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あやすぃ~王都滞在編ⅩⅤ~

 ということで、アイシャのお陰か聞く耳を持っているアピールをしていると、ちらほらと話しかけてくる子が現れた。


 名前? ちょっと一偏に話しかけられすぎて、実は覚えていないです。男爵家から公爵家まで貴族の中でもかなり幅広く集めてくれたそうで。


 ちなみに、貴族としての英才教育を受けた奴もほんの数人いましたよ。平民の分際でという態度がもろに前面に押し出されているような子がね。そんな子に対しては極めて冷静に、テキトーに頷いたりしているだけなので、暇だった。


 だから暇つぶしに水の糸で背筋をなぞってやり、びくッとする様子で楽しんだりしたのも、暇だったからだ。他意はない。


 ちなみにソーニャと同じく、王都中央学院に通っている子らは、俺に対して高圧的な態度をとることが無かったのが嬉しかった。彼女がお貴族様と一緒の学校って聞いたときの懸念点が少し和らいだ気がしたのだ。


 顔合わせが目的なようだが、あとからダンスパーティーで一度お会いしましたよね。って言われれば初対面の人でも「そうでした」って返しそう。これは顔合わせの意味があるのだろうか。


 あとで、参加者一覧みたいなの貰えないだろうか。そんで俺とソーニャのことを馬鹿にした奴はブラックリスト行き決定! おめでとうございます。


 ちなみにブラックリスト行きのメンツは全員男子だったのも面白かった。女の子の方が心の成長が早いというのは本当なのかもしれないね。




「ふぅ」

「お疲れ?」


 俺がバルコニーに出て外の空気を吸いがてら休憩していると、アイシャが声を掛けてきた。気が付けばもう太陽は眠りにつき、代わりにまん丸お月様が、王都を照らしている。


「こんなにたくさんの人と喋ったのなんて初めてだよ、しかも全員初対面の貴族様。社交界って大変なんだね」


 肘を柵にかけて脚に体重を乗せないように休んでいるのも、鍛えているはずの脚がいつもより疲労がたまっている気がするからだ。


「まぁ社交界デビューなんてこんなもんよ。私の時はもっと多かったし、そこは第二王子殿下の配慮じゃない?」


「あれで少ないのかぁ。そういえばソーニャは実質これが社交界デビューみたいになっちゃたんじゃないか? よかったのか?」


 俺の横で、俺と一緒に星空を眺めていたソーニャに訪ねると、少し馬鹿な子を見るような優しい目で見られた。 どして?


「良かったも何も、もともとこんな機会は無いはずだった。ランディが王都に来るって聞いたから少し無理を言って、ここに立たせてもらってるに過ぎない。私はまだ実績も何もない、ただのランディの婚約者」


“ピキリ”


 あ、誰かがピキッた音がした。音の出どころは俺を挟んでソーニャの反対側、もちろんアイシャその人だ。


 ま、まずい話題になった。


「そろそろ、お、俺は戻るね。いやほら、俺って今日の主役じゃん? 長いこと席を空けるなんて非常識なこと出来ないからさ?」


「ちょっと待ちなさいよ!」

「ランディも否定しないという事は、認めているということ。つまりはそういう事」


「もうとっくに非常識な行動してるじゃない! 今更よ!」


 後ろでアイシャがワーワーと喚いているが、ソーニャの羽交い絞めにより、身動きが取れずにいる。ナイスアシスト。




 広間に戻ると、先ほどまで俺に挨拶をして来た貴族の子供とその親は何人かで塊りを作っている。うーん、これが勢力図と言うやつなのだろうか。ハバールダ辺境伯のところは少数ながらも、やたら厳ついおっちゃんたちで構成されている。


 若かりし頃からの戦友と言うやつだろうか。軒並み覇気がビンビンだ。


 さて、もう俺の仕事も終えたことだし、二度と社交界にお呼ばれするつもりもないので、飯を全品食べつくそうと思う。せっかくなんでね。食べすぎとか陰口されてももう会わないような人がほとんどだろうし。


 盛り付け、盛り付け♪ う~ん、良い匂い、このお皿に乗った料理の数々、これが宝箱。俺のフルコースにしよう。名前はそうだな‥‥‥社交界の全部乗せと書いて、ジュエルミミック。宝石の詰まった宝箱。良いんじゃなかろうか。


 さて、人目に付かないように隅っこのテーブルを確保して、頂きまーす!


 俺がフォークで料理を刺そうとしたとき、バタンと扉が開いた。


 思わず手を止めてしまった。近衛風の格好をした男が、早歩きで額に汗を浮かべながら、第二王子に近づいていったからだ。


 はっ、いかんいかん。ここで手を止めるなんて危ない。自覚しているこの巻き込まれ体質の経験上、いついかなる状況でも食えると気に食っとかないと後悔する。


 俺はその男を横目に食べる手を進めた。うめぇうめぇ。


 様々な料理に舌鼓を打っていると、男から話を聞き終えた第二王子が席を立って、歩き始めた。ん? なんか目が合った? 心なしかこちらに向かっているような気がする。あ、これはこっち来てますわ。


「ど、どうしたんですか? は、あ、あげませんよ?」

「違う、そうじゃない」


 分かってますよ。でも絶対厄介ごとですもん。別の可能性に縋ったっていいじゃないですか。



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