「あれ、おかしいな、いつもここで何かしらの実験をしているのに」
演習場では、何人かのローブを来た魔法使いらしき、魔技師たちが、それぞれ自分の魔法の研究を進めているようで、派手な実験を繰り返していた。
たまに凄い爆発音も聞こえたりしてくるが、この演習場以外に音が漏れないように、遮音の魔道具も展開されているらしい。だから家の中は静かだったのか。
「すみません! 皆さん! サルヴィンさん知りませんか?」
イヴが声を掛けると、魔技師たちが研究の手を止め、それぞれ顔を見合わせた。すると、その中の一人が手を挙げ、注目を集めた。
「サルヴィンさんなら、なんか『思いついた』って叫んでどっかいきましたよ。いつものことなんで、少ししたら戻ってくるんじゃないですかね?」
魔技師の答えに「ふむ」と頷いたイヴは、パンと手を鳴らして、俺の方を見た。
「じゃあ、サルヴィンがここに帰って来るまで、この魔道具たちを使ってみようか」
「了解」
「で、すみません、そちらの隣の方は?」
「あ、そうだよね。秘密の研究とかもあるよね。安心して! 僕の学校の男友達のランデオルスだよ! 海竜のことならなんでも彼に聞いてね!」
「は、はぁ。まぁ大丈夫ならいいんです。私たちは実験してるだけなので、どうか気になさらず、坊ちゃんのこと、よろしくお願いします」
一通り挨拶をしおえ、仕切り直しとして、木箱を床におろして、絨毯を丁寧に畳んで仕舞いこんだ。
「OK、これはどうすれば使えるの?」
俺はさっき説明された、火弾のロッドを手に取った。
「これは、的の方に細くなっている先端を向けて、一周円を描くようにしてから、持ち手のスイッチを押し込むと火の弾が出るよ」
ほーん、面白そう。
「やってみていい?」
「どうぞどうぞ、じゃああの的で試してみて」
イヴに指を指された木の的に、先端を向け、くるりと円を描く。中で何かが遠心力で回っているのを感じた。そして、少し重めのスイッチを押し込むと、手の平ほどの赤い火の玉が飛んでいった。
“ぼん”
的に当たるとすぐに消えてしまったが、よく見ると少し焼け焦げたような跡がある。飛んでいくスピードも軽く石を投げるくらいの速度だ。
「おぉ、すげぇ。俺火属性得意じゃないのに、いいなぁこれ。売ってないの?」
「たしか、街の魔道具屋で色々売ってるはずだよ。この街はそういうお店多いし、見て回るのも面白いかもね」
絶対行く。これはいいお土産が出来そうだ。色々欲しくなっちゃうな。自衛のための攻撃魔法の魔道具も欲しいし、フォルや、フィオナへのお土産も‥‥‥あ、これは分かんないな。もしかしたら魔道具を使っていない理由に関するかも知れない。
でも、試しに買っていく分には良いだろう。ダメなときはダメで、タンスの肥やしになるだけだ。
「よし、帰るまでに街を散策することは確定として、他には何があるの?」
「そうだね~、これなんかどうだろう」
ワクワクとした俺に、嬉しそうに次の物を取り出して見せて来た。今度は指輪型の魔道具らしい。あ、これ知ってるぞ、魔宝石じゃないか?
翡翠色の魔宝石は、なんとも涼し気な光を放っている。
「魔宝石?」
「お、そうだよ。良く知ってるね」
「ちょっと前に、知る機会があってね」
お転婆お嬢様のご機嫌取りの際にちょっとね。
「この魔宝石は、モスボヤージュだね。風の属性と親和性が高いんだ」
実際に、指にはめて「どう? かっこいいでしょ」と見せびらかすように、はめた手を顔の近くに持って行って、ポージングを決める。
モデルさんみたいですね。かわいいです。
「かっこいいね」
「ふふん」
満足げにニヤリと口角をあげ、ポージングをやめると、箱の中から全く同じものを取り出した。
あれ? 二つ目?
俺の疑問が伝わったのか、イヴはそれをもう片方の手の指にはめると、再度説明を始めた。
「これは二個でワンセットなんだよ。‥‥‥で、こうやって、手の平を合わせると」
パチンと、何かが嚙み合った音がした。イヴはすぐさま両の拳を前に突き出した。すると、目に見えない何かが飛び出していき、その風圧で思わず目を腕で覆う。
“バンっ”
的に当たった音がして、確認すると、的は一部欠けている。
まじか、結構威力高くないか? こ、子供用と言う話は? いや、魔宝石を使っている分威力が高くなったのかもしれない。
「今のは何?」
「これは、暴風弾だよ。へへ、お父様にヒミツで昔作ってもらったんだよ。そのサルヴィンにね」
暴風弾。これ良いんじゃない? 物質的なものではないから、殺傷能力は低いかもしれないけれど、自衛や、制圧力って考えたら、さっきの杖よりいいんじゃなかろうか。
それに、あの手の平合わせて前に突き出す感じ。すごい恰好いいし、あ~あ、地面から土の壁がにょきにょきと生えてきたらいいのに。例のアレごっこが出来るじゃん。錬金術師みたいなアレが。
そうじゃん、異世界なんだから、ファンタジー要素てんこもりのアニメとかを題材にして、信じこめば、色々幅が増えるんじゃないか?
魔法に対するモチベがまた一段と上がってしまうなこれは。デュフフ。
「凄いね。他には他には?」
「ふふふ、まだまだあるよ! これはね――」
そうして、色々なモノを試していると、演習場の入り口から声を掛けられた。
「イヴライト坊ちゃんじゃないですか。どうしたんですか? こんなところに、さてはまた新しく買った魔道具を試しに来たんですか‥‥‥ってあれ? そちらの隣の方は?」