「はっはっは、イヴがこんなにご執心になるとはね。そう思える友達が出来ただけでも、ノミリヤ学園の入学を認めてよかったと思うよ」
「そうね~、てっきり魔法学園に行くものと思っていたけど、こんなに明るい顔が出来るなら、こっちで正解だったのでしょうね」
イヴの両親がうんうんと納得した様子で頷いている。
「へぇ、最初は魔法学園に行くつもりだったんですか?」
確かにイヴは魔法が同年代に比べて圧倒的に得意で、天賦の才能と言って、差し支えないが、昔から海竜育成学校に通いたいって、思っていたんじゃなかったっけ?
「イヴちゃんが自分から行きたいと言ってたわけじゃないんだけどね? 魔法はお父さん譲りで得意だったから、そう言うものとばかり思っていたの」
「恥ずかしいことに、自分の息子に直接言われるまで、勝手に進路を決めつけてしまっていたのだよ」
何があったのかは分からないが、その時を思い出して、イヴの両親が目を伏せる。場に少し重い空気が流れだしたが、そんな空気とは対照的に、カシェラが快活に笑いだした。
「あっはっはっは、あの時のイヴは面白かったなぁ。皆を呼び出して、急に『話があるの』って涙ながらに絵本を取り出してなぁ」
「ちょっと! カシェラ兄さん! その話は!」
「ん? 寂しいこと言わないでおくれ。友達の前だからってそんな他人行儀な。いつもみたいにお兄ちゃんって呼んでよ」
お兄ちゃん‥‥‥可愛いな、この歳だもんね。全然恥ずかしいことじゃないんだけど、友達とかの前では、大人ぶりたいお年頃だよな。
「ッ! 兄さん! もうこの話はお終い! 何を言われてももう答えないからね!」
顔を赤くして、ふくれっ面のイヴは、恥ずかしさで身を悶えさせながら下を向いてしまった。それでもこちらをチラチラと見てくるので、視線を合わそうとすると、慌てて前に向き直り、絶対に視線を合わせなかった。
「そういえば、カシェラさんはお幾つなんですか?」
「俺か? 俺は18だよ」
「18‥‥‥てことは、もう学校を卒業したんですよね?」
「そうだね。今は父さんの元で、次期領主としての勉強と補佐をしているところさ」
この悪戯っ子が次期領主。いや、雰囲気的に有能ではありそうだし、意外とこういう人物が良い領主になるのかもしれないな。
「カシェラさんはどちらの学校に通われていたんですか?」
自分で聞いておいてなんだが、お見合いみたいになっちゃった。
「俺は貴族の学校だったよ? 魔法も身体能力強化が得意だったし、THE魔法みたいな魔法は苦手だったから。でも剣術だけは得意で、部活動も剣術部だったんだよね」
「カシェラちゃんは、お母さん似だもんね~」
確かにカシェラさんの剣は、素人目に見ても、目を見張るものがあった。あれが、母親であるトニエラさんの血なのか。‥‥‥この一家戦闘力高すぎないか?
皆一見して、武力行使できなさそうな見た目だから、余計に初見殺し感が否めない。まさに今俺は、ダンジョンの中にいると言っても過言ではない。‥‥‥いや、過言か。
このセリフを言ってみたいがために、適当に使ってしまったな。反省しとこう。良いよね「過言ではない」って。
「そうだ、ランデオルス君。聞いているかどうか分からないが、ウチのイヴには夢があるらしくってね。海竜の背に乗って海を旅するという夢だよ」
「あ、はい。聞いてますよ。良いですよねロマンがあって」
あれはいつだったかな。出会った初日か、初授業の時か。ちょっとその辺あやふやなんだけど、俺も一緒になって旅をしないかとか、言った気がする。
「そう! そこなんですよ」
「っ」
ビックリした、サルマンさんが急に大きな声を出したものだから。ビクッとなった。しかし、他のドットヒッチ家の皆は、慣れた事のようにすんと平常の顔をしている。
情緒が激しい方なのかな?
「海竜だって、魔物の一種だよね。実際に訓練された方式で騎竜して、作戦を以て出兵する。相手もまた同様に。軍事利用で海竜を用いえたのは、その枠組みの中だったからです」
そこで言葉を区切り、一旦イヴの方を見た後に、よく見ていなければ分からない程に顔の力を緩め、話を続けた。
「だが、イヴが求めているのはそういう事じゃないだろう。仲良く、仲良くだ。魔物と意思疎通を取り、環境、自然という相手をしながら、楽しく海を旅する――。それは可能かね?」
その瞬間、父の顔から王国随一の魔法都市、ひいては、それらを束ねる領主としての顔、風格が俺に向けられる。
身体がビリビリと震えるような緊張が走る。‥‥‥これは、息苦しい。感覚なのだが、感覚ではない様な。魔力か。
大きな魔力の塊の中にいるような、それで、息苦しい。大きな魔力が、俺の小さい魔力に共振して体が震えているのか。
‥‥‥ククッ、人を傷つけない程度の魔力での攻撃。しかもこの魔力量で。相当高位の技術練度、凄まじいの一言に尽きる。
と、額にたらりと汗が滲んだところで、俺とサルマンさんの間にイヴが割って入った。
「ストォォォップ!!」