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あなたはだんだん~王都滞在編Ⅶ~

 貴族の男どもから告白されているらしいソーニャ。しかし、上から目線だという理由で断っているらしい。


 それって大丈夫なのか? 「恥をかかされた!」とか言って逆上するバカ貴族のボンボンがいても不思議じゃない。

 今こうやって顔を合わせているから問題は無いのかもしれないが、いつソーニャが相手の地雷を踏みぬくか気が気でない。


「ソーニャは普段どうやって断ってるの? 相手を怒らせるような振り方をしてないよね?」


「それはもちろん。ちゃんと全員に納得してもらってるよ」


 全員が納得? それはそれであり得るのだろうか。気になっている子に告白して、納得して振られる?


「ちなみに、なんて言って断ってるの?」


「私の婚約者のランディを超えててから出直してきてって‥‥‥」


「ストップ」


 思わず眉間に出来た皴を指でほぐしながら、ソーニャに待ったをかける。


 まず一つ、「出直して来て」というのは言葉の綾だろうか。流石にその言葉遣いをそのまま口から送り出してるとは思いたくない。


 二つ、俺の名前がひょっこり出ていること。無駄に俺を目の敵にする人が多くなっていたりしないだろうか。俺を超えるって具体的に何をだ? 調教師として? 今からだったら百%追い越されない自信があるからいいけど、それで貴族のご子息たちが納得するわけない。他のことだった場合、すでに負けている可能性もあり得る。


 三つ、俺たち婚約してたの? 初耳なのですが、一体いつ婚約が成立してたのでしょうか。


 一つ一つ確認していこう。


「ちょっと確認したいことが何点かあるんだけど、いいかな?」

「うん、どんとこい」


 胸に拳をトンと当てる自信満々のソーニャには悪いが、悪い予感がビンビンとしている。


「流石に言葉遣いはそのままじゃないよね。学院で王城に来れるくらいまで上り詰めてきたんだもんね。流石にね」


「当たり前だよ。そこまで考え無しじゃない。ランディの妻として、ランディが侮られるようなことは一切しないよ」


 う、うん。そうなんだ。一旦今の言葉置いておいて。ちゃんと確認するからね。


「じゃあ、俺を超えるっていうのは、具体的になんでしょうか。俺と貴族では周りと競うべき点が違うと思うのですが、一体俺のことをどんな風に説明してらっしゃるのですかね?」


 思わず敬語になってしまった俺の言葉遣いに、ソーニャはふふふと笑っている。少し恥ずかしくなった俺はポリポリと頭を掻きながら、ソーニャに答えるように促す。


「要はランディの凄い所をいえばいいってこと? 」

「そういう言い方をされると恥ずかしいんだけど。まぁ、そういうこと? なのかな?」


 するとソーニャは一息、大きく空気を吸い込んで肺に溜めてから喋りだした。


「まずは、当たり前なんだけど調教師としての圧倒的な才覚だよね。島の他の調教師でもできなかったことをやってのけたことでしょ? 海竜に好かれるその人格も好き。こんな小さい時から魔法の練習も欠かしてなくて、魔力量のハンデがあってもそれにめげずに練習と工夫で、危機的状況を突破してきたことは言うまでもないよね。五歳の時に無人島で遭難しても、ちゃんと帰ってきてくれる雄としての魅力は他の人にないし、そもそも海中の魔物を単独で倒せるってこの世界に何人いるのって話。でもそんな力強い所だけじゃないのランディは。フォルちゃんと喧嘩しっぱなしで行っちゃったけど、それはフォルちゃんを思ってのことは皆知ってるからね。厳しくても、自分が悲しい思いをしても、その人のためになることをしてあげる優しさがランディの根幹にあるの。自己犠牲って言葉はそれほど好きではないのだけれど、ランディのは芯があっての他人への思いやりなのよね。人として尊敬できる部分と、人類として尊敬できる部分の両方があるから、私はランディが好きなの。それにランディが初恋の人で良かったってずっと思わせてくれるところは、もう他の人からしたら不可侵領域よね。だから安心してね。私が他の人を好きになることは絶対ないから」





 ‥‥‥そんなキャラでしたっけ?


 こわいよぉ。なんでそんなに目が座ってるんですかぁ。瞳の光は何処に置いてきたんですかね。


 ヒナスさんに視線だけで確認を取る。


 コノ ソーニャ ハ セイジョウ カ。


 俺の質問にヒナスさんが返してくれる。


「あまりに多くのご子息の方々に告白されてきてしまったせいで、何十回何百回と理由を考える羽目になり、その度にランデオルス様のことを再認識する形となり、今に至ります」


「声に出しちゃったよ。俺が視線で尋ねた意味わい」


 つまり、自己暗示みたいな状況になってしまっているという事でOK? てことは、俺が婚約者であるという事も、自分で補完した記憶という事になるのか? 俺そんな話聞いたこともないし。


「あぁ、ちなみに婚約者っていうのはね、ランディのお父さんお母さんから了承を得てるからね。正式に私たちは結婚できるんだよ」


「言ってなかったけど」と付け加えたソーニャの発言に俺は思わず固まってしまった。い、いつの間にそんなことが決まってたんや。


 悪いことじゃなんだろうな。生涯の伴侶が、しかもこんなに美人の奥さんだ。しかも島の有力者で、学院のエリート。


 悪いことじゃないよな? 光の消えた瞳を見つめて、俺も自己暗示が使えないかなぁなどと考えていた。


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