さて、ぐっすり眠った次の日の朝。
「いてて、野宿なんて初めてで、体中がボキボキだ」
「ガハハ、身体が軟弱だな! 冒険者をやってれば嫌でも筋肉がついて、これくらいならなんてことないぞ!」
元気だな、この人。夜の見張りもしてくれていたのに、なんでこんな元気なんだ。こちとら慣れない野宿で睡眠の質が悪くて敵わないのに。
あれか? ショートスリーパーってやつか? 羨ましいねぇ、でも俺の経験上ショートスリーパーって極端な気がするんだよな。異常に活力がある人に多い気がする。
俺には無理だな。主体性、活力ともになし。好きな言葉は怠惰です。
で、なんでこんなに距離が縮まったかって言うと、昨夜飯を喰った後の残り火を囲んで、夜空を見ながら話してるうちに、ちょっとだけ親しくなりました。修学旅行‥‥‥いや、林間学校かな? キャンプとかそんな感じに近いかも。
で、この冒険者のおっさん。名前をバコウと言うらしい、それなりに高ランクの冒険者なんだとか。もっと遠いところで冒険者をしていたが、なんか用事があってこっちの方に来たらしい。濁されて言われたので深くは追及しなかった。
誰にだって秘密はあるもんね。
そんで、髭の爺さん。まぁ予測はついていたけど、やっぱり鍛冶師だった。名前はスベオロザウン。あの火の出る短剣も自分で打ったらしい。とある方に呼ばれて、弟子を残してこっちに来たようだ。‥‥‥濁された。
まぁ、元々顔を隠してたんだからそら隠し事もあるわいな。
そんで隈のおっさん。大工と言うのは知っての通り、名前はダンブル。ブラックな建設ギルドで働いており、よく仕事を押し付けられるそうだ。今回も現場に向かっているんだとか、さらに聞いてみるとワンオペ。
もしかして、実は主人公属性ですか? どえらいもん隠してましたな。ここからざまぁ展開になるんですね? 分かります。
そして教科書通りの綺麗な笑顔をしているカシェラ。ここまで来たんだ、絶対にこの人にも隠し事が存在するはずだ。‥‥‥と思ったので、色んなこと、別に興味もないことまで尋ねてみたが、全部素直に答えてくれた。
商会の三男坊で、優秀な兄たちに跡継ぎを任せて、そんで、趣味で剣術や武術を習ってみたら、これがビックリ闘いの才に恵まれ過ぎていたという訳だ。
といっても、ちゃんと地頭も良いようで、父たちの下で作った少々(かなり)の金額で、色んな街を漫遊中だそうだ。
どんな商売をしたのかも聞いたがかなり詳細に具体的に答えてくれたので、多分本当のことなのだろう。
と言ったメンツが今の僕の旅のパーティです。
‥‥‥豪華ですね。俺自身が役不足じゃないか心配になるよ、きっとこの馬車が直ったらまたこのメンツで旅に出ないといけないのか。
今まで普通に接していた人が、実はすごい人だったってパターン、こんなに連続して起こるものかね。なんか現実味がなさ過ぎて、気おくれしそうでしないや。
「あとどれくらいで出来そうですか?」
「うーん、そうだなー。お昼前には完成すると思うよ」
ダンブルが腕を組んで目算を答えた。一日でほぼゼロから馬車が出来るんだ。凄いな。なお今はほとんど完成しており、無駄な模様や、彫刻を掘っているところである。
もう完成でいいのに、納得いかないんだと。それに他の人たちも、シンプルなのは格好良くないって駄々こねるし。子供かッ! と一言言いたくもなった。
「じゃあ、本当にもうすぐですね。この人数なら、明日の昼ごろには追い付けますかね?」
「まー追い付けるだろうな。向こうは大人数でゆっくりとしか移動できないし、逆にこちらは少人数の精鋭たちだ。魔物の襲撃でさえも俺たちを止められんよ」
「だが小僧、お前は一番安全なところにおれよ。あとほら、これを貸してやる」
スベオロザウンが持っていた短刀を渡してきた。
鞘から抜いて、刀身を見ると、吸い込まれそうなほど怪しげに光るそれは、明らかに業物と言うやつだろう。
良いのかな? 変に扱って壊したりしたら怖いな。カッコいいけど使わないようにしよう。
「ありがとうございます。‥‥‥でも、僕、武器とか使ったこと無くて、どう使えばいいんですか?」
武器の上手く扱えない素人には、武器をやらんとか、そういうこと言うのかと思った。気難しい鍛冶職人ってそんなイメージあるよね。
「何も持っておらんよりはいいだろう。鞘から抜いて、敵の方に見定めて、切っ先を向けるだけでいい。相手が一瞬でも躊躇ってくれれば、その隙に守ってやる」
なるほど、使わなくて良いと。まぁいいか、魔法を使えば。
でもやっぱり、格好いいよな。こういう無骨な刃物って感じの。魔法とは全く違ったカッコよさ。魔法が足し算のロマンだとしたら、刀術は引き算の競争だ。無駄をなくし、削りに削って、その中で一番を極めることに命を懸ける美学。
元日本人としては、やっぱり憧れるものがあるよなぁ。
魔法で刀を再現するのもな~んか違うんだよね。刀は刀で、それ以上でも、それ以下でもあって欲しくない。