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ランデオルス式~王都滞在編ⅩⅢ~

 俺とアイシャのダンスは一回目のソーニャの時より大きな拍手が鳴った。


「ランディ‥‥‥」

「ん? どうした?」


 アイシャがはぁはぁと息を整えながら俺の裾を掴んで、俺のことを呼ぶ。顔が紅潮してるのは思いの他アップテンポになったからだろうか。


 俺も息を整えつつ、額の汗を拭い、アイシャに向き直る。


「私、今日のこと一生忘れない。‥‥‥ううん、忘れられないと思う」

「‥‥‥そうか」


 なんだか、エモい雰囲気になってしまった。アイシャもどことなく上の空だが、結果的にはあのアクシデントのお陰で、良いダンスになったのだ。良かった良かった。


 一息ついていると次の曲が流れるが、今回はダンスでは無く、休憩のためのBGMのようだ。このまま続けてても流石に俺の体力に余裕がなくなるので助かった。


 アイシャは余韻に浸っているようだし、俺もそんな空気に当てられて、心地の良い疲労感を感じていた。


 俺たちがそんな雰囲気になっていると、ハバールダ辺境伯、アイシャのお父様がずんずんと俺の方に近づいてきた。なんだなんだ?


「礼を言わなければなるまい。娘が公の場で恥を掻くところだった。それをゼロにするどころかプラスにして見せた。伯爵位をもつ者として、一人の父親として礼を言う。ランデオルス、ありがとう」


 う、おう。なんか久しぶりに名前を呼ばれた気がする。どうも背中がむず痒い。もう少し人に褒められたり、感謝される様に生きた方がいいのかもしれない。間違った生き方はしてないと思うんだけどね。


「いえいえ、僕にとっても素敵な時間になりましたので、こちらこそお礼を言いたいぐらいです」


「ふん、小僧め」


 言葉こそ強いが、辺境伯の表情はどこか嬉しそうだ。それ以上何も言わずに去っていく後ろ姿は少しだけ格好よく見えた。まぁ好印象という事でいいだろう。で、そんなことより!!


 休憩時間イコール飯を食う時間。さっきから踊ってる途中でいい匂いがするし、踊ってないやつが俺の狙っていた料理をバクバク食ってやがった。もうあと少ししか残っていないのだ。早く獲物を確保しに行かなければ! 


 喰える飯はなにがなんでも喰らいつく。これククルカ島男児の教訓な。


 く、まずは効率的な導線を考えろ! 胃袋は熱く、頭は冷たく。ここは貴族の場、上裸になって皿に料理を山盛り盛り付けてたらふく喰うなんて野蛮人もといククルカ島の作法はしてはいけない。


 よって、作戦その一、何周もする。影を薄くして周回すれば結果的にたくさん食えるという寸法だ。ふぅ、今日も俺の頭は冴えてるな。よし、作戦決行。


「ランディ?」

「ひぃっ!?」


 一歩目を踏み出そうとしたところで、背後から声を掛けられた。思わず躓きそうになったのを耐えて、後ろを確認すると、ソーニャとアイシャがいた。


 驚かさないでくれ。それにしてもよく影を薄くしていた俺を見つけれたな。


「ど、どうかした?」


「いや、うん。本日の主役がぶつぶつと目立つように独り言してたから。さっきから他の子たちも喋りかけるタイミング見計らってるのに、全然気づかないし。それにまだ第二王子に挨拶も行ってない」


 Be Coooooool !!! 俺のバカ! 落ち着け、頭は冷たくって言ったばかりなのに。よくよく考えたら本日の主役はどうあがいても、目立つし、第二王子への挨拶を忘れるなんて、恐るべし食の誘惑。


「そうか、そうか。よし、早く行こう、サクッと終わらせよう」


「第二王子殿下への挨拶を『サクッと終わらせよう』ってあんた、人が違えば不敬だと思われても仕方ないわよ?」

「‥‥‥私には分かる。これは食欲に負けている状態」


 負けてないもん。ただ人間の身体は胃袋の不随品なだけ。胃袋を囲うように骨と肉があるだけなんだ。胃袋が本体。


 というわけで、高座で豪華な椅子に腰かけている第二王子殿下への挨拶の列に並ぶ。俺の前に並んでいるのは、貴族の大人の方たちだけ。俺はその最後尾というわけだ。


 ちなみに他の子たちは、自分の親と一緒に今並んでいるか、もしくは俺がダンスを踊っている間に親と一緒に行ったかしている。


 つまり、俺が一番最後なわけだ。


 そうして、他の全ての人の挨拶が終わり、俺の番となった。


 ちなみに俺の同伴者はソーニャだ。実はソーニャもまだ挨拶していない。後ろ盾を持っていないと思われてしまうかもしれないが、この場合ソーニャの後ろ盾が俺になるんだとか。


 一応、正式にお呼ばれしてる立場だと一人前として見做すとかいう暗黙の了解らしい。



「見事なものだったな。あのようなダンスは初めて見たぞ。今度俺も真似してみようと思う。社交界の新しい流行りになるぞ」


「あはは、そうですかねぇ。流行ったら嬉しいですけどね。先駆者みたいな感じで」


 俺からの挨拶もままならないうちに、第二王子の舌が回る回る。

 勢いに圧倒されて、頷くことしか出来ない。


「あぁ、勿論だ。絶対に流行らせてみせるぞ。まずはランディと同じくらいに魔法に長けた人物を探さないとな。あぁ! なんという事だ。名前を付けなくては。ここはひとまず仮にランデオルス式とおいておくか‥‥‥」


 あーあ、自分の世界に入っちゃった。まぁ、こういう小さいのでスキルの解放しといてください、こういう小さいのであれば、全然大丈夫なんで。


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