「あい分かった。なるべく早くに使いをだそう。詳細はそこで学園側と協議しながら決定するものとする」
とりあえず褒美の内容を受け入れて貰えてよかった。ダメだったパターンも複数個用意してきたが、杞憂に終わった。ちなみに他は、普通に予算の増大とか漁業権の優遇とかで、俺に還元されるものは一つもないぞ!
「では、ここに調教師ランデオルスの勇敢で忠誠心溢れる行動を称賛し、今一度拍手を」
喝采とはこのことなのだろうか、王様のお言葉なので従わないという選択肢はないのだろうけど。大きな拍手の音の中、退出の合図とともに、入って来た扉から退出し、扉が閉まるまでお辞儀をして、頭を垂れ続けた。
バタンと扉が閉まると、行き路に案内をしてくれてた男性が控えていた。さて、第一関門クリア。次はと‥‥‥。
「これから立食会までの間休憩する部屋をご用意してあります。こちらです」
そう立食会、美味いものが出るのは当たり前なのだが、それを持ってしまっても胃に穴が開きそうな案件が一つ。そう、ダンスがあるのだ。一応アイシャとトロンのお陰で、形にはなったけれど、俺の練習相手はアイシャしかいなかったわけで。
他の人は当然、始めてきた王都でのダンスの相手など見ず知らずの人だし、はたして平民相手にパートナーを務めてくれる相手がいるのかどうか。
本来呼ばれるのが貴族なら事前にダンスのパートナーは決まっているらしく、こんな心配をする必要もないのだが、俺は平民ということで、王城側が用意してくれたとのことだ。
「それで、なんですけど、僕のダンスパートナーって事前に会うことは可能なのでしょうか。未だに誰なのか分かっていなくて、あ、もしかしてそう簡単にお会いできる立場の人ではないとかですか?」
前を歩く案内人の男性の背中に語り掛けると、歩みは止めずに、顔をこちらに向けて答えてくれた。
「いえ、お会いすることは可能ですよ。ただし、いきなり部屋に訪ねるのは、お相手の都合もありますので先ぶれを出しておいたほうが良いかと。もし必要でしたら私が出しておきましょうか?」
「いいんですか!? ぜひお願いしたいです」
柔和な笑みを浮かべる男性に感謝をしながら、王城にある高価そうな展示品や、中庭の説明を受けていると、いつの間にか俺の部屋に到着したようだ。
あっという間に感じた。あの人話がうまいな。案内人としてこれ以上ない出来だと思う。俺は改めて王城という場所をエリート中のエリートが集まる場所なのだと思った。
部屋について直ぐに出て行った案内人の方がしばらくすると戻って来た。アポをとりにいってくれたのだろう。
「お返事は、『少ししたらいつでも来てもらって大丈夫』だそうです」
「はい分かりました。ありがとうございます。ではそれまで部屋で寛いでおきます」
部屋に備わっていたふかふかのソファの背もたれに、姿勢を崩してもたれかかる。
「と、いう訳にもいかないようで‥‥‥」
背筋を伸ばして、背もたれから離れる。おいおい、どうしたよ。また問題が発生したか?
「何があったんです?」
「ランデオルス様に面会をご希望されている方がございまして、それが第二王子殿下なのですが」
「行きます行きます! ていうか、こちらからお伺いします」
ビックリした。大物中の大物だったよ。ハバールダで療養中にお見舞いに来て、そこで正式に謝罪はしてもらったので確執とかは無いんだけど、向こうは未だに何かと気にかけてくれている。
俺も別に嫌っちゃいない、例の事件は第二王子も俺も等しく、スキルの被害者だ。性根は優しい人なので、そんな人を嫌う理由はない。
俺は急いでソファから立ち上がり、服をパンパンと手で払い皴を伸ばして、鏡で髪を整えて、さぁ行くぞと意気込んで、部屋を出ようとすると案内人の男性がドアの前に立ち、俺の行く手を阻んだ。
「礼服に着替えた方がよろしいかと」
案内人はにこっと微笑んで、ハンガーラックに掛けてある眩しいほどのスパンコールを散りばめられ、肩や膝下に入った切込みがシースルーになっている服を指さした。
もしかしてあれを礼服と呼ぶのか? わからん。価値観が。
「ゑ? あの眩しい奴ですか?」
「いえ、そちらではではありません。その隣の青色で少し控えめのものがよろしいかと」
ホッと胸を撫でおろす。ちょっと恥ずかしくて着れないですよね。あれを来た日には悪目立ちして、後ろ指さされて、後で飲みの席の笑いもの確定だよ。
「あちらは、ダンスの時の服装ですね」
笑いもの確定!
スタスタとハンガーラックに近づいて、礼服をとり、無言で着替えると、案内人の人にニコッと笑いかけ、準備が整ったことを示した。
恥を掻くのは今の俺じゃない。未来の俺だ。なので未来の俺、頑張れよ。俺は覚悟の先送りをすると、案内人についていくように第二王子の部屋を目指した。