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ちぃっと待っておくれ

「よし、完成だ!」

「「「「おぉ~」」」」


 宣言通り、昼前に出来上がった馬車は、以前の物より上品に仕上がっている気がする。


「じゃあ出発しましょう。御者は僕がやりますけど、得意ではないので悪しからず」

「あ、あの!」


 俺はある提案をするために勢い良く手を伸ばして、存在を主張する。


「どうしたんだい? ランデオルス君」

「僕にも御者のやり方を教えて欲しいです。馬、乗ったこともないし、それも練習してみたくて‥‥‥」


 ちょっと欲張りすぎたかなと思い、尻すぼみになってしまった。いきなり実践で素人にやらせると、馬が暴れる可能性があるって聞いたことあるし、最悪、大怪我じゃ済まない場合もあるとか。


「うん、良いよ! ちょっとでも代わってくれるのならありがたいよ。じゃあ、隣においで」


 快く俺の提案を受け入れたカシェラに、お礼を言うと横に座らせてもらった。


「じゃあ後ろのお三方も準備は良いですか?」


「小僧たちが居なくなっただけでこの空間は加齢臭が一気に強くなったな!」

「すみません、力仕事なので汗かいてしまって」

「全員もれなく汗かいておるジジイじゃろ」


 背後での会話を聞いて良かったと思える。ふぅ、ダメなんだ、なんか鼻は敏感で加齢臭込みこみの空間は。

 前世でも自分からその匂いがしたときは、大分ショックだったな。


「じゃあ出発するよ」


 手綱をしならせて、パシンと馬の尻を叩く。二頭の馬が嘶いて進み始めた。


 カシェラに手解きを受けながら、御者席で試す。本来は鞭で対応するのだろうけれど、鞭は力加減が難しく、上手く扱えなかったので、魔力糸で代用した。そっちの方が慣れてるし、100%自分の腕のように扱えるしね。


 元よりの馬たちの頭がいいのだろう、俺の拙い操作にも対応して、俺の希望通りに動いてくれている。ありがたい限りだ。



 夕暮れになるころに近くの村に辿り着き、食料を買い込んで、少し豪勢な夕飯を食べた。しかし小さな村だったため、宿屋などはないようで村長宅に泊めさせてもらうことになった。


 こういう場合、少し何かしらのお願いを引き受ける必要があるらしい。


 ということで、今晩近くの森の見回りをすることになった。付近の村でゴブリンの氾濫があったとなれば、不安になるのも仕方ないか。


 前回の夜の見張りをしてもらっていたので、今回は自分が出ようと進言したのだが、なんだかんだでこの年上たちは子供好きの様で、今日もまたぐっすり眠るように半分強制で布団に寝かされてしまった。


 夜の見回り‥‥‥してみたかったのに。普段とは違った山の側面を見れるから好きだったんだよ。したこと無いけど、ソロキャンプの動画とか見ちゃってたんだよな。癒されるというかなんというか。


「じゃあ、ゆっくりしてろよ。俺たちはちょっくら見回りしてくるわ、二、三刻で戻ると思うから、心配すんなよ」


「分かりました。では、おやすみなさい」


 別に心配している訳じゃないんですけどね。あなたがたをどうこう出来る魔物なんてこんな人里近くにいないだろうというツッコミは心の中に秘めておいた。


 俺に与えられた個室のドアを閉めると、しばらくそのままドアを見つめる。


 ‥‥‥だがしかし、こんなに簡単に引き下がる私ではござらんのだよ。ニチャァ。


 ふっふっふ、おかしいと思わんかね?

 子供好きなら、一緒に寝たがるものだろう。しかし、この年上ズなぜか俺を置いて夜の番をしようとしやがる。しかも全員だ。


 きっと俺に内緒でなんか楽しいことをしているに違いない。さて、こっそりついていってやろう。


 ちなみに危なくなりそうだったら、すぐに帰ります。痛いのはイヤなので。


 扉にピタリと耳をくっつけると、辺りをそわそわとしながら慎重に廊下を歩く音が聞こえる。ほうほう、やはり。何かを隠しおるな? この隠し事四人衆め。大人にとって楽しいことなら、前世がある俺にも楽しませろ!


 陽が完全に沈むと、辺りは闇に包まれた。家の灯もほとんどついておらず、ぽつぽつと灯っているだけだ。田舎だなぁ。


 てことで、暗闇に紛れるようにして、俺は皆の後をついていった。


 彼らは動きやすい恰好で、明かりを灯さずに森の中に入っていくものだから、後をつけるのが大変だし、怖いしで、引き返そうと思うことも何度かあったが、一度耐えてしまえば、後ろを振り返るともう来た道も分からない。


 月明かりも入って来づらい鬱蒼とした木々のせいで、方向感覚も分からなくなってしまった。俺がちゃんと帰れるようになるには、彼らに最後まで付いていく以外の方法は無かった。


 しばらく歩いたところで、ぽっかりと木の生えていない、月明かりに照らされた空間に出た。

 何を思ったか徐に腰を降ろすと、焚き木を作って休憩し始めた。


 なんだ? サボリかな? あんまり長居すると、人を襲う系のやつは近づいてきてしまう。そう、それはつまり、明かりに移らないように木に隠れている俺が一番危ない。


 だって、魔物とか肉食動物とか、匂いで居場所バレちゃうもんね。


「で、いつまで隠れてるんだ? こっちにこいよ」


 ギクゥ! ば、バレてたか。

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