ほんの少し最後の方だけ聞こえたが、大事なところが聞こえなかった。なので、もう一度聞いてみると、目を伏せがちにして、手をもじもじと遊ばせながら答えてくれた。
「‥‥‥憧れだったんだもん。彼氏に奢って貰うの‥‥‥。皆の話でしか聞いたことないし、でもランディは忙しいから遊んでる暇もなくて、なかなか会えないけど、ランディに奢って貰いたかったから‥‥‥」
可愛い理由だなおい。金額を除けば抱きしめてたかもしれない。だから、これくらいで勘弁してやろう。
俺はソーニャの頭をガシガシと撫でまわした。「いやー」と棒読みの抵抗を見せるも、実際には声をあげるだけでされるがままだ。
なんだかんだ言って、こうやってじゃれ合っているのも、久しぶりに二人で遊べたという嬉しさが勝っているのだろう。しかもククルカ島にはない娯楽が満ち溢れている王都でだ。縁が無ければ一生訪れない人さえいる、国の中央だ。
「おまたせしました~。ラブラブジャンボパフェで~す」
タイミングよく持ってこられたその一品は器だけで俺の顔程はある。喰いきれるのか? この甘みの爆弾を――
――なんて思ってた時期が僕にもありました。
早々にギブアップを果たした俺に替わって、ソーニャはその細い体のどこに入っているのかと不思議に思うほどパクパクと喰い進んでいった。
そんなに多く食べれるのに、栄養は胸に行かなかったんだ‥‥‥ヒエッ!? 殺気!?
「今変なこと考えてた?」
ブンブンブンブン、遠心力で脳みそが飛び出るんじゃないかというほど勢いよく首を振って否定しておく。なぜならソーニャの右手に持たれたフォークが鈍く光っていたから。ほ、本気じゃないよね?
ソーニャの食べっぷりに当てられたのか、考え事がバレた気まずさを紛らわす為か、俺も少しだけこの城の攻略に参加した。
「もう食べられないねぇ」
「おなかいっぱい。しあわせ」
俺たち二人はお店を出て、通りに併設された広場の大きな樹の下のベンチで休憩している。
木漏れ日の元、風がそよいで口の中の甘ったるさをどこかに運んで行ってくれている。二人してボーっとただ遠くを見つめている。
せっかくの休日にこうやって時間を消費するのは嫌いじゃない。何もしないことがただただ気持ちいい。
が、俺は良くても、ソーニャをどこかへ連れて行ってやりたいというのも本音だ。俺なんかより、よっぽど忙しそうだしな。俺の学校でのスケジュールなんて、メインの授業がだいたい知っていることだから根気詰めるわけでもなし、なんなら3年間寝てサボってたみたいなっもんだし。
あー、どこへいこうか。王都城下町の情報をもっと集めておけばよかったな。今更だけど。
「ねぇソーニャ? 王都には他になんか観光名所とか無いの?」
「ん~、でも王城も行ったし、教会はククルカ島の信仰と違うし、食べ物はもうお腹に入らないし‥‥‥。なにかあったかな?」
「あー、そうか、この国の国教って何だっけ?」
「正アルテミス教。この世界を作ったとされる女神なんだってさ。教会もすごく豪華だったよ。外から見ただけだけど」
「まぁ、ククルカ島の土着信仰に比べたらそりゃね」
ちなみに、ククルカ島はもはやそれ以外に何があるんだと思われるかもしれないが、勿論海竜信仰だ。日本の先住民族アイヌが熊や梟、狼を神格化していたように、こっちでは海竜を奉っている。そんでもって神社や仏閣、教会は無いけど、その代わり小さな祠が島の天辺に建てられている。
本来は海自体に祈ったりするんだけど、物体があって座標を固定した方が分かりやすいという事で建てられたんだとか。うーん、俗っぽい。
「あ、そういえば冒険者ギルドは? 昨日あのあとにギルド長と少し話したんだよ。そんで冒険者にならないかって」
「へぇ。なるの? 冒険者に」
「今のところその予定はないね」
腐っても調教師だ。命を取り扱う職業についているから、やーめたは出来ないし、それに何と言っても死んじゃうかもしれないからな。強い人とパーティを組んで薬草採取とかならいいかも知れないけど、メインは海での戦闘になりそうなので、ご免被る。
「もし冒険者なったらククルカ島専属になってもらおうと思った。そしたら離れ離れにならないで済む」
「それは難しいんじゃないか? ククルカ島に冒険者ギルドの支部は無いし」
「それもそうだね」
「あ、でも冒険者登録してあると、他の街に行くのに便利だって聞いたことあるよ。入国税がタダになるって、あと、乗り合い馬車も格安で使えるって」
えぇ、それはいいな。旅行し放題じゃん。
「一応冒険者登録してみる? そしたら旅行とか簡単に行けるよ」
「名案。なんか義務とか発生するのかな? 定期的に依頼をこなさないといけないとか‥‥‥」
「あー、その辺も一回聞きに行ってみるか」
そうと決まれば、すぐに行こう。よっこらせっと、ウっ‥‥‥急に動くとお腹に溜まったパフェが‥‥‥。