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夢の見方

 イヴの一言で、その場の重々しい魔力はスッと消えた。


「お父さん!? ダメだよ! ランディの魔力量はお父さんと比べたら、毛じらみなんだよ!?」


 それは絶対貶してるよね。流石の俺でも、傷つくことはあるんですよ? 人間だもの。毛じらみじゃないもの。


「冗談だよ、冗談。それに、ランデオルス君の魔力操作の力量は知っているよ? 社交界でランデオルス式と言えば有名なもんだ」


 あ、それ本当にやってたんだ。あの第二王子。


「でも本当に忖度なしで答えて欲しい。どれだけ回り道をしたっていい。寄り道などいくらしてもいい、私も息子の夢は応援したいんだ。だがしかし、それが到底現実的でない。‥‥‥いや、少しでもその可能性があればいいのだけれど、そうでなければ、親として、父として、正しい方向に向かわせてやるのも、また務めというものではないだろうか」


 その目は、かつての俺の父、ザンキが俺を諭したあの時とよく似ていた。


 不安でもあり、期待でもあり、なによりも慈愛に満ちたその目を思いだした。


「出来るか出来ないかで言えば、険しい道にはなると思いますが、出来ると思います。今のとことろ、言葉だけで高度なレベルでの意思疎通を図れるのは、手前みそという訳ではなく、僕だけです。何故僕が出来るようになったのかは、分からないです。けれど、僕の海竜がイヴになら触れられることを許可しているとこを見ているので、可能性としてはあると思います」


 俺は今思っていることを素直に打ち明けた。


 道としては、まだまだ暗闇の中かもしれない。それでも、どれほど遠くかもわからない一点の光明はやけに明るく輝いている。


 その光に向かって、ただひたすらに歩く。いつになるのかも、辿り着いた光の出口が本当は手の平ぐらいの穴かもしれない。けれどそんな不安をはねのけたものにのみ、夢を語る資格があると思う。


 だから、そんな不安そうな顔をしないでおくれ、イヴ。


「ふむ、そうか。‥‥‥いや、それならいいんだ。ランデオルス君が本気でそう思ってくれていることは目を見ればわかるよ。そうか、そうか‥‥‥」


 小さな呟きで、それだけ言うと、サルマンの顔は、ぐしゃっと歪んで、目頭を押さえて俯いてしまった。


 トニエラさんが優しい瞳で肩を撫でて、落ち着かせる。カシェラも腕を組んで不敵に笑っている。イヴだけが、何事かとおろおろとした様子で慌てている。


 サルマンの涙の訳は知らないが、男親として、多くの葛藤があったことだろう。なんだか無性に家族に会いたくなってくる。


「ズビっ‥‥‥すまないね。恥ずかしい所を見せてしまったようで、あはは、今日は恥ずかしい所だらけだ。けれど、そんなに悪い気分じゃない」


 すこし赤く湿気を帯びた目は、最初に見たように柔和な笑みを携えている。

 するとトニエラさんが、パンと手を打って、楽し気な声色で、お祝いとして、真昼間からの飲酒を提案してきた。


 俺とイヴが蚊帳の外になってしまっているが、大人組のうち提案者を除いた二人も、「それが良い」と上機嫌だ。


 仕事とか大丈夫なのかね。あとで苦汁を呑んでも知らないぞ。あー! 林檎ジュースが美味しいなぁ!!


 大人たちの上機嫌な様子を傍から眺めるだけの食事になってしまったので、イヴからの提案で、街に出かけてみないかと言われた。


 これ以上ここにいても、そのうちに酔っぱらった大人たちにダル絡みをされるだけなので、提案をのんで、退席することにした。


 案の条、大人組が止めにかかったが、イヴの鶴の一声で静かになると、「それなら」と前置きして、サルマンが街で買い物をするためのお小遣いをくれた。


 俺ってば、なんだかお小遣いを貰ってばかりだな。

 事あるごとに貴族からお金をせしめる平民、外から見てる分には、とんでもなく凶悪な平民なんじゃなかろうか。


 懐がかなり重くなったその足で、街に出かける。

 ちょっとイヴさん、たくさん食べたから満腹なんです。だからそんなに早く歩かないで! 迷子になったら帰れない自身がこの俺にはある!




 門から出ていく二人を二階の窓辺から眺めるサルマンは、一口、持っているグラスに口をつけた。


「あら? 新しいボトルを開けたのですか?」


 そこにトニエラがやって来た。その手には言葉と裏腹に、お酒を飲んでいるのが分かっているかのように、簡単なおつまみを持ってきていた。


「ん? あぁ、まぁね」

「ふふ、だいぶ上機嫌ですね、この後の公務に支障が出ない程度にしておいてくださいね。文官たちにしわ寄せが行ってしまうんですから」

「勿論だよ、トニー、君も一口どうだい?」

「では、一口だけ。‥‥‥あら、美味しいわね」


 静かで温かい二人には、冷えたお酒が心地よかった。




 さて、私が今どこにいるかと申しますと、ここは、ドットヒッチ領の都市、マルーダニアのとある通りのとある魔道具店にやってきました。


 見てくださいこの店構え、周りを水堀で囲まれてどうやって入店するのかがさっぱりわかりません。それに嫌と言うほどキラキラした壁や屋根。とてもお金を持っていそうですね。


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