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俺たちのリズムで~王都滞在編Ⅷ~

「じゃあ、俺とソーニャが婚約者と言うのは思い込みじゃなくて、本当に婚約者だったんだ」




「そう、学園を卒業したらいつまでも一緒」




 改めてそう言われるとなんだか圧を感じてしまうが、嬉しいような怖いような。ひとまず非童貞が確定したことを喜んでおこう。




 やったね。でも浮気でもしようものなら後ろからグサッ☆だね。






「さて、本題に話を戻すけど、今日のダンスパートナーがソーニャなんだよね。本番前に一回だけ練習しておかない?」




「うん、私何回でもランディと踊りたい」





 そうと決まれば、行動は早く、部屋の机を端にに移動させて、ぶつからないように空間を作ると、二人は向かい合いお互いに目を合わせた。




「レディ、僕と踊ってくれませんか?」


「はい、喜んで」




 ソーニャの手を取り、自分の身体の方へ引き寄せる。




 音楽こそ演奏もないし、レコードの様な録音機もないので、無音の中で踊る。




 足を滑らせ、手を伸ばし、衣擦れの音、靴が床を叩く音が部屋の中に響く。しばらく見つめ合って踊っていると、不意にソーニャが口を開く。




「ちゃんと踊れてるのすごい。ノミリヤ学園ではダンスの授業は無いと思ってた」




「ダンスの授業は無かったよ。もしかしたら一年二年三年のどこかで会ったのかもしれないけど、俺は受けてないね」




「‥‥‥? じゃあどこで習ったの?」




「今回のために、ハバールダ辺境伯の近衛さんが教えてくれたんだ。恥を掻かないようにね」




「そんな忙しそうな人が? 珍しいこともあるんだね」




「あぁ、それは‥‥‥なんでだろうね?」




 アイシャのお供として一緒にやって来たという事をなぜか隠してしまった。別に隠すことでもないんだけど、どことなく後ろめたく感じてしまった。




「何か隠した?」




 勘の良すぎるガキは嫌いだよ。




「隠してない、隠してない。さぁテンポアップするよ」




 俺はソーニャが余計なことを考えないように、普段こういう場での社交ダンスの様なテンポより、身に沁みついているリズムでリードする。




 まるでお互いの頭の中に共通の曲が流れているかのように、俺にピタリと合わせて踊るソーニャ。さすがだね。




 どことなくダンスも流れるような振りつけから、雄々しく力強い振り付けに替わっていく。




 もはや、習ったものとは別物で、よくトロンに怒られて矯正したものだったが、その時とは違い、慣れ親しんだようにパートナーの足を踏んでしまうこともなく、二人の世界で踊り続けた。




 周りの従者たちは、見たこともないリズムでのダンス進行に目を奪われていた。彼らが幻聴した笛と太鼓の音色は一体何だったのだろうか。その答えはついには見つからなかった。







「ふぅ、少し体が火照ってしまったね。思わず興が乗っちゃった、ソーニャは大丈夫? 疲れてない?」




「うん、なんだかいつもと違って楽しかった。ランディは意外にリードの才能もあるのかも。なんだか凄く踊りやすかったもの」




 俺たちは机をもとに戻してもらい、少し冷えたお茶を貰い、体の熱を冷ましつつ休憩をとっていると、そろそろ立食会兼ダンスパーティーが始まる時間が迫っていた。




「じゃあそろそろ戻って準備をしてくるよ。長い時間邪魔しちゃってごめんね」


「ううん、ランディだったらいつでも歓迎する。またはなそ」




 軽く手を振り別れを済ませると、そのまま部屋に戻り、礼服からダンス用のヒラヒラとした服に着替える。




 着てみてもやはりなんだかスースーとして居心地が悪い。やたらボディラインが出るし、何だったら透けてるんじゃないだろうか。おじさんはこういうの恥ずかしいよ。




 じーっと最後のあがきで案内人の方に訴えるも、ニコニコと早く着替えるように促すだけで、俺の主張はヒラリと躱されてしまった。まさに暖簾に腕押し、糠に釘、海竜に躾ですな。






 謁見の間とはまた趣向の違った大きな扉を開けると、大きな広間に中央を開けて囲うようにシーツを被された丸テーブルが点在し、その上には所狭しと美味しそうな料理の数々が乗っている。




 花より団子とばかりに料理に気を取られていたが、その部屋の中にはもう既に貴族の方々や、そのご子息、ご息女も来ており、俺のことをチラチラと見ている。これは挨拶されたりするやつじゃないすか。




 いきなり知らない人に挨拶されても対応に困るが、挨拶されないのも腫物な気がしてちょっと嫌だ。気心の知れた人を探すために、辺りを見渡すもソーニャは見つからない。ってことはまだ来ていないのか。‥‥‥あ!!




 知り合い発見。




 俺はその人に近づいていき、頭を下げる。




「ハバールダ辺境伯。ご無沙汰しております。ククルカ島のランデオルスです。その節はどうもお世話になりました。また今回も寛大なお心遣い大変うれしく思います」




「久しいな。元気なようで何よりだ。それにお前を援助したことで第二王子殿下の命を救うことが出来た。俺としても鼻が高いわ。カハハハハ」




 まるで悪役の様な豪快な笑いをする辺境伯。ただでさえ怖い顔がさらに彫りが深くなって怖くなってます。




「ランディ! 私もいるわよ!」




 辺境伯の後ろからひょこっと顔を覗かせて現れたのはアイシャだった。ふふふ、人見知りでもして隠れてたんでしょうな。ウケます。あ、そういえば、耳飾りのこと。絶対に話題に出さないでね。




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