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うやむや~王都滞在編Ⅺ~

 俺が決意を固めている間にも、二人の口論は熱を増してく。


「私は親公認。0歳児からの付き合い」

「むむむ、でもランディは一島民で終えるべきではないわ! その才能を支えられる家に入るべきよ!」

「それを言うならククルカ島こそが至高。そしてその長である私の家が一番」

「ハバールダは海竜育成に力を入れていくことにしたのよ! これからだわ! なんなら柔軟性があると言っても過言ではないわ! ランディのしたいことを一番してあげられるわ!」


 俺のしたいことか‥‥‥。海竜たちと戯れながら毎日をゆっくりと過ごしたいなぁ。仕事とか責任とかなしで。


 なんて現実逃避をする暇もないらしい。辺境伯が自らの顎髭を撫でてなにか思案しているようだ。面倒なことを言う前に終わらせよう。次第に注目も集まりだしているし。


「落ち着いてよ、喧嘩するような場じゃないでしょう。ここは僕の――」


「確かに、それもそうね」

「ランディに決めてもらうのが早い。どっちと結婚するのか」


 へんぬっぅぅ。思わず下唇が割けそうなほど力強く噛んでしまった。辺境伯が何も言わずに静観してるのが一番怖いんだよ。


「そ、それはね。おいおいというか、まだ考えてなかったから分からないというか」


「‥‥‥」

「ぶぅ」


 なんだよその視線は。し、仕方ないだろ? だってまだ11歳だもの。でも心は大人なわけだから、子供らしく「どっちも!」とか返答するわけにはいかないんだって。それが許される場でもないし。


 うっかりどちらかを決めるような発言があれば、それが公式意見として採用されてしまいかねない場所なんだぞ、ここは。


「あのね。これは俺だけじゃなくて、二人にとっても、とても大事なことなんだよ? だからそんな簡単に答えは出せないし、出しても行けない気がするんだ。僕にはその覚悟と責任がない。‥‥‥その二つをちゃんと持てる年齢になったとき、答えを出すっていうのはどうかな?」


「まぁ、そういうことなら」

「分かったわよ! つまり成人するときにってことね! 」


 あまり褒められたことではないが、問題の先送りでこの場を切り抜けようとしたら、期限を設けられてしまった。頑張れ、未来の俺。




 …

 ‥‥‥

 …‥‥‥‥‥


 ふぅ、なんとかうまく収まってよかった。と言ってもだいぶ注目を集めてしまったようで、先ほどから奇異の視線を感じているためか、居心地が悪い。


 ソーニャの手を引き、離脱をして近くにあったドリンクを片手に一息つく。


 まったく、普段は大人しいと思っていたのに、意外と頑固なところがあるんだよな、ソーニャは。逆にアイシャは裏表がないと言えば聞こえはいいが、猪突猛進が過ぎるきらいがあるな。


 別にそれが悪いとも、嫌いだとも思っていない。むしろ人間味があって可愛らしいとも思ってる。


 それに自分がまきこまれなければもっといいんだけどなぁ。二人を横目で確認すると、ソーニャは俺の隣でなんかもじもじしてるし、アイシャはどこかムスッとして不機嫌だ。これをどうにかするのも俺の仕事ですか?



 なんてことを考えていると、扉の向こう側から声がする。


「第二王子殿下、入場です!!」


 お。いよいよパーティーが始まるらしい。えっと、第二王子の挨拶の後、演奏隊による音楽が流れだしたらダンス開始の合図だよな。んで、一通り踊り終えたら、部屋の隅っこでご飯でも食べながら大人しくして、挨拶に来てくれた人の対応っと。オーケー、オーケー。予習は完璧だ。


 扉が開き、堂々たる風貌でコツコツと足音を立てながら第二王子とその従者が入場した。


 高座の椅子の前にたどり着くと、マントをバッっと翻しながら広間の方に向き直り声高々に始まりを告げた。


「これより、パーティーを始める。今宵の主役は我が命の恩人ランデオルスだ。皆も周知のこととは思うが、改めてその勇敢なる少年に拍手を」


 貴族の大人たちが一様にこちらを向いて拍手する。ちょっと照れ臭いが、褒められ慣れていないので少し恥ずかしい。しかし、ここで猫背になってはいけないので、胸を張って堂々とその賛辞を受け入れる。


 貴族の子供たちは良く分かっていないようで、なんとなく拍手するのが半分、なんであいつがと嫌々拍手するのが半分、手が壊れそうなくらい拍手しているのが一名。


「皆も今日ここにおり、生きていることに感謝して、これからも国のために力を貸してほしい。だが今夜だけは肩の力を抜いて、パーティーを楽しんでいってくれ。私からは以上だ」


 俺の時とは違って、全員が揃ってこれでもかと拍手の音が鳴り響く。


 次第に音が静まると、入れ替わる様に配置についている楽団の指揮者が、高く上げた両手を下に振りおろした。


“ジャーン”


 弦楽器や金管楽器、ドラムの音が一斉に広間に響き渡り、あっという間に空気を軽くする。部屋の中が少し明るくなったような錯覚さえ覚えた。


「さて、僕たちも踊ろうか」

「うん!」


 俺はソーニャをつれて広間の中央に立つと、片膝をついた。


「レディ、僕と踊ってくれませんか?」

「はい、喜んで」


 ソーニャの手を取りながら立ち、静かに一歩踏み出した。


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