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裏取引

 大きな砦は、領の発展具合を表しているようだ。大きな門の向こう側に見える景色は、ハバールダに負けず劣らず、人の賑わいを見せていた。


「すげぇ、街のいたるところに魔法使いらしき人が」


 大きなとんがり帽子に、ローブを羽織った人がパッと見るだけで五人はいる。普通の格好をした人ももちろんいるし、そっちの方が多いのだが。


 これまで見て来た街では、魔法使いなんて、冒険者ギルドでしか見かけないし、いたとしてもパッと見で見つかるようなことはない。


「らしきじゃなくて、そのものだぞ」

「魔法を極めようとするものが集まり、そこで発見された叡智を求めて、さらに魔法使いが集まる。そういう循環が出来ているのじゃ」

「凄いな~。僕も昔は憧れたものですよ」

「ふふふ、この街出身の身としては、皆さんの評価の高さに喜びを覚えますよ」


 俺の背後からここ数日で聞き慣れた声がした。咄嗟に背後を振り返り、四連ジャブを繰り出す。俺の決意を今こそ見せるとき。

 パシン、パシン、パシン、パシン。


 全員に俺の拳を叩き落とされ、一発も命中しなかった。


「おうおう、暴れん坊な腕だな。俺に、いや俺たちに攻撃の意志を見せる人間なんてそうそういねぇのにな。がはは」


 嘘こけ、方々から狙われているはずだ。この悪徳四人衆め。


「で、皆さんの目的地もここなんですか?」


「どうやらそうみたいですね」


 俺の質問にお互い顔を見合わせて、頷いた。

 皆実際のところ何しに来たんだろうか。冒険者、鍛冶師、大工、商人。それぞれ全く関係ない気もするし、関係してそうな気もするけど。


 この街にこれだけの人材が揃ってくるなんて、何かの前触れのように思える。


 しかーし、この俺には全く関係のない所で候。俺は友達の家に遊びに来ただけだからね。


「それでは、皆さんと別れるのは大変惜しくはありますが、そろそろ僕は行きますね」

「なんて清々しい笑顔なんだ。心にも思ってないこと言うなよ」

「なんだかだいぶ嫌われちゃったね」


 ダンブルさんは嫌いじゃないよ。正論パンチでお酒を飲ませてくれなかったのを覚えているだけで。


「ま、なんにせよ、我々も移動しなければなりませんからね。それでは皆さんまた会う機会がありましたらよろしくお願いします」


 そう言って一番最初にカシェラがヒラヒラと手を振りながら、こちらを見ることもせずに去っていった。


 なんとも胡散臭い商人だった。


「じゃあ俺も、報告とか面倒くさいことがあるし、さっさと済ませてくるかね」


 二番手はバコウ。本当に面倒くさいと感じているのか、ハァと溜息を吐きながら歩きだした。


「じゃあ僕も。仕事の打ち合わせに行かないとね」


 ばいばいダンブルさん。主人公になったら是非その英雄譚を聞かせてね。


「「‥‥‥」」


 俺とスベオロザウンはお互いに目を見合わせた。なんでこの爺さん動かないんだ? もしかして暇か? 


「お爺さんは予定とか無いんですか?」


 煽りじゃなくて、普通にね。


「予定は昼過ぎからだ。鍛冶師たるもの午前は二日酔いで起きないのが通なのじゃ」


 流石にそれは嘘だろう。それどこの常識? なんて都合のいい話なんだ、少し羨ましくも思う。その制度は広めた方がいいと思いますよ、通じゃなくて一般の話にしましょう。協力しますよ。


「それは素晴らしいですね。しかし、僕は友達との待ち合わせを数日も遅れているので、この辺で」


「あぁ、ちょっと待てい」


 俺がこの場を立ち去ろうとすると、爺さんは俺の肩を掴んで強引に自分の方へ引っ張った。振り向くこともかなわず、そのままスベオロザウンの腹に凭れ掛かると、俺の耳に声を殺して爺さんが囁いた。


「お前さんの酒好きはよく伝わった。俺の生まれ育った国では10歳から祝い事のある日限定で飲んでも良いことになっている。俺の工房を見事探し当てることが出来たら、飲ませてやってもいい。こっそりとな」


 じ、爺様ーー!! 変な爺だと思っていてすみませんでしたァ!!

 一生ついていきます! すんません! 嘘です! でも、鍛冶師になってもいいなあとは思いましたァ!! 爺様最高だぜ!!


 スベオロザウンと俺はガチっと手を握り合った。永遠の友情を誓おう。


「必ず、必ず見つけ出して見せます」

「そう急いではならんぞ。何せお前さんは未成年なのだから」

「そう、ですね。でも絶対に見つけてやりますよ」


 ふふふと互いに不敵な笑みを零し、バッと両者服をなびかせて、背中を向け、それぞれの道へ進んでいった。


 それはまるで、長年の付き合いがある友との別れのように、言葉無くして、互いの再会を信じて。


 それからしばらくして、街の人に道を尋ねながら、辿り着いたのは、この街で一番と言っていいほど大きなお屋敷。


「ホントに貴族だったんだなぁ」


 イヴが全然威張らないから、そんなイメージが無いんだよね。貴族貴族してないって言うか。なんなら正妻ポジションにいてくれるというか。おっと、彼女は男の子だよ。‥‥‥間違えた、彼は男の娘だよ。


「おい、そこのお前! そこで何をしている、ここは貴族様のお屋敷だ。子供が遊ぶ場所ではないぞ!」


 俺の事だろうなぁ。

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