おほほほ、そんな眉を八の字にして眉間に皴をを寄せてたら、美人な顔が台無しですよ。だからすみません。そんな目で見ないでください。
というのは心の中にしまっておいて、顔面だけは爽やかスマイルを維持しておく。
「もう一度、挨拶をお聞きしてもよろしいですか?」
まずい、これギャルゲーで言うところの選択肢が現れるシーンだ。しかし何故だ! ギャルゲーの神よ! 今こそ選択肢を俺に見せてくれ! せめて三択なら俺は当てられる自信があるんだ!
「え、えーっと‥‥‥」
「どうか、なさいましたか?」
言葉にだいぶ圧がある。肩が重く感じてしまうほどに。考えろ、何を間違えた。
俺は自身が口に出した言葉を思い返す。
“あの‥‥‥あ、初めまして、ランデオルスと申します。本日はダンスのパートナーになっていただきありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。精一杯踊らせていただきます”
何も問題ないように思える。しかし、お辞儀の仕方や、入室までの動作、身なりについては完璧のはず。なぜならレッスンでしこたま鍛えられたし、身なりについては、俺に付いてくれている案内人の人が何も言ってこなかった。
だから、だから俺の発言に問題があるはずなんだ。
ダンスパートナーが嫌だったとか? それなら、そもそも入室した段階で嫌そうにするはずだ。
他には‥‥‥他には‥‥‥、なんじゃろか。この間既に8秒、思考加速なんてなかった。そしてずっと目が合ってる。
お互いに笑顔のまま見つめ合っている。二人の細くなった目の隙間から瞳の奥が見える。俺は瞳にか弱い灯を浮かべ、彼女は極寒の吹雪を映している。
こんな火で彼女の冷えた心を溶かすことは出来るのだろうか。あるのか? 会心の一手が。
「もしかして、本当に、分からない?」
「冗談だよ。分かってるさ」
喰らえ、異世界転生メタ読み発動!! まさかそんなことがあるなんて! とんでも発言だ!
「久しぶりだね」
どうだ!? こい、こいこい。319分の1、来い!!!!!
突拍子もない俺の発言に、彼女は固まっている。どっちだ、当たりのフリーズか。はたまたハズレのフリーズか。
「うん、久しぶりだねランディ」
そう言って、美人の女の子が俺に抱き着いてきた。
キタ―――――――!!! うおおおおおおおお!! 右撃ちだああああああああ!!!
俺もそのままハグを返し、背中を撫でてやる。
‥‥‥で、誰なんだ? 勝負はここから。どうにかして一体彼女が誰なのかを見極める必要がある。
こんな儚げな女の子を俺は知らない。でも俺のことをランディと呼ぶという事は、それなりに親しい間柄だぞ? つまり、俺の少ない交友関係の中で絞込検索をするとなると、一人しかいないのだが、こんなところにいるはずがない。
一応共通点として、茶髪。見ようによっては顔つきも、それとなく似ている気がする。
でも雰囲気が違う気がする。
仕方がない。これは俺の得意なものを利用して確認するしかない。
未だに俺の胸に顔をうずめている女の子の頭頂部に失礼して。
クンクン。
この匂いは! 俺の人一倍鋭い嗅覚が目の前の人物を特定した。
ソーニャなのか!? 一体何があったんだ。こんなにも髪も伸ばして。はぇ~、美人さんになったもんだねぇ。
俺の寝ていた三年間で、ソーニャに一体何があったのだろうか。身体的特徴ももちろんそうだが、なんで王城に居て、俺のダンスパートナーになっているのだろうか。
「ソーニャ、俺も会えて嬉しいよ」
「本当に、無事でよかった。ランディが初めていなくなったときもそうだった。今回も私の知らないところで居なくなっちゃうんじゃないかって」
彼女が顔をうずめている俺の胸が少しだけ、湿気と冷たさを感じる。
本当に久しぶりだな。俺が病院でリハビリしている最中も両親からソーニャのことは耳にしてはいたのだけれど、ククルカ島から少し離れた本土の方の学校で頑張ってるという、なんともほんわかとした抽象的なことしか聞いていなかった。
「うん、もう勝手にいなくならないよ。俺もそう簡単に死にたくないしね」
ソーニャの頬を両手で挟むと、無理やり、俺と視線を合わせるように顔をこちらに向けた。案の定、目には涙を蓄えている。
そのままぐりぐりしてやると「う~」と唸りながらもされるがままにされている。
プフフとソーニャの変な顔に思わず吹き出して、しまったところで従者の方々から「ほどほどに」というお叱りを受けてしまった。
とりあえず、落ち着いたところで、急に恥ずかしくなってしまい、俺たち二人は顔を逸らし、いそいそとテーブルの席に着いた。
「そ、それにしてもなんでここにソーニャがいるの? 実はあんまりここ数年のことを聞いてなくてさ」
「おじさんや、おばさんもそういうのにあんまり興味なさそうだもんね。‥‥‥実はわたしね、今王都の学校に通ってるの。王立中央学院に」
「そうだったのか」
どこやねん。