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震えすぎた脚。~王都滞在編Ⅲ~

「失礼します。ランデオルスです。」


 長い長い廊下をぐるぐるとあっちに行って曲がり、こっちに行って曲がりを繰り返してようやく辿り着いた部屋のドアをノックして、返事を待つ。案内が無ければ二度と戻れないだろう。迷宮か??


「どうぞ」


 許可を得たのでガチャリとドアノブを回す。


「やあやあよく来てくれたな。謁見の間で見たが健勝そうで何よりだ」


 迎え入れてくれた第二王子は座っていた席をたち、近づいてきたかと思うと俺の肩に両手を置き、俺の姿を確認するとバンバンとそのまま肩を叩いた。


 痛いっす。


「殿下もご無事で何よりです。今回の召喚に際して殿下の口添えがあったとお聞き――」


「やめてくれ、其方は命の恩人なのだからな。できる限りの礼を尽くしたいだけだ。本来ならば敬語すらも取っ払ってもらって構わないと私は思うのだがね。御覧の通り」


 後ろに控えるメイドさんやら衛兵やらの目つきが鋭く光った。俺が顔を引きつらせると、第二王子は後ろを見なくてもその反応で分かっているかのように、肩を竦めた。


「流石に王族の方に対して、それも年上の人に対して敬語は外れませんよ」


 不敬罪、ダメ。絶対。


「そうか‥‥‥友達というものに憧れていたのだがな‥‥‥」


 雨の中に捨てられたワンコの如く、わかりやすくしゅんとしている。

 なんやなんや、貴族ってのは友達も簡単にできひんのかいな。ワイが友達になったろうやないかい。と思わないでもないが、流石に敬語は取れない。それにしても


「別に敬語と友達は関係なくないか? あっ! し、失礼しました」


 心の中で思っていたことが言葉に出てしまった。すかさず詫びを入れるも、一度口から出た音は取り消せないようで、第二王子がニヤッと口角をあげると、後ろに控えている従者たちに一言。


「何も聞いていないな?」


 すると従者たちは一糸乱れぬ動きでペコっと軽く頭を下げた。


「よし、して敬語でなくとも友達になれると、ランデオルス、いや、ランディはそう主張するのだな? であるならばいいだろう」


 分からんが、友達が欲しいってことでいいんだよな。たまにお茶会に誘われるとかでいいんだろうか。貴族の友達って何やるんだ? ギブアンドテイクの関係? だとしても俺から与えられるものなんてないからただのヒモになってしまうけども。


「それに、心の内では敬語は取れているようだしな」


 ギクゥ!! な、何も聞いてなかったんじゃないんですかねぇ。


 そんなこと言ったら、せっかく聞こえないふりをしていた従者の人たちが、どんな行動に出るかわかったもんじゃ‥‥‥な、泣いてる?


 よく耳を澄ますと「ついに坊ちゃまにも友達が」と目を潤わしてハンカチを取り出している物までいる。


 ボ、ボッチや。プロのボッチストがいる。恐らくだが、心を許しにくく、周りから一線引かれる王族という立場に、さらに【悪戯ごころ】という神の祝福を受けていることが関係しているのだろう。


 なんとも悲劇だな。


 これで少しだけ付き合い方を考えてもいいかなと思うのは甘いだろうか。俺に被害が及ぶかもしれないという事実を加味しても、長年連れ添って来た従者のこんな姿を見れただけでも関わっていいように思う。


「まぁ、なんだ。今日はただ話をしたかっただけなんだ。ほら椅子に腰かけてくれ。良い茶葉があるんだ。一杯ぐらい付き合っていけ、な?」


 その「な?」はほとんど強制だと思いますが殿下。


 半強制的に飲むことになった紅茶だったが、あまり好きでない俺でも飲みやすく、ほんのりとした甘さが鼻に抜けていく。


「ところで、その耳飾りはどうしたんだ? 以前は付けてなかっただろう」


「あぁ、これですか。知り合いに貰ったんですよ。海竜との繋がりがあるみたいな気がして結構気に入ってます」


 鱗模様の青いピアスを第二王子に見せる。まじまじと耳を見られるとなんだか恥ずかしくなるのはなぜだろう。しかし、恥ずかしいという心情がバレるのもまた恥ずかしいので、殿下が飽きるまで見せつける。


「‥‥‥ふむ、ブルーラマンか。かなり高価なものを貰ったな。その知り合いと言うのは一体誰だ?」


「うぇ、そんなにお高い物だったんですか。貰ったのは、ハバールダ領主のご息女のアイシャ・ネオリッツァ=ハバールダ様です」


 聞いたこともない名前が出てきた。宝石だとして、結構大きいぞこれ。もしかしてとんでもない物を貰っちゃった? 足が震えてきそう。


「ほうほう、其方も隅に置けないな。あっはっは、そうか、貴族の娘に」


「そうですけど、あれですよ? 確かに俺のこと好きなのかなとは思いますけど、若気の至りじゃないんですか? それに貴族と平民です。身分差があるでしょうに」


 アイシャは多分俺のことが好きだ。恋愛経験があるなら分かるだろう。俺も前世では人並みに経験したし。だからこそ思うことがある。身分が違い過ぎるし、それにまだ若いから外の世界を知らないだけだ。貴族なら親が決めるって場合もあるだろうし。


「ふむ、軽い気持ちでそんな高価なものを送るかねぇ?」


「でも彼女は自分のお小遣いで買ったと言っておりました。値段自体はそれほどではないのでしょうか」


「嘘だろう。いいか、このサイズだと王都の一等地に家を建てられるぐらいの値段はする。この国の真南に位置する深海より偶々流れ着いたものがブルーラマンだ。年に100g取れればいいだろう」


 既に足は華麗に小刻みなタップダンスを繰り広げています。


「でででももも、ほほ本当に、うう嘘はつつついてる感じ、しししませんでしたけどねねね」


「大方、ハバールダ領主がお手伝いをしたらお小遣いをあげるとか言って、大金を渡したのだろう。貴族界隈でも有名だからな。彼の娘の溺愛具合は」


 Oh‥‥‥


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