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観~王国召喚編Ⅳ~

 遅れながらも授業に参加するために教室に入ると、色んな視線が突き刺さる。気分は動物園の動物だ。そりゃそうか、なんせ3年ぶりに顔を合わせる人もいて、その間に色んな噂が飛びかかったことだろう。


「すみません、遅れました」

「構いませんよ、事情は知ってますから」


 今年の第四学年を担当するのはインパス先生だ。知っている人で俺としてもありがたい。この学校では基本的にその学年を教える先生は固定らしい。なので、俺たちが第五学年になったら新しい先生になるとのだが、言ってもこの関係値の狭い学校では、あらかたの教職員は知っているので、知らない顔の方が珍しいのだが。


 授業は幸いにも数学だったため、聞き逃しても大丈夫な内容だった。歴史や魔法に関しては、自分でもまだまだだと自覚しているので、出来れば皆勤賞でいきたいところ。


 空いてる席を確認し、そこが俺の席だと分かる。


 やったぜ、一番後ろ、窓際の席。主人公席じゃん。強いて悪い所をあげるのであれば、イヴと席が離れていることだろうか。



 そうして、その日の授業を終え、オレガノ先生に第一学年の授業を受けるが、実質雑談だ。俺が教科書を読んで、分からないところや、面白い裏話などをオレガノ先生が話してくれる。


 まぁ、テストをするわけでもないし、流れだけ掴んで、面白いと思えたなら頭が勝手に記憶する。そっちの方が、覚えやすいしね。本当にいい先生だ。


 んで、やってきました。指定された空き教室に。礼儀作法のお時間です。


 部屋に入ると、既にアイシャとトロンがおり、それぞれきちんとした格好をしている。正装と言うやつだろうか、動き辛そうだなと言う感想は喉まで出かかった。危ない。


「やっと来たわね! 遅いわよ!」


 俺を見つけたアイシャが、ずいっと近づいてくる。仄かに香る香水の香りは、あのころと違って女性の雰囲気を感じた。


 そういえば、貴族だもんな。そりゃ美人さんにもなるか。


 この世界では香水は嗜好品だし、貴族はほとんど近親で愛を育まない。その代わり、ドチャクソに綺麗なお嫁さんを設ける。そうして、生まれてきた子は美人美男子になり、また綺麗な配偶者を迎え入れる。正直顔面偏差値は、一般市民とレベルが違う。


 そんななかで、ソーニャは奇跡と言えるんだろうな。と考えていると、頬をぷくっと膨らませたアイシャが不満げに俺を睨んでる。どしたん、話きこか? てか、LINNEやってる? 


「他の女のこと考えてた!」

「考えてないよ。どこでそんな言葉覚えてきたんですか」


 こっわ、女の勘。


「ママが言ってたわ! 今、あのときのパパと同じ顔をしてたもん!」


 領主様、なにしてるんですか。


 トロンさんに助けを求めようとそちらを向くと、我関せずといった風にただ立っている。頼む、こっちを向いてくれ。


 何度もウィンクをして合図を飛ばしていると、折れたようにこちらに助け舟を出してくれた。


「お嬢様、そろそろ始めますよ」


 トロンのその言葉に、不服そうにしぶしぶと俺から離れてトロンに向き直った。


 ピシっと俺も気を付けの姿勢をすると、マナーの授業が始まった。以前にも軽く習ったことがあるが、内容はともあれ、やり方はやはり間違っていると実感した。それほどに天と地ほど受けてて差があった。


 殴られないって素敵なことなんだな。


 しみじみとそんなことを実感しながらレッスンを受けていく。腐っても鯛という訳ではないが、一日の長があるのか、俺よりうまく出来ている。これがなかなかに悔しい。あんな言うこと聞かなそうなのに。


 それに俺が間違いを指摘される度に「私が教えてあげるわ!」と言ってくるあたり、弟かなにかだと思っているのではなかろうか。


 というか距離感が近いから、トロンさんに指摘されそうなものを、案外何も言ってこない。ふむ、実は上の目がない所では自由にさせる教育方針なのだろう。



 そうして、気づけば陽が沈みかけているので今日のレッスンは終了となった。


 あっという間だった。なんだかんだ言って、楽しかったのだろう。終わった瞬間に身体の疲弊に気づいたくらいだ。そういえばこんなに騒がしかったのも久しぶりだ。


 彼女のその明るさは掛け替えのない、彼女の魅力だと気づいた初日だった。



 それからと言うものの、目まぐるしく日々を過ごし、心労こそないものの、体力的に厳しいので、たまにはという事で休みを貰い、フィオナとダラダラ過ごしていると、またもやって来た。


「ランディ! 来たわよ!」


 しかし、タイミングが悪かったようだ。俺の右手側にはフィオナが撫でろと体を押し付け、左手側にはイヴが、それを見てニコニコと笑っていた。


「だだだ、誰よその女!」


 おぉ、まさか本当にこのセリフが聞けるとは思っていなかった。ちょっと感動している。


 イヴはまたかとでも言いたげに苦笑いを受かべ、トロンさんは無表情で静観している。えぇ、俺が何とかするのこれ?


 フィオナさん、なんとかならない? ならないか、そうか。


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