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限界~王都滞在編ⅩⅣ~

「さて、あまり主役の時間を私が独占してもよろしくないだろう。色々な人との交流は後々ランディのタメになると思うから、是非人脈作りに勤しんでくれ」


「殿下と話しているのも楽しいし、私としては新しい人より年の近い殿下の方が気が楽でいいんですけどね。そうもいっていられない様なので、これで失礼します」


「ククク、お前くらいだよ。そんなことを言うのは。ではな、親友よ」


 いつの間にか親友にランクアップしていたようだ。どこでポイントを稼いだのだろうか。


「失礼します」

「失礼します」


 俺とソーニャが退散すると、待っていましたとばかりに周囲の大人たちが自分の子供の背中を押して、俺との交流を図ろうとしている。


 まるで肉食獣の群れに放り込まれた草食動物の気分だ。そんなにガツガツ来られても逆に引いちゃうよ。なんて言うんだっけ、蛙化現象だっけ? 


 なんて上の空でいると、既に一歩目を踏み出す者が多数。


「‥‥‥」

「ランディ?」


 おれの様子に異変を察したのか、ソーニャが肘で俺の脇腹をつついた。


「‥‥‥すまん、ソーニャ、しばらくの間、この場を頼んだ!」


 俺は一目散に駆けだした。目指すは扉のその先、この部屋を出て右に曲がる。


 扉を超えてドラフトを効かせるように曲がるその際に、「ランディ!」と叫びながら手を伸ばしているソーニャが見えた。周りの人たちも皆がみな、こちらを見て、何事だと目を大きくしている。


「‥‥‥ずっと、限界だったんだ」




「ふぅ、やっぱり小便は最高に気持ちが良いな」


 そう、俺は緊張で感じていなかったが、膀胱が限界を迎えていたのだ。第二王子と話すことで少しリラックスしたせいか、急激に尿意を知覚した。あそこで他の人たちに話しかけられて、少しでもトイレに向かうのが遅れていたら大惨事だっただろう。


 それにしても気持ち良すぎるだろう。我慢した後の排泄は最高だぜ。どれくらい気持ちが良いかと言うと、この先一生トイレをしなくて済む薬があったとして、もちろん副作用も無し。俺はその薬は飲まないね!


 いかんいかん、この後会場に戻るのが不安過ぎて、ついハイテンションで乗り切ろうとしてしまった。どうせ未来が変わるわけではないのに。


 ど~しよ~。ソーニャが上手く捌いてくれてるかな~。いや、ないなぁ。仕方ない、奇異の目で見られることを甘んじて受け入れましょう。


 あ、もう部屋の前に付いちゃった。行きはあんなに遠く感じたのに。


 すうっと息を吸って、覚悟を決めると一思いに扉を開けた。


“バタンッ”


 思いのほか大きい音が鳴ってしまった。ゆっくり開ければよかった。まずい、全部のことが裏目に出ている気がする。


 俺は周囲の目なども目もくれす、ソーニャの元へ歩み寄る。


「すまん、限界だった。許してほしい」

「何処に行ったのかと思った。‥‥‥顔を見ればなんとなく分かったから、行ってくれた方が助かった。私まで変な目で見られたくない」


 俺がどこか凛々しい顔で帰って来たことで全てを察してくれたようだ。話が早くて大変助かります。って、ん? てことは、俺だけ変な目で見られてるってことなのかな?


 今ならどんな人でも話しかけてくれて構わないというのに、誰も近寄らないのはそのせいか。


 で、あるならば、俺は飯を喰う!!


「ソーニャ、一緒にご飯を見て回ろう」


 そうと決まれば、俺はソーニャに取り皿を持たせ、俺と合わせて二人分の皿に、料理を盛り付けて周る。


 このお肉も美味しそうだし~、あ、こっちの魚のムニエルも美味しそう。この山菜は見たことないな、味見味見っと。あ、このデザートはソーニャのお皿に取り付けておくね。


「はい、そこまで」


 ぐ、何奴! 俺の至福の時間を邪魔する奴は‥‥‥ってアイシャか。どうしたの?


「急に部屋を飛び出して帰って来たと思ったら、今度は脇目もふらずに料理に一直線だなんて、非常識すぎるわよ!」


「飛び出したのは訳があったし、今は誰にも話しかけられないんだよ。不思議と」


「不思議とじゃないわよ! ランディが戻ってきてから、勇気を出して話しかけようとした子たちがいたのに、それよりも早くランディが動き出しちゃったから! あと一秒待ちなさいよ!」


 そ、そんなに待ってなかったかなぁ。俺としてはちゃんと確認したと思ったのに。


「仕方ないわね! 本当は、伯爵位であるウチはもう少し後なんだけど、私がきっかけになってあげるしかないじゃない!」


 こういう時に、社交界デビューを果たしているアイシャは頼りになる。ありがたや、ありがたや。


「で、俺と話してるだけでいいの?」


「そうよ! 誰かが話しかければ、次の人が話しかけ易くなるでしょ‥‥‥って、ランディ! 食べる手を止めなさい! なんで速くなってるの!?」


 だって、次の人が来るんでしょ? その前に食べきらないと。冷めちゃったら勿体ないもんね。


 俺はソーニャとアイシャを盾にして人目を憚って皿の上のものを胃袋に詰め込んだ。


 ふぅ、ご馳走様。まだまだ食い足りないけど、一旦ストップしよう。あ、あっちのも美味しそう、後で獲りに行こう。じゅるり。

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