ということでやってきました、冒険者ギルド。外観はそれほど華美ではないが、大きさだけは周りの建物から群を抜いてる。三、四階はあるんじゃないだろうか。それに先ほどから人の出入りが激しく、見た目の厳つい男どもをよく見かける。
「なんかここに入るのも少し躊躇っちゃうような、そんな感じだね」
「武器を持ってる人が大勢いるから」
そうだよな。大勢の人間が殺傷能力のある物を携帯してうろついてるなんて、この世界に転生してからもなかなか見てこなかった。ノミリヤ学園からこの王都に来るまでに護衛についてくれた人たちでさえ、ちょっと怖かったのに、その何倍もの人数がギルドに出たり入ったりしてる。
「でもせっかくここまで来たんだし、入ってみようよ。何かあっても大丈夫、俺の後ろに隠れておいてね」
「ランディ‥‥‥うん、守ってもらう」
いや、守れるほどの武力は無いんだけどね。ギルドの中で問題を起こすようなバカはいないだろうし、それに今の俺の身に何かあれば、第二王子、及びギルド長が何とかしてくれるだろう。ククク‥‥‥肉壁として使ってください。
覚悟が決まったところで俺たちはギルドの扉を開けて中に入る。
「おお、これは‥‥‥」
「思ってたより」
内部は中央が天井まで続く吹き抜け。天井からは魔道具だろうか、火ではなく光そのものを浮かべたシャンデリアが吊らされている。バーカウンターも併設されており、昼間から飲んでいる者もいれば、作戦会議をしている者まで。壁に掛けられた大きなコルクボードには依頼書が貼ってあり、多くの者がそこに殺到している。
もっと西部劇の様な、殺伐とした雰囲気を想像していたけど、これは活気があっていいな。心がワクワクさせられる感覚、これからの冒険を祝福してくれるような、そんな感覚に陥る。
「おい、入り口に突っ立ってると邪魔だぞ」
「あ、すみません」
思わず見とれていると、後ろから声を掛けられたので、ソーニャの手を引いて脇に避け道を開けると、岩かと思うほどの巨体が俺たちを横切った。人間か?
その男も俺たちをチラッと一瞥するだけで、意外にもそれ以上言及することはなく、窓口のカウンターに進んでいった。
俺が読んでいたラノベでは、大体一番最初に話しかけてきた冒険者が絡んでくることが多かったけど、良かった。流石にあの巨体を相手にどうにもならん。
「登録窓口に聞きに行こっか」
「うん」
コクリと頷くソーニャを連れて、受付に移動する。窓口は何個かあって、その上にそれぞれ依頼受理、登録、依頼報告、その他事務と書かれてある。
「えっと、登録? でも説明聞くだけだしな‥‥‥その他事務? こういう時は空いてる方に並んで、間違えてたら並びなおせばいいか」
「じゃあ、登録の方が使ってる人少ない」
「じゃあそっちで」
幸いにも俺たちの前で並んでる人はいなかったので、そのまま話を聞くことにした。
「すみませーん」
「は~い、っと冒険者登録ですか? 」
若干高めに設計されたカウンターは、俺たちが背伸びをしてやっと目が出るぐらいの高さだった。そういえば、冒険者って背高い人が多いよな。入り口のドアもデカかったし。
「あ、いや、迷っていて。話だけでも聞こうかなと思ったんですけど、それってこの窓口であってます?」
「はい大丈夫ですよ~、何か聞きたいこととかありますか?」
「あの、冒険者になったとして何か義務とかは発生するのでしょうか」
一番気になっていることを単刀直入に聞いてみる。あとは年会費とか? 持ってるだけでお金が発生するよくわからんシステムだな。うっ、固定資産税?
「そうですね、それぞれのランクによって発生する義務が変わります。登録したばかりのF級だと週に一回街の内側での依頼を、E級だと週に一回街の外での依頼を、D級は週に2回、C級以上は定期的な義務は発生しませんが、有事の際、前線に出てもらう事と、指名依頼を優先的に受けていただくことです。ですが、これはあくまで優先的になので義務ではないですね」
「だって、どうする?」
ソーニャが俺の顔を見て聞いてくる。う~ん、週に一回街に行かないといけないし、それに戦争に赴くなんて絶対に嫌だし、ソーニャをそんなところに連れて行きたくない。
「やめとこっか。俺は定期的に街に行くの面倒くさいし」
「ん。ランディが登録しないなら私もやめとく」
「て、ことですみません。やっぱりなしでお願いします」
カウンター越しに身を乗り出して、聞いてくれていた受付嬢に視線を戻すと、俺の声が聞こえていないのか焦点の合っていない目で俺のことを覗き込んでいる。
「うぇ、え?」
思わず変な声が出た。
「ランディ‥‥‥つかぬことをお伺いしますが、ククルカ島のランデオルスさんですか?」
「えっと、はいそうです」
「でしたらギルド長よりお達しがありました。ランデオルス君の冒険者ギルド所属の義務の免除、その代わりになるべく依頼を受けて欲しいと」
お? 嬉しいやら怖いやら、そのなるべくっていう明確な回数が無い方が怖いんよ。