な~るほどね。人の集まらなそうな不人気ダンジョンになりかねないから、それを海竜調教の際に、ついでに倒してくれませんかと。
下見もしてきたのなら、海竜が出入りできるぐらいの道幅はあるんだろうな。
「そこで、実際にククルカ島で海竜調教をしていたランデオルス君に意見を問おうと思って、連れてきたわけですか。実際どうなのでしょう。できそうなのですか?」
「あ、はい。ちゃんとしたことは調教師のまとめ役である父のザンキと、島長に確認しないと公的な意見としては、出せませんが、僕個人の意見で良いのなら‥‥‥」
いきなり話を振られたので、多少驚きはしたものの、用意しておいた前置きを述べる。これは俺個人で決められる話じゃないしな。
「えぇ、それで構いませんとも」
ギルド長の承認を得たので、頭の中で、ザっと計算をして話す。
「事前にダンジョンに関する基礎知識や、そのダンジョンの内部構造、出現モンスターを知りえた上で、年に数回程度なら大丈夫だと思います」
「ふむ、意外と少ないんだね」
「魔物と何度も戦ってしまうと、その調教師に合わせた戦い方を覚えてしまい、国に卸す際の品質に関わってきてしまいます。軍に入って、いう事を効かない、癖がある、だと良い調教とは言えませんし、海竜を当てられた竜騎士の命にかかわってきますから」
周りの大人たちも、それが多いのか少ないのか考えているようだが、やはり、少ないよりの考えなのだろうか。俺としては年一でもいいくらいだと思ってるんだけどな。もし、このダンジョン遠征が恒常化した際に、将来俺の仕事が増えるのはゴメンだし。
「それに、調教師が調教中に命を落とすのは、無いことではありませんが、大きな損失です。自らその可能性を広げようとするものはいないでしょう。そこの説得も鑑みての年数回です。
「という事ですが、軍務卿はどうお考えですかな?」
ぐ、軍務卿!? その剃りこみの入った男性が? こりゃまた大物と同席してたもんだ。つまりは俺たちの取引先の一番上じゃないですか。
「‥‥‥そうだな」
固く閉ざされていた軍務卿の口が重々しく開かれると、かなり激渋の重低音のお声だった。イケオジポイント、プラス四点。
「‥‥‥軍としても、確かに高品質で揃えられる海竜をわざわざ変な癖をつけるような真似をしたくないが、対魔物の経験を積めるというのも捨てがたい機会だ。まずは一回出撃させてみて、それからどれほどの得られるものと失うものがあるのかを見てみたいものだな」
「ふむ、ではこうしましょうか。とりあえずの目安は一年に数回、それで海竜や調教師、軍部にとって損なわれるものが多ければ減らし、大丈夫なようであれば増やすという事で。といっても、最初の内は冒険者でごった返すと思いますけどね」
とりあえずは安牌な感じなったんじゃないだろうか。良い役目を果たしたと思う。ナイス俺。
にしても、ちょっと気になるな。冒険者という人種を。蛸を初めて食べた人、フグで死ぬことを知りつつも、フグの毒無しの美味い部位だけを探し当てた人。例えが食べ物ばかりになってしまったが、要はそんな感じのロマンに文字通り命を懸ける人種。
会ってみたい。出来ることなら話を聞いてみたい。面白い話が聞けそうだ。
その後も、俺の付いていけない話が展開されていった。というよりは、軍事機密的な内容がペラペラと話されていくので、なるべく考えないように、聞かないようにしてたら、あっという間に話し合いは終わった。
あれは、確信犯たちだ。俺を囲いに来ている。そうに違いない。俺だけならまだしも、ソーニャも巻き込まれているので、もう、というかもとより逃げる気などさらさらないのだが。
ひとまず話し合いは終えたので、その場で解散という流れになり、第二王子も、軍務卿もギルド長もそれぞれが忙しなく誰かと情報を伝えるようにと動き始めた。
俺はもう用済みですか。はぁ、と溜息を吐きながら、夜も深くなったので、ソーニャの部屋まで見送った。
肩ひじ張っていたからか、さらに重くなった体に鞭を撃つように、のそりのそりと廊下を歩いていると、中庭を横断する廊下で月明かりが差し込み、前方に人影が見えた。
誰だろう? 顔がちょうど暗がりになってて見えない。
すると、向こうも俺の存在に気が付いたのか、コツコツと足音をならし、近寄って来た。
「あなたは‥‥‥」
「はぁい、さっきぶり。改めて、ギルド長のセリウス・トポコロイだよ」
会議の時も思ったけど、だいぶ気さくな感じの人だな。
「どうも、ランデオルスです。‥‥‥あの、一体何か用ですか?」
「いやはや、話題の神童くんとちょっとお話したくてね」
なんだそりゃ、含みのある言い方だなぁ。
「そう、ですか」
「ちなみに、さっきの会議の話はどこまで覚えてる? 僕としてはもう少し聞いておきたいことがあったんだけど」
「すみません、子供なので実ははなしのないようは分かっておらず、覚えてもおりません」
俺は少し怯えたように、上目遣いで応えた。それを聞いたセリウスは、目をまん丸にしてから、顔を伏せると、次第に肩を震わせた。
「‥‥‥ククク、フフフ、アッハッハッハ!!! いや~ごめんごめん。いいよ、いいね。」
だよね、正解だよね。