で、俺は弟だ。‥‥‥よもや子供からその名前が出るとは思わなんだが」


 爺さんの雰囲気が少し柔らかくなった気がした。

 良かった、目を細められた時は、もしかして不仲と思ったが、そうでもないらしい。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?