「調教師ランデオルス、入場です」
荘厳で人の背丈の三倍はあるドアがゴゴゴと効果音が付きそうなほど重く開いていく。
俺は扉の隙間からだんだんと強くなる光を眺めて、王都に来てからのことを思いだしていた。
馬車で検問を顔パスして、王城に着くまでの道中も街の人に物珍しそうに眺められて、門番には慣れない敬語を使われ、今に至る。
特に思いだすこともないや。街ブラも出来ていないし、なんなら馬車から降りていない。過密スケジュールすぎるだろとも思うが、王様のご意向だもんな、一市民の主張なんて無視して最優先で王城送りになりますよ。
なんてことを考えていると扉が開ききったので、意識を浮上させ、目の前のことに集中する。練習通りに、覚えたとおりに身体を動かすだけだ。
俺は一人でレッドカーペットの上を歩き、半ばまで来たところで片膝をつき、頭を垂れ、向上を述べる。
「王国の太陽であらせられるニガラム・クトゥナリオ・ダイオット=ホワレオナイア様にこうしてお会いできる機会を頂いたこと望外の喜びにございます。ご紹介に預かりました、ククルカ島出身の調教師、ランデオルスにございます」
ここでのポイントは大きな声でハキハキと言う事だ。どもったり、言い間違えをすると最悪不敬罪で首が飛ぶ。いや、怖すぎんだろ。
「面を上げよ」
「ハッ!」
そして一回目ではまだ上げない。
「よい、上げよ」
「ハッ!」
ここで顔をあげる。
「此度は招集申請に応じてくれて礼を言う。今回、このランデオルスを呼んだのは、彼の働きにより、我が愛する家族である、サラブドトール・ダイオット=シェヘインクが命を救われた。そのことに対する褒美を与えるため。では今回の一件の経緯を」
王様が言い終えると、端に控えていた兵士が書状を懐から取り出し、読み上げ始めた。
「事の始まりは、三年前の第二王子殿下の優しさ故でありました。殿下は自分のスキルの抑圧を開放させるために、お一人で療養地であるヒヅメ島に向かいました。その途中自身のスキルの効果により暴れた海洋生物と衝突し、海に流され、息をしていない状態でヒヅメ島に流れ着きました。
そこに現れたのが、当時海竜調教師育成学校の六年生であったミラン氏と、七歳ながら飛び級で四年生のランデオルス氏です。彼らは殿下を救護し、ノミリヤ学園までお連れしようとしました。
しかし、殿下のスキルの解放はまだ完全ではありませんでした。道中魔物に襲われる事態に見舞われました。そこで買ってでたのがランデオルス氏でした。彼は自分を囮にして、殿下をミラン氏に託して逃がしました。
‥‥‥しかし、そこで彼は重体になり、生死の淵をさまよう事三年、見事復活を遂げて、今に至ります。
王国はこれに対し、心からの感謝と、褒美をランデオルス氏に代表して授けたいと思います」
周りの豪華絢爛な服を着飾った方々も、声をだして拍手をしている。照れ臭く感じるが、貴族のことを勉強したので、腹の内ではとか思ってしまう。とりあえず貰えるものを貰ってさっさと退散しますか。
「そなた、ククルカ島出身と言ったな」
「はい」
王様が急に話しかけてきた。あれ? レッスンでは、このまま退出の流れのはずなんだけどな。‥‥‥頼む、早く終わってくれ、習ってない礼儀作法とかあったら終わるんやが?
「ザンキという名に聞き覚えはあるか?」
この国の人は全員がザンキを知っているのか? もしくはその質問をしないといけない法律があるのか? なんにしても改めて父が何者なのか気になる。幼児の俺を熱中症にさせたあの男がねぇ。
「はい、そのものは私の父でございます」
「ほう、父とな。あやつの子だったか。はっはっは、天才の子は神童だったか。調教師には血が関係しているのかもしれんな」
急に高笑いしてきたので、少しビクッとしてしまったがなんて返せばいいのだろうか。とりあえず謙遜しておこう。日本人の美徳は位の高い人に対しては特効だろう。
「もったいなきお言葉。父も喜ぶと思います」
あんまり喋るとボロが出るからね。なるべく短めの言葉で返す。
「して、褒美はなにがいいだろうか。出来る限りのことは王の名において保証してやろう」
おぉ! トロンゼミで習ったとこだ。この場合断るのは逆に失礼になるのでそれなりの者を欲しがること、だったな。そりゃそうかと納得したのは、大きなものでないと、第二王子の命を秤にかけてつり合いが取れずに、命が軽くなっても不敬、褒美が大きすぎても不敬。ということで、先にトロン先生に考えてもらいました。
「ありがたき幸せ。であるならば、ノミリヤ学園に若い海竜を頂戴したく思います。できるだけ調教師として働く場所に近い状態を作りたいのです。本場では若い者と大人になった者がおります、互いが互いを見て成長し合う姿は、海竜の成長に著しく変化を与えます。学園の生徒がよりよい調教師になるための支援を賜りたいと存じます」
本当に俺っていい子だな。くそっ一生遊んで暮らせる金が欲しい!!