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価値観~王都滞在編ⅩⅨ~

「いらっしゃいませー!」


「二人、カップルで」


「かしこまりました! では席までご案内しますね! ラブラブカップル一組ご来店でーす!!」


 はずいはずいはずい! ほら、他のお客さんもこっち見てるよ。生暖かい目で見られてるよ。こんな紹介されるなんて思わなかった。


 と周りの視線を感じながら、目を合わさないように意識して、店員さんの背中だけを見てついていく。と言っても、他のお客さんとすれ違うたびに、視界には入るわけで。


 あの男の子も、そっちの男の子も、皆一様にげっそりと疲れた目をしている。君たちもか。思わずそちらを見てしまい、目が合った。


 俺とその男のは、互いに互いを励ますように微笑むと、同時に互いのパートナーに気づかれないように溜息を吐いた。お疲れ様。いつの時代も、どの世界でも、男の立場は弱いんだなぁ。


 とほほ。なんて言葉には出さないが、無駄な抵抗として、歩幅を小さく歩いてみるもすぐに目的の席に着いた。


 窓際の、表通りから一番よく見える場所で、背もたれはハート型になっており、二人が並んで座れるようになっていた。


 ぎこちなく座った俺の隣に、ソーニャが詰めるようにして座る。


「一番いい席に案内された。これは自慢できる」


 誰に自慢するというのだろうか。学校の同級生? この年頃の女の子ってそういう情報を共有するものなの? 男子だとひた隠しにするんだけど、男女の違いってやつか。はたまたソーニャさんが特殊個体か。


「ほどほどにね、とりあえず何を頼もうか。メニュー表は‥‥‥あった」

「事前に情報は得ている。山盛りパフェが人気らしい、これを二人で半分こするのが良いらしい」


 ソーニャが指さした場所を見てみると、大きなパフェの絵が描かれている。ホイップにフルーツ、チョコ菓子などが贅沢に乗っているのが伺える。お値段は‥‥‥ッ!!


 思わず叫びそうになった口を押えることで、なんとか店内に響き渡ることは無かった。


 一、十、百、千、万、十万。88万円‥‥‥。 待ってくれ、なんでこんなに高いんだ。たかがパフェじゃないのか? こんな甘いだけのものなんて‥‥‥、そうか! そういえば俺、この世界に来て甘いものなんてほとんど食べてないや。砂糖が高価なんだ。


 一体、このパフェはどれほどの量の砂糖を使ってるんだ‥‥‥。


 俺はソーニャに見えないように財布の中身を確認した。い、一応、朝来るときに俺の部屋付きの人から「第二王子殿下から好きに使ってくれとの言付けを賜っております」と言われ、机の上にチャリンとおかれた巾着袋をソーニャの勢いに呑まれて、中身を確認せずに持ってきていたのだ。


 そーっと、紐をほどき、中身を覗き見る。


 そこに入っていたのは十枚の硬貨。恐らくそれなりに高い金額だと思われる。思われるというのは、その硬貨を見たことが無いからだ。だとして、これは一体何円になるのだろうか。


「ソーニャさん、つかぬことをお伺いするのですが、これは一体何円か分かりますか?」


 そういって、先ほどの硬貨の内の一枚を取り出す。


「えーっと、授業で習った。これは十万円硬貨。製造数が少ないうえに、使い勝手が悪いからなかなかお目にかかれない。良く持ってたね」


「ま、まあね」


 セーーーーーーーーーーフ!!!! 殿下ぁ、ファインプレーですよぉ‥‥‥。殿下のお心遣いが無ければ、今頃食い逃げ犯として、牢屋に入れられてしまうところでした。


 何で、こんなお店に気軽に行こうなんて言えるのだろうか。不思議に思ったが、もしやと思い、尋ねてみることにした。


「そういえばなんだけどさ、ソーニャの同級生に同じく平民の人っているの?」

「んー、同じクラスにはいないね。同学年には私の他に二人いるけど、圧倒的に貴族の子が多くて、平民の二人も大きな商会の御曹司だって、友達が言ってた」


 圧倒的金銭感覚のズレ! そういうことだったか。ククルカ島を出るのも早かったし、平均的な価値観を育む機会が少なかったのは分かるけれども! これは早急に治さないといけない病気です。


「すみません、このジャンボラブラブパフェを一つ、飲み物はダージリンティーと、‥‥‥ランディはコーヒーが好きだったよね。コーヒーで」


「かしこまりました。当店先払いになっておりますがよろしいでしょうか?」

「え、あはい。これで」


 袋から硬貨を九枚取り出して店員さんに渡し、お釣りをもらうと、タッタッタと駆け足で厨房へと戻っていった。


 なんで俺がコーヒーを好きなのを知っているのかは置いておいて、ひとまず確認せねばなるまい。


「ソーニャはコレの金額知ってて来たんだよね?」

「? もちろん?」


「ちなみに、ソーニャはお金持ってるの?」

「もちろん、買い物にはお金が必要。そんなに非常識じゃない。疑われるのはちょっと不服」


 ぷっくりと頬を膨らませるけれどもちっとも怖くない。


「いや、金額が金額だから、さ。88万は大金だよ?」


「大丈夫、引換券貰ってたから」

「引換券?」


 ソーニャはおもむろに自分の鞄をあさり、中から一枚の紙きれを取り出した。受け取って見てみると、そこには“ジャンボラブラブパフェ無料引換券”と書かれている。


 む、無料!? 俺の90万は!?


「こ、これはどこで手に入れたの?」


「学院のイベントで成績優秀者に配られたやつ。‥‥‥これ使わなかったの、怒ってる?」

「怒ってはないけど‥‥‥、出さなかった理由は何かあるの?」


 そういわれると、責めれないじゃないか。まぁ責めるつもりもないんだけど。元々俺のお金じゃないし、それにまだまだ子供だ。犯罪にまで発展してないし、本人も罪悪感があるなら俺は許す。


「‥‥‥から」ボソッ

「ん?」


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