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正解は‥‥‥

「俺が作り出したのは、魔物じゃない、精霊だ」


「精霊!?」

「精霊‥‥‥精霊って、あの精霊ですか?」


 なんとなく、文献に思い浮かべる精霊を想像した。普通の人の目には見えない、超常の存在。


「いや、厳密には違うかもしれないが、妥当な言葉が見つからなかったんでな。しかし、大きく違うというわけではないぞ。近からずとも遠からず、しかしそれ以外に似ているモノがないから、精霊だな」


 人工生命体というか、魔素の具現化? みたいなことか?


「この世に大地の力の影響をうけないものが魔素だ。‥‥‥では、精霊は? 魔物としてのじゃない、民草に語り継がれるおとぎ話としての龍は? 彼らには翼がない。なのに空を自由に飛び回る。どうしてなのだろうとね」


 確かに、言われてみればそうかもしれない。見たこと無かったから思いつきもしなかったけど、どうやって飛んでいるんだろう。


「どうやって飛んでいるか分かったんですか?」


「あぁ、昔、縁あって知り合ったエルフに尋ねてみたんだ。精霊とはどんな存在なのか、どうして飛んでいるのかって」


 エルフ! 俺もまだであったことが無い。冒険者ギルドにも、街のなかにもいなかった。それほど人前に現れない種族だそうで、会うことが、死ぬ前にしておきたいことの一つだった礼する。なお、男のエルフはノーカンで。


 それは、そうとエルフには普通の人に目に見えない精霊が見えるというのも、この世界では同様のようだ。


「まぁ、そんな鼻息を荒くするな」

「おっと失礼」


 イヴに変な目で見られた。


「で、帰って来た答えが、身体の全てが魔素で構成されているから、この世の理が通じないのでは? だった。つまりだ、魔素で構成されたものは、理外にある可能性があるんだな」


「龍もそうだと?」


「恐らくな。でもだ、魔素をそのまま物質化させてしまったら、それは魔法と変わりない。それではダメなんだ。魔素のままこの世界に顕現させねばなるまい」


 ? なんだかちんぷんかんぷんになって来た。禅問答?


「で、簡潔に言うと?」


 ここでイヴのナイスアシストが入った。


「すまんすまん、ついうっかり話を深めてしまったな。まぁ簡潔に言うとだな、魔石を核にして、魔素を絨毯に物質化させる途中で固定。そこに土属性の大地の力をイメージした魔法を付与した装置を取り付けることで、なんとか完成したってことだ」


「へぇ~、話を聞くだけだと簡単そうに聞こえるけど」


 イヴの反応にやれやれと肩を竦めて見せるサルヴィン。おいおい、素人を蔑ろにすると、新規参入が減るぜ?


「普通の物質じゃダメなんです。精霊も龍も、自身の生命を持つ生き物なんです。絨毯にその生き物のように、生命維持活動を行わせて固定させるのって、正直出来た事が奇跡レベルで凄いことですからね!」


 イメージの確立的な話か? 生き物じゃないとダメって。


「なんで普通の物体じゃダメなんですか?」


「そりゃ、魔素で構築されているからだよ。砂漠の砂をぎゅっと握って固めただけだと、すぐに崩れるだろう? だから、自ら砂を集めて、維持する意志がないとダメなんだ。そういう点で言えば、この絨毯も精霊も似たようなもので、生命体と言っているだけなのだよ」


 あ~、そういうことか。遠回りしたけど、やっと概要が分かった気がした。


 それを先に言って欲しかった。イヴの部屋に、知らず知らずのうちに、飯も食って、うんこもして、イヴのあられもない姿を密かに盗み見ていた、ストーキング野郎が居たのかと思っちまったよ。


 危うく、手が出る所だったぜい。


「それでも、もう一度作れって言われたら難しいかもな。もっと簡単に作れる理論、もしくは、何か特別な素材があれば話は変わるだろうけれど」


「そう、なんですね」


 自分専用の空飛ぶ絨毯が欲しかったけど、重力のイメージを精霊体だったら付与できる可能性があるという情報だけでも大きな一歩だ。


 これから生きていくうえで、新たな素材や、理論を見つけることが出来るかもしれない。そしたらサルヴィンに託して作ってもらえないかな。


 ちょっと積極的に、色々なところを巡っていった方がいいかもしれない。


 俺の何倍も生きているサルヴィンが知らないんだ。普通の場所には無いだろう。なんならこの国以外でも。


 となると、冒険者か。ちょうどいいかもしれないね。帰ったらハバールダで登録しようかな。


「ランディ、満足した?」

「ん? あぁ、満足したよ。ありがとう」


 考え込んでいた俺の顔を覗き込むようにして、イヴが聞いてきた。もう作れないと知った俺のことを心配してくれているのか、少し残念そうな顔をしていた。


「あ! そうだ、イヴさんやい。俺、冒険者登録することになったんだよ」

「うぇ! そうなの?」


「なんか、故郷の近く海で、新しいダンジョンが見つかったんだけど、俺とククルカ島の海竜で間引きして欲しいんだって」


「そっか。凄いなぁランディは。‥‥‥でも気を付けてね? 危ないことはダメなんだから」

「うん、ありがとう。」


「サルヴィンさんも、もしなんか活用できそうな素材が出たら、見てもらえませんか?」


「おぉ! 勿論ですわい。ありがたや、ありがたや。海のダンジョンはまだまだ攻略が進んでおりませんし、新しい素材も出てくる可能性は大いにある。うははは、まだまだこの世は楽しいことだらけですな」


 よし、言質は取ったし、頑張ろうか。

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