目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
あなたは~王都滞在編Ⅳ~

 ハバールダ領主公認ってことですか? いや待て! 落ち着くんだランデオルス。神童と謳われたその頭脳を今こそ開放するのだ。


 考えてみれば、誰々が好きだからプレゼントを贈るためのお小遣いが欲しい。なんてことを年頃の女の子が父親に言うだろうか。いや、否!! つまり領主様は俺にプレゼントしたことを知らない! ということは公認ではない!! てことはバレたらとんでもないお怒りを買う恐れがある!


 ‥‥‥何この選択。トロッコ問題? いやトロッコ問題ではないんだけどさ。辺境とはいえ、伯爵の娘に見初められている状態なんて、普通だったら迷う余地なく、結婚したいと思うだろう。それにアイシャは美人だし。


 欠点なんて一つもない。


 無いのだが、それは俺の理想とするスローライフから大きく外れてしまうのだ。

 言ったら自営業みたいなものでしょ? ただのサラリーマンでさえ自分の時間を見つけられなくて死んだのに、やりたくもない自治領の管理など、手伝いでもしたくない。


 頭をうんうんと唸らせていると、第二王子が自愛の籠った温かい目をこちらに向けてきた。


「ランディ、一つ助言をしてやろう」


 なんだろうかと身を乗り出して、聞く体勢を整えると、第二王子は目を細めて薄ら笑いを浮かべた。


「どうにもならんことはどうにもならん。流れに身を任せてみろ。それが幸せだと思える日が来るから」


 こっわ。細くなった瞳の奥に全然光が無いんですけど。余命宣告されたかと思った。


 第二王子のやたら実感の籠った言葉が体に纏わりつく。日本の夏の如き蒸し暑さを感じて、気分はよろしくない。


「クックック」


 俺の反応を見た第二王子が声を噛み殺して笑いだした。


「いやすまん、すまん。少し脅しすぎたな。安心してくれ。実際本当にそう悪くはならんだろう。それに最終決定権は自分自身だ。それさえ間違えなければその他など小さいことよ」


 そういうもんかね。仮に、アイシャと結ばれたとして想像してみる。その舞台がククルカとで調教師として一緒に暮らしているとしたら、それは幸せな光景だろう。


 穏やかな日常、少しのハプニング。そのままおじいちゃんおばあちゃんになっても仲睦まじく。そんな光景を思い浮かべる。


 悪くない。‥‥‥まぁ、全部都合よく上手くいった場合の世界線なのだけれど。


 俺がそうはならないだろうなと思う理由は、他にもあるし。


 ふと、肌を健康的に焼いた俺の後ろを付いてくる女の子の影を思いだした。


「まぁ、なんだ。脅かしすぎたお詫びと言ってはあれだが、俺のとっておきのお茶菓子を出してやろう。王国の北の大地の名産品だ。そっちではあまり見かけないだろう」


 そういって出されたお茶菓子を頬張り、二人の会話はもう少し続いた。




 あー疲れた、ベッドにダイブ! が出来ないのが、お高い衣装を着ている時の欠点だ。皴になったらいけないからとのこと。


 もし汚してしまったのなら買取になるのだろうかと考えると、怖くて仕方ないのだが、これからもう一人会いに行かなければならないのでまだ脱ぐことは叶わない。


 自分の部屋で外を眺めると、街が一望できる。こんな景色を毎日見ている王城の人たちは何を考えて日々を生活しているのだろうか。


 オレンジ色の屋根で統一された街並み、多くの人が賑わっている大通り、うっすらと見える街を囲うようにして建てられた城壁は地の果てまで繋がってるみたいだ。


「ランデオルス様、相手方の準備が出来たとのことです」


 早いよぉ~。もう少し休憩していたいのに。折角エモい感じで現実逃避していたのだから、もう少し心が落ち着くまで休ませてほしい。


 が、しかし、こちらから会うことを申し出たのに断るなんて無礼な真似はできないので、もう一度姿見で身なりを整え、向かうことにした。




「失礼します。ランデオルスです」


 なんかデジャヴ。とはいえ、先ほどよりは素直な位置にあったので到着したころには既に足が疲れているなんてこともなく。


 しかし、そのせいで心に余裕があるせいか、第二王子の時より緊張してしまっている自分がいる。


「どうぞ」

 中から女性の声が聞こえたので、部屋に入る。


 中には第二王子の時よろしく、中央のテーブルで椅子に腰かける女性が一人。白を基調として青色のアクセントの入ったドレスを身に纏った今にも壊れてしまいそうなほど儚げな美人さんだ。その周りには従者が控えている。


 流石に第二王子の時のようにズラッと並んでいるわけではなく、お付きの人は二人だけだ。


 そんなことを考えていたので、ボーっとしていたようで、名前を呼ばれて気が付くと、今日のダンスパートナーである女性と目が合っていた。


「あの‥‥‥あ、始めまして、ランデオルスと申します。本日はダンスのパートナーになっていただきありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。精一杯踊らせていただきます」


 見よ、この綺麗な九十度のお辞儀を。なんだかここ最近いつも頭を下げてる気がするのは気のせいだろうか。気のせいか、マナーレッスンのし過ぎだな。俺悪いことしてないし。


 ザ優等生の俺が面を上げ、相手の顔をもう一度正面から見た。ついでに少しだけキリっとしておく。美人だったからとかではないぞ。ってあれ?


 なんか、怒ってます?


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?