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憧れだけだったもの

「勿論だよ! じゃあまずは僕の部屋にある魔道具を見せてあげるよ。何がいいかな~」


 自身の部屋を上から下、隅から隅まで、くるりと視線を流して、魔道具を探している。意外と当たり前にあるものって、気づかないのよねぇ。


 魔道具って幸せだったんだ。幸せを知らなかった俺、人生の何割損してる?


「あ、そうだ! 今は昼間だから使ってないけど、夜になったら部屋を明るくしてくれる魔道具の魔灯だよ! これで街も明るいままなんだ」


 あぁ、電球か。たしかにこっちの世界の夜は、前世の田舎の夜より暗いもんね。

 慣れちゃえばある程度、夜目が利くようになるんだけど、家の中とかも、今から怪談話でも始まりそうな雰囲気出しちゃってるし、この魔道具いいなぁ。


「すごいよね」


「うん凄いんだよ! ってあれ? なんか思ってた反応と違うけど‥‥‥」


「あ、いや。凄いなとは思ってるんだけど、想定の範囲内というか、流石にハバールダの街でも、王都でも見たことあるし‥‥‥」


 知ってるもん。何万回スイッチをポチポチしてきたことか。


「流石それぞれの領主宅や、王城は最新式だと思うけど、街のとは全然違うんだから! 長持ちだしエネルギー効率も段違い。ほらここを引っ張るだけで付き消しも簡単! 凄いでしょ」


 LED。イヴには申し訳ないが、生活用品の魔道具で俺が驚くことはないかもしれない。


「イヴさんやい、ここに来るまでに見かけた魔技師の人たちは、なんか、もっとこう、派手な感じだったじゃないですか?」


 ボカーン、バコーンてな感じで。まさに実験中というアレは、きっと攻撃魔法の魔道具とかに違いない。日用品じゃなくて、そういうのを私は所望します。


「あぁ、そういう感じがいいのね。だったら最初から言ってよね、ちゃんとそういうのもあるんだから」


 良かった良かった。ちゃんと伝わったんだ。


「えっと確かこの上の方に――」


 イブがバカでかいクローゼットの上にある少し大きめの木箱を取ろうとしているが届いていない。

 背伸びをしても届かないようで、ついには椅子を持ってきて、クローゼットの前に置くと、靴を脱いで、椅子の上に立ち上がって、手を伸ばした。


 危なっかしくて、見てらんないよ。椅子を抑えてやると、どうしても視界に入ってくるものがある。

 同じ寮の同じ部屋で、何回も見ているんだけど、イヴのおみ足もそうだけど、何故か靴下がクるんだよなぁ~。気づかぬうちに歪まされてしまったか、俺の性癖。


 ホワイトソックス教団の教主を努めております、ランデオルスです。よろしくお願いいたします。


 さて、冗談はさておき、気になっているものとのご対面だ。木箱を掴んだイヴが、そっと椅子から降りると、木箱を床に置いて蓋を開けた。


「おぉ~結構入ってるね」


「子供の時から気に入ったものを集めてたんだよ。危ないからって、威力を抑えられたものを貰ってはこれじゃない! って拗ねちゃってたんだ。今思えば恥ずかしいけどね」


 頬をポリポリと掻いて、懐かしむように苦笑するイヴ。自分でそう言えるようになってるんだから、素直な子だよな。


 そう思い、俺の中の父性が爆発して、頭を撫でてやりたくなるが、ぐっと我慢して、箱の中の魔道具を手に取る。


「この筒の様な、杖の様なものは何?」


 サランラップの芯をもっと細くした様なものをイヴの前に出す。


「あぁ、これはね、│火弾ファイヤー・ショットが撃てる魔道具だよ」


「へぇ! 面白いな、これって試し打ちできないの?」


 早く試してみたい。どれくらいの威力が出るのだろうか。

 俺がイヴに尋ねると、イヴはクスクスと手で口を隠すようにして笑いだした。


「ど、どうした?」

「いや、あまりにもさっきのと反応が違うから、ランディもやっぱり男の子なんだな~って、僕も昔はこういうのばっかり好きだったしね」


 ランディも、ねぇ。「も」に違和感を覚えたのは俺だけじゃないではず。


「ごめんごめん、別に子供扱いした訳じゃないんだけどね」


 俺が納得していない表情をしていると、子供扱いされて納得していないのだと勘違いしたのか、イヴは慌てて訂正すると、ガサガサと棚の方へ駆けていき、引き出しから一メートル四方ほどの絨毯を取り出した。


「じゃあ流石に部屋では危ないから場所を変えよっか」


 そういうと、絨毯を広げその上に木箱を乗せ、絨毯をサワサワと撫でてやると、重力に逆らって、ふわりと浮いた。


「‥‥‥ッ!? え!? マジで!? うそうそうそ、これ浮いてる?」


 それは、俺が諦めた魔法。実現不可と決定づけた魔法。

 思わず、イヴの肩をガシっと掴む。


「びっくりした‥‥‥日用品でも、そんなに興味を持つことがあるんだね」

「だって、これ、浮いてるんだぞ?」


 何を当たり前のことをと、イヴも、俺も思っている。


「これを作った人に会えたりしないかな?」

「じゃあ、ちょうどいいね。今から向かおうとしていた演習場に、ちょうど発明した張本人がいるはずだから、会いに行こうか」


 コクリと頷くことしか出来ない俺に、優しい微笑みを向けるイヴ。俺はそんなイヴの案内のもと、演習場に向かった。


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