おっさん冒険者が切り倒した木材を、髭の爺さんが乾燥させて、隈のおっさんが加工と組み立てをしていく。
俺とお兄さんは木の影に腰を降ろして、その様子を眺めている。今は出来ることないしね。
切り倒すのも乾燥させるのも確かに早い。でもそれ以上に加工組立が早い。しかし、工程の量が圧倒的に違う。もう半日、いや一日もあれば完璧、それ以上の物が出来るのではないだろうか。
だが、他の乗客を待たせる訳にもいかない。食料はきっちり元の行程分しかないのだから、ここでのんびりしていると、どこかで食料が尽きる。それを買うための金も余分にかかる。
なにより、それを分かっているこの乗り合い馬車の御者たちがいい顔をしていない。
「お兄さんって、御者出来ますか?」
「御者かい? まぁしたこと無い訳ではないが得意というわけでもないな。それと、僕のことはカシェラと呼んでくれ」
「あ、ランデオルスです。よろしくお願いします、カシェラさん」
差し出された右手を、握り返し、握手をする。力強っ! 俺もだいぶ筋肉ついてきたと思っていたのにね。
「で、なんで急に?」
「いやぁ~、他の乗客に申し訳ないなって思いまして。先に行ってもらって完成したら後から追いかけるのってどうかなと」
御者に馬を貸してもらえるかどうかは分からないけども、お金でどうにかならないかな。なお俺の懐からは一銭も出せないものとする!! 発案者特権です。
「ふむ、そうだね。そういうことなら仕方ないね」
それだけ聞くと、カシェラは立ち上がり御者の方へ向かった。
しばし話こんで‥‥‥あ、懐からお金出してる。てことはホントに馬を借りるのか。
じゃあ、本格的に馬車の完成まで暇になってしまったね。
「馬借りられるようになったよ。頑張って御者をしてみるから、ランデオルスの考えた案で行こうよ。多分何とかなるでしょ、僕たちなら、ね」
そう言って他の三人を見る。
まぁ、過剰戦力だなとは思いますけど。見るからに料理とかしなさそう。隈のおっさん、料理できるかな? 同じ匂いがするから、簡単な男飯なら作れそうな気がする。独身30代後半の匂い。
ズビっ、おっと、いかんいかん。おっさんに同情してしまった。大丈夫きっといいことあるよ。
鼻を啜りながら三人に近づいていき、先ほどの提案を話した。
「ふむ、そうか。まぁ仕方ないな、つっても寝床くらいは確保したいが、宿もあるまいし、仕方ない。今日は野宿かね」
「すみません、なるべく早く作りますので」
「いえいえ、おじさんの作業速度は凄まじいですよ。大きな角材をそう何本もポンポンと生み出せる人なんてそういませんよ」
「‥‥‥」
俺たちの会話を爺さんが無言で聞いている。と思ったが、魔力の使いすぎで疲労しているようだ。
既に疲れすぎて、フードが脱げていることなぞ、気にも留めていないようで、髭が汗で艶々と潤っている。どこで艶めかしさ出してんねん。
それにしても、魔力って使い過ぎるとこんなにやつれるものなんだな。
俺の場合、蛇口は普通なのに、貯水タンクが無いようなものだから、疲れる前に気絶してしまうんですけどね。耐えがたい痛みと共に。
貯水タンクが無い中身を出そうとして、その圧力で、タンクごと潰れていく感覚とでもいえば良いのだろうか。
「一晩くらいなら、我慢しましょう。ところで、この中で料理を出来る人はいますか?」
「「「‥‥‥」」」
おっさんお爺さんお兄さんは、やはりと言うべきか揃って目を逸らした。周りの人間にさせてたタイプだな。立場や金があって何よりですね。
「僕は少しだけなら‥‥‥得意って程じゃないけど、基本ぐらいなら分かるよ」
むぎゅっ。
思わず抱きしめてしまった身長差的に腰を抱きかかえるような形になってしまったが、俺的には背中をバシンバシンと、叩いて讃えるようにしてやりたい。
「大丈夫です。僕も基本ぐらいは押さえているつもりなので、なんとかなりますよ」
俺たちのこれからに全員が納得すると、ちょうど他の乗客を乗せた馬車が行ってしまった。それを見届けた俺たちは、御者から買い取った食料や、調理器具を使って、一旦夕飯にすることにした。
ん~、こういう時は簡単な鍋料理ですかね。
野菜と干し肉だもんな。逆に他に料理が思いつかないからいいか。結局野郎五人で食べるのにちょうどいいしね。
野菜をゴロゴロに切って、軽く炒める。そこに水を入れて干し肉を戻しながら肉の旨味を抽出、調味料で味を調える。なんで味噌があるんだろうか、味噌って長期保存に適していましたっけ? まぁ、いいか。男児たるもの喰えて美味けりゃ何でもいい!!
明日の腹痛は、明日の俺がどうにかする。そうだろう! 野郎ども!
では、いただきます。‥‥‥うん、普通。まずくはない、けれどちゃんと感謝を込めていただこう。村の惨状を見て、改めてそう思った。
冒険者とともに村を去った村人たち。一日にして廃墟と化した村。浄化された簡易的な墓に眠る御霊。
ちょっとだけ、作ったものを供えておこう。これもきっと、信心深い俺を将来、天国に連れて行ってくれるかもしれない。