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どうどう~王国召喚編Ⅴ~

「ちゃんと説明してよね!」


 説明しようとしたのに、その前に先制で涙をこさえるのはずるいですよ。という事で急いで俺は説明しようとしたが、それを手で制して「自分で説明するよ」とイヴが前に出た。


「僕はイヴライト、ランディの一番の人だよ」


「一番!? ぐぬぬ、私だって負けてないもん!」


 ほ~ら、説明不足。ちゃんと女じゃないって言わないと、男ですって。嫌な予感がしたんですよ、なんか悪ノリするときのしたり顔をしてましたもんね。


「僕はランディのこと、学園に入ったときから知ってて、部屋まで一緒で、寝泊りだってしてるんだからね」


「未婚の男女が、寝食を、共に‥‥‥はは、は、はしたないですわ! そ、そんなの‥‥‥う、うぅ‥‥‥」


 目にため込んだ涙の粒が大きくなっていき、そして肩が震え、今にも心が暴発しそうになっている。


「はい、そこまで」

「いてっ」


 俺はすかさずイヴの頭頂部に軽くチョップを入れる。悪気は無かったんだろうけど、泣かすのは良くない。まぁ、泣くとは俺もイヴも思ってなかったけど。分からないが、この年頃の女の子なんて情緒不安定なのだろう。


 それに溺愛され、何不自由なく育ったんだ。自分の思い通りにいかないときの心の折り合いの付け方なんか知らないだろう。


 何も分かっていない様子のアイシャに事情を説明する。


「イヴは男ですよ。そもそも男女で同室なんて学園が許さないでしょう? ね?」


「え!? うん‥‥‥」


 男と言われてから、イヴの顔をまじまじと見ている。イヴもイヴで照れ臭そうに、罰が悪そうに苦笑した。


「それに過ごした時間はイヴの方が長いかもしれないですけど、出会ったのはアイシャお嬢様の方が先ですよ? 学園に入る前に出会ってるんだから」


「うん‥‥‥」


 まぁ正直出会ってから特に思い出もないけれど、宥めることに成功したらオッケーです。

 少しだけ落ち着きを取り戻したアイシャとは反対に、今度はイヴが驚いたように表情を崩していた。どしたん?


「アイシャお嬢様って、ハバールダ?」


 俺の服の裾をグイグイと引っ張りながらイヴが小声で聞いてくる。どこか焦っている様子に、普段見られない表情が見れて僕は満足です。


 でもそういえば、イヴも貴族なんだっけ? ちゃんと聞いたことないから予想でしかないんだけど苗字あるもんね、ドットヒッチっていう。


「そうだよ」


 にんまり。


 もしかして、お家てきにまずい態度取っちゃったんじゃないですか? イヴさん、知らない人を勝手にイジっちゃだめですよぉ。ぷくく。


 アイシャなら大事にはしないでくれるだろうし、トロンさんが目瞑って知らないふりしてることで確信できる。


「アイシャお嬢様、こちらは僕の友達で、イヴライト・ドットヒッチです。この名前に聞き覚えはありますか?」


「ドットヒッチ? そりゃあ知ってるわよ。魔法の名門じゃない、子供だって知ってるわよそのくらい」


 え? そうなの?


 思わずイヴを見ると、俯いて指をツンツンさせている。


 まじか、そうだったのか。確かにイヴの魔法の練度とか、正直ずば抜けてたもんな。なるほどなぁ~、魔法の名門貴族だったのか。


 前にイヴが海竜の背中に乗って世界を旅したいと言ってたけど、魔法を極めて、冒険者になったほうが世界を周れるのではという事は言わないでおこう。それは無粋というやつだ。



 でも聞きたいこともある。


「イヴは家を継いだりしなくてもいいの?」


「あぁ、それはね、お兄ちゃんが二人いるから問題ないよ。ありがたいことにウチは仲良しだし、特に揉め事もなく決まったかな」


「ほえー、なるほどな」


 それにしても兄二人か。絶対に溺愛されてるな、イヴも。それでお兄ちゃんたちは他の婦女よりもかわいいイヴを見慣れてるから、なかなかいい関係の女性が作れないという悩みを持ってたりしたら面白いな。


 まぁ、そんな物語みたいなこと、ありえな‥‥‥ありえるか。異世界があるぐらいだし。ちょっと今後の楽しみにしておこう。イヴの家に遊びに行ったりしたら、見れるかもね。


 なんて声を潜めて話しているとふくれっ面のアイシャが足をタンタンと鳴らして、存在を主張してきた。


「‥‥‥仲間はずれとか、イケないんだけど! そういうの、良くないんだけど‥‥‥」


 こりゃあかん、本気で泣きそうになってるやつや!


「全然そんなつもりないですよ、ほらアイシャお嬢様も一緒に遊びましょ?」


「うん‥‥‥。あと、敬語‥‥‥」


 それは立場があって無理なんですって。

 トロンに助けを求めるために視線を送ると、耳を塞いで空の彼方を眺めている。助けは無しと‥‥‥。仕事してくれ、お目付け役一号の近衛兵さん。


 仕方なく敬語を外すことにする。


「はぁ、わかりまし、わかったよ。これでいいか? じゃあ何して遊ぶよ」


 俺が敬語を外すとアイシャの顔は一気に明るくなり、本来の溌剌さを取り戻した。


「じゃ、じゃあ! 前みたいに海竜を触らせてほしいの! 前のフォルって子はいないみたいだけど、その子もあなたに懐いてるんでしょ?」


 アイシャのその発言の瞬間、フィオナがずいっと俺の顔の真横すれすれに自分の顔を持ってきて、じっと見てくる。


 まるで「誰だその海竜」とでも言っているかのようだ。


 あんたもかい。

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